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ich rede nichts(私は語らない)

「取材」の理由

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 貴方が黙り込んでしまうのを見るのは愉快なことね。愉快だから、少しだけでも笑うことができた。それで……何を話していたのだったかしら……そう、子供たちの話を続けるなら、彼らはお金の心配もしていたわね。父親に似てしまったのかしら、それとも社会主義が怖かったからかしら。私の財産をテロまがいの──あの子たちにとってはね──運動につぎ込みやしないかと怖くてしかたなかったみたい。きっと、貴方も同じことを考えているのでしょうけど。だから、私がどんな暮らしぶりをしているかも、確かめたかったのではなくて? 莫大なはずの財産を、食いつぶしているのではないかと心配だったのでしょう。

 だって、貴方が私に期待していること──オットー・フォン・ハプスブルクの「凱旋」のために私が何をできるかといったら……まずは、何かしらの宣言かしら。六十年以上に渡って斜陽の帝国を統治した、実質的な「最後の」皇帝の孫娘、ある意味ではオットー以上に正統なハプスブルクの血を引くこの私が、「最後の皇太子」を歓迎すると言えば、世論を動かすかもしれないわね。今さら君主制の復活なんてさすがにあり得ないかもしれないけれど、オットーのオーストリアでの活動は、きっと幸先の良いものになるかもしれない。

 でも、こんなに時間をかけたのですもの、貴方の望みはそんな口先だけのことではないでしょうね。何度も言ったけれど、帝国の滅亡から四十年以上経っているのですもの、世間から忘れられかけた、死にかけの年寄りの言葉なんて誰も気にも留めないかもしれない。それも、十分あり得ることでしょう。
 だから、一族の声望を貶めた数々の「悪行」の穴埋めに、オットー・フォン・ハプスブルクに資金援助をしろ、と──そのように、持って行きたかったのではなくて? 帝国の崩壊後、ハプスブルク家の私有財産は没収された。シュシュニックがあのハプスブルク法の撤回をしたけれど、ヒトラーはそんなことを斟酌してくれなかった。あの男は、オーストリアの何もかもを食い尽くして容赦なんてしなかったから。そして独立を取り戻したオーストリア共和国も、シュシュニックの決定は無効との立場を取っているわね。

 ハプスブルク法に屈することで財産を保持したほかの一族のことだったら、オットー・フォン・ハプスブルクは許さなかったでしょう。一族の後継者であるという誇りが、裏切り者に助力を乞うことをさせないはず。でも私ならどうかしら。確かな血筋で、けれど皇室から離れていたがためにハプスブルク法の影響は受けなかった。子供たちとも疎遠で夫も既に亡く、私自身の老い先もとても短い。謹厳実直そのもののオットーからすれば、許容しがたい所業も重ねてきたけれど、それさえも交渉の材料にできるかもしれない。どう、私の推測は間違っているかしら? 貴方は、私に遺言を書き換えさせに来たのではなくて? 皇帝である祖父から受け継いだ財産は、「正統な」ハプスブルクの継承者である者に帰するべきだとか、そんな理屈ではないのかしら? 私が死んでしまう前に話をつけなければ、と。焦ったからこそ、きっと貴方は足しげく通ってくれたのでしょう?
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