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ich rede nichts(私は語らない)
大罪への弾劾
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……そう、やっぱり正解なのね。言い当てることができるのは愉快なものね。たとえ貴方の目的そのものは、不愉快極まりないとしても。
息子と娘は──知らないことなのね。それは良かった。ただでさえ私の財産の行く末については気に懸けているでしょうに、余計な心配はさせたくないもの。どれだけの人がかかわっているか、そもそもオットー本人が関与しているかどうかも知らないけれど、貴方たちはよその家庭の微妙な事情に踏み込もうとしているのよ。その点も、ちゃんと認識して欲しいものね。
個人の家庭の中だけで済む問題ではない? ええ、私が受け継いだ財産はあまりにも莫大よ。オーストリア・ファシズム時代からナチスの占領時代を通して、危険が迫った友人たちを安全なところに逃し、当座の生活のための援助をしても決して目減りはしていない。恐慌も通貨危機も為替の変動にも脅かされることなく持ちこたえた。貴方はきっと安心して良いでしょう。しかも、お金だけではないわ、この部屋を見渡すだけでも分かる通り、皇室由来の家具や絵画、食器、装飾品に宝石に──金銭的価値に代えることはできない、歴史的な遺物ともいえる品々も私の遺産には含まれるのでしょう。とても個人が管理できるものではない。まして、私の子供たちは政治家でもない平凡な市民よ。ハプスブルクの血を引いてはいても、その立場に相応しい振る舞いなんて知らない。私が、私の判断でそう教育したから。だから、私の遺産を相続したところであの子たちの手に余る。だから──代わりにオットー・フォン・ハプスブルクがしかるべき取り扱いをしてやろう、ということなのかしら。
要は、お前には相応しくないものだから取り上げるということでしょうに、よくも良いことをしてあげる、という顔で頷けたものね! やっと気付いてくれたか、とでも言いたげに! 私が祖父から受け継いだ貴重な品々を保有していることが、貴方たちにはきっと我慢できないのでしょうね。伝統ある一族に背を向けて、君主制を否定する思想に染まった癖に、と。でも、ハプスブルク法が不当だと憤るなら、どうして同じことを私に強いることができるというの? いったいどのような権利でもって、私が正当に相続したお金や品物を取り上げられると思ったの?
償い? 何の? 私が若いころに犯した過ち、すべきではなかった放逸は、裁かれるべき罪だというの? すべて計画通りだと私が語ったのは、強がりかもしれない。本当は、私は常に恋に溺れて愛に目を塞がれていたのかもしれない。でも、どちらにしても恥じ入ることでは決してないわ。今さら信じないかもしれないけれど、後悔していないというのは私の偽らざる本心よ。だから、そんなことは私の弱みにはならないの。たとえ子供たちや母のことを持ち出したとしても。あの子たち本人に責められたのではない、貴方が勝手に代弁したつもりになっているだけなのだから!
そんなことではなく──あら、では、私の罪状は何なの? 裁判にかけられるのは久しぶりね。しかも、理由も知らないままで! オットー・ヴィンデッシュ=グレーツとの離婚の時も私は一方に責め立てられたけれど、反論を用意する余裕くらいはあったのに!
私は焦ってなんかいないわよ。何を言われたところで、私が屈するはずがないもの。離婚裁判だってどれだけ粘り強く、そして毅然として戦い抜いたか話したでしょうに。ああ、焦ったというのは貴方の正体を指摘したことについて、だったの? じゃあ、もう少し貴方を泳がせておけば良かったのね。そうすれば、貴方は自然と私の弾劾を始めて、そしてオットー・フォン・ハプスブルクの名前を出すことができたというのね。
息子と娘は──知らないことなのね。それは良かった。ただでさえ私の財産の行く末については気に懸けているでしょうに、余計な心配はさせたくないもの。どれだけの人がかかわっているか、そもそもオットー本人が関与しているかどうかも知らないけれど、貴方たちはよその家庭の微妙な事情に踏み込もうとしているのよ。その点も、ちゃんと認識して欲しいものね。
個人の家庭の中だけで済む問題ではない? ええ、私が受け継いだ財産はあまりにも莫大よ。オーストリア・ファシズム時代からナチスの占領時代を通して、危険が迫った友人たちを安全なところに逃し、当座の生活のための援助をしても決して目減りはしていない。恐慌も通貨危機も為替の変動にも脅かされることなく持ちこたえた。貴方はきっと安心して良いでしょう。しかも、お金だけではないわ、この部屋を見渡すだけでも分かる通り、皇室由来の家具や絵画、食器、装飾品に宝石に──金銭的価値に代えることはできない、歴史的な遺物ともいえる品々も私の遺産には含まれるのでしょう。とても個人が管理できるものではない。まして、私の子供たちは政治家でもない平凡な市民よ。ハプスブルクの血を引いてはいても、その立場に相応しい振る舞いなんて知らない。私が、私の判断でそう教育したから。だから、私の遺産を相続したところであの子たちの手に余る。だから──代わりにオットー・フォン・ハプスブルクがしかるべき取り扱いをしてやろう、ということなのかしら。
要は、お前には相応しくないものだから取り上げるということでしょうに、よくも良いことをしてあげる、という顔で頷けたものね! やっと気付いてくれたか、とでも言いたげに! 私が祖父から受け継いだ貴重な品々を保有していることが、貴方たちにはきっと我慢できないのでしょうね。伝統ある一族に背を向けて、君主制を否定する思想に染まった癖に、と。でも、ハプスブルク法が不当だと憤るなら、どうして同じことを私に強いることができるというの? いったいどのような権利でもって、私が正当に相続したお金や品物を取り上げられると思ったの?
償い? 何の? 私が若いころに犯した過ち、すべきではなかった放逸は、裁かれるべき罪だというの? すべて計画通りだと私が語ったのは、強がりかもしれない。本当は、私は常に恋に溺れて愛に目を塞がれていたのかもしれない。でも、どちらにしても恥じ入ることでは決してないわ。今さら信じないかもしれないけれど、後悔していないというのは私の偽らざる本心よ。だから、そんなことは私の弱みにはならないの。たとえ子供たちや母のことを持ち出したとしても。あの子たち本人に責められたのではない、貴方が勝手に代弁したつもりになっているだけなのだから!
そんなことではなく──あら、では、私の罪状は何なの? 裁判にかけられるのは久しぶりね。しかも、理由も知らないままで! オットー・ヴィンデッシュ=グレーツとの離婚の時も私は一方に責め立てられたけれど、反論を用意する余裕くらいはあったのに!
私は焦ってなんかいないわよ。何を言われたところで、私が屈するはずがないもの。離婚裁判だってどれだけ粘り強く、そして毅然として戦い抜いたか話したでしょうに。ああ、焦ったというのは貴方の正体を指摘したことについて、だったの? じゃあ、もう少し貴方を泳がせておけば良かったのね。そうすれば、貴方は自然と私の弾劾を始めて、そしてオットー・フォン・ハプスブルクの名前を出すことができたというのね。
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