71 / 73
参考文献について
二冊のエリザベート本④
しおりを挟む
本作の参考文献のひとつ、「『エリザベート』 ハプスブルク家最後の皇女」に「まるで見てきたかのような私的な場面の描写」が多いのはなぜか、について引き続き語って参ります。
エリザベート本人やその家族しか知らないはずの場面を、塚本先生はどこから引用したのか、あるいは創作したのか──そのヒントは、「最後の皇女」の参考文献リストの中の一冊、「Kaiseradler und Rote Nelke」に隠れている、かもしれません。
「Kaiseradler und Rote Nelke」──訳すなら「皇帝の鷲と赤いカーネーション」になるでしょうか。前半はハプスブルク家の紋章の双頭の鷲、後半はエリザベートを表していると思われます。著者は、Ghislaine Windisch-Graetz(ジスレーヌ・ヴィデッシュ=グレーツ)。エリザベートの最初の夫と同じ姓であることから分かるように、彼女の長男フランツ・ヨーゼフの妻に当たる人です。そう、エリザベートの義理の娘が、彼女から聞いたエピソード等を交えて綴った伝記らしいのです。
らしい、と断言できないのは、実は私はこの「Kaiseradler und Rote Nelke」の実物を読めていないからです……。amazonで8千円以上と比較的高額なこと、本作「ich rede nichts」は当初は公募を目指して執筆した作品だったため、締め切りまでにドイツ語の文献を読み込む自信がなかったためです。そしてもうひとつ、以下のようなレビューを見かけたからです。
出典の記載が乏しく、良い伝記とは言えない。多くの記述がエリザベート本人との会話に由来しているようだが、事実なのか、エリザベートが息子(フランツ・ヨーゼフ)に話したことなのか、フランツ・ヨーゼフがさらに妻(著者)に話したことなのか、あるいはエリザベートが著者に話したことなのか明確ではない。また、会話と執筆の間にどれだけの時間が経っているのかも明確ではない。
ドイツ語でのレビューだったので、拙訳による要約になりますが。恐らくは個人の評を、完全に信じて良いかも保留すべきでしょうが。このレビューを見てしまうと、小説の参考文献にするには少々頼りないのかなあ、と思ってしまったのです。
でも、「最後の皇女」にはしっかりと「Kaiseradler und Rote Nelke」が参考文献として挙がっています。となれば、「いったい誰が見ていたんだ……?」と思ってしまうようなエピソードの数々は、もしかしたらこの本から引用されていたのではないか、と推理してもそれほど飛躍してはいないのではないでしょうか。義理の娘とのやり取りであれば、場面場面での思いを細やかに語っても不思議はないですし、それらのエピソードを踏まえて(もしかしたら多少盛りつつ)執筆したとすれば、「最後の皇女」の記述がしばしば小説的であるのも無理はない、のかもしれません。
なお、「Kaiseradler und Rote Nelke」の出版は「赤い皇女」の原著よりも後なので、「まるで見てきたかのような私的な場面の描写」が「赤い皇女」には見られないことも一応説明はつくのかなあ、と思っております。もちろん、今回述べたことはすべて私の推測であり妄想なのですけれどね。
本項を書いているうちに「Kaiseradler und Rote Nelke」の内容もやっぱり気になる! と思い始めたので、いずれ折を見て入手&挑戦したいなあと思うものです。
エリザベート本人やその家族しか知らないはずの場面を、塚本先生はどこから引用したのか、あるいは創作したのか──そのヒントは、「最後の皇女」の参考文献リストの中の一冊、「Kaiseradler und Rote Nelke」に隠れている、かもしれません。
「Kaiseradler und Rote Nelke」──訳すなら「皇帝の鷲と赤いカーネーション」になるでしょうか。前半はハプスブルク家の紋章の双頭の鷲、後半はエリザベートを表していると思われます。著者は、Ghislaine Windisch-Graetz(ジスレーヌ・ヴィデッシュ=グレーツ)。エリザベートの最初の夫と同じ姓であることから分かるように、彼女の長男フランツ・ヨーゼフの妻に当たる人です。そう、エリザベートの義理の娘が、彼女から聞いたエピソード等を交えて綴った伝記らしいのです。
らしい、と断言できないのは、実は私はこの「Kaiseradler und Rote Nelke」の実物を読めていないからです……。amazonで8千円以上と比較的高額なこと、本作「ich rede nichts」は当初は公募を目指して執筆した作品だったため、締め切りまでにドイツ語の文献を読み込む自信がなかったためです。そしてもうひとつ、以下のようなレビューを見かけたからです。
出典の記載が乏しく、良い伝記とは言えない。多くの記述がエリザベート本人との会話に由来しているようだが、事実なのか、エリザベートが息子(フランツ・ヨーゼフ)に話したことなのか、フランツ・ヨーゼフがさらに妻(著者)に話したことなのか、あるいはエリザベートが著者に話したことなのか明確ではない。また、会話と執筆の間にどれだけの時間が経っているのかも明確ではない。
ドイツ語でのレビューだったので、拙訳による要約になりますが。恐らくは個人の評を、完全に信じて良いかも保留すべきでしょうが。このレビューを見てしまうと、小説の参考文献にするには少々頼りないのかなあ、と思ってしまったのです。
でも、「最後の皇女」にはしっかりと「Kaiseradler und Rote Nelke」が参考文献として挙がっています。となれば、「いったい誰が見ていたんだ……?」と思ってしまうようなエピソードの数々は、もしかしたらこの本から引用されていたのではないか、と推理してもそれほど飛躍してはいないのではないでしょうか。義理の娘とのやり取りであれば、場面場面での思いを細やかに語っても不思議はないですし、それらのエピソードを踏まえて(もしかしたら多少盛りつつ)執筆したとすれば、「最後の皇女」の記述がしばしば小説的であるのも無理はない、のかもしれません。
なお、「Kaiseradler und Rote Nelke」の出版は「赤い皇女」の原著よりも後なので、「まるで見てきたかのような私的な場面の描写」が「赤い皇女」には見られないことも一応説明はつくのかなあ、と思っております。もちろん、今回述べたことはすべて私の推測であり妄想なのですけれどね。
本項を書いているうちに「Kaiseradler und Rote Nelke」の内容もやっぱり気になる! と思い始めたので、いずれ折を見て入手&挑戦したいなあと思うものです。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
真田源三郎の休日
神光寺かをり
歴史・時代
信濃の小さな国衆(豪族)に過ぎない真田家は、甲斐の一大勢力・武田家の庇護のもと、どうにかこうにか生きていた。
……のだが、頼りの武田家が滅亡した!
家名存続のため、真田家当主・昌幸が選んだのは、なんと武田家を滅ぼした織田信長への従属!
ところがところが、速攻で本能寺の変が発生、織田信長は死亡してしまう。
こちらの選択によっては、真田家は――そして信州・甲州・上州の諸家は――あっという間に滅亡しかねない。
そして信之自身、最近出来たばかりの親友と槍を合わせることになる可能性が出てきた。
16歳の少年はこの連続ピンチを無事に乗り越えられるのか?
来し方、行く末
紫乃森統子
歴史・時代
月尾藩家中島崎与十郎は、身内の不義から気を病んだ父を抱えて、二十八の歳まで嫁の来手もなく梲(うだつ)の上がらない暮らしを送っていた。
年の瀬を迎えたある日、道場主から隔年行事の御前試合に出るよう乞われ、致し方なく引き受けることになるが……
【第9回歴史・時代小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます!】
7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】
しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。
歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。
【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】
※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。
※重複投稿しています。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる