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ich rede nichts(私は語らない)
真実か嘘か
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別に、誌名を切っ掛けに疑った訳ではないわ。最初からそうだろうな、と思っていたわよ。国内のことだろうと国外のことだろうと、私は最近の動向によく気を配っていたでしょうに。こんなに老いさらばえても目がまったく見えない訳ではないし、ナチス時代と違って──喜ばしいことに! ──ラジオで何を聞いていても今は罪ではないのですもの。どうして、オットーについてだけは聞き及んでいないと思うことができたのかしら。私のはとこの子、もう数少なくなってしまった、少しだけでも見知っている親戚のことなのに!
状況証拠はいくらでもあったわ。貴方が記者らしくなく、大統領と書記官の会談の取材をしていないようだったこと。ウィーンの地理にも歴史にも疎いようだったこと。話をするうちに、きっとオットー側の人だろうということも分かって来たわ。貴方は私がもとハプスブルクだから批判的なのではなくて、ハプスブルクに相応しからぬ振る舞いをしているのが気に入らないようだと気付いたもの。もと皇帝のカールに対しても同情的だったし、オットーの支援者なら、オーストリア人やウィーン人にも限らないでしょうしね。少なくとも、気軽に訪ねられる範囲にもと皇女が住んでいたから取材をしてみよう、ということではないと察するのも簡単なことよ。私は、勝手な期待をされることにはとても慣れているの。
でも、私が期待に応えてあげるかどうかはまったく別のことよ!
だから私、丁寧に丁寧に伝えようとしたでしょう? 私は帝国時代を懐かしんだりしていないし、君主制を崇め奉ってもいないのだと。かつて帝国の一員だった諸民族が独立して自分たちの国を持ったのは喜ばしいことだし、民衆が総意によって動かす時代は素晴らしいと、伝えようとしていたでしょう? 貴方は気付いていなかったのかしら。それとも、気付いていない振りをしていたのかしら。私に説得する隙がないかを、探ってもいたのでしょうね。貴方の言葉の端々から伝わってきたもの。私の若いころの振る舞いを決して快く思っていないこと、私の最後の夫、愛するゴルディの思想に批判的だということ。過ちの償いをしろという理屈で、私に何かをさせようとしていたのではなくて?
謝罪の言葉なんて聞きたくないわ。正体を隠して近づくなんて──とんでもない無作法、弁明の余地がないことだと分からない訳でもないでしょうに。貴方は、ゴルディの墓参さえ口実にして押しかけてきていたのよ。
それでも私は、自ら語り続けた──本当にそう思うの? 貴方の正体に気付いていたなんて強がりで、本当はずっと、インタビューに答えるつもりでべらべらと得意げに語っていたんじゃないか、って? 私の若いころの過ちを糊塗するように、もっともらしく言いつくろっているのだと、あざ笑っていたのかしら? いいえ、でも、私は何ひとつ語っていないのよ。私は何も語らない(Ich rede nichts)と、最初に言った通りよ。……何のことだか分からない、という顔をしているわね。それとも、この婆さんは頭がおかしくなったのだと思っている? あいにく、私はまったくの正気よ。
まだ分からないの? 鈍い人ねえ。ねえ、私が語ったのが真実だと、貴方はどうして信じたの? 貴方が既に知っていた事実と一致していたから? そうね、少なくとも実際に起きた出来事だけをなぞれば、それも間違っていないわ。でも、その時その時に私が感じたことや、私の行動の動機についてはどうかしら? ほかならぬ私の口から出たことだからといって、本当のことだと言い切れる? ええ、確かに私は当の本人が言っているのだから、と言ったわ。でも、それさえも嘘かもしれないじゃない? 私の顔色や声から本音を読み取ることができるほど、貴方は私を知っているかしら。見透かすことが、本当にできていたのかしら?
状況証拠はいくらでもあったわ。貴方が記者らしくなく、大統領と書記官の会談の取材をしていないようだったこと。ウィーンの地理にも歴史にも疎いようだったこと。話をするうちに、きっとオットー側の人だろうということも分かって来たわ。貴方は私がもとハプスブルクだから批判的なのではなくて、ハプスブルクに相応しからぬ振る舞いをしているのが気に入らないようだと気付いたもの。もと皇帝のカールに対しても同情的だったし、オットーの支援者なら、オーストリア人やウィーン人にも限らないでしょうしね。少なくとも、気軽に訪ねられる範囲にもと皇女が住んでいたから取材をしてみよう、ということではないと察するのも簡単なことよ。私は、勝手な期待をされることにはとても慣れているの。
でも、私が期待に応えてあげるかどうかはまったく別のことよ!
だから私、丁寧に丁寧に伝えようとしたでしょう? 私は帝国時代を懐かしんだりしていないし、君主制を崇め奉ってもいないのだと。かつて帝国の一員だった諸民族が独立して自分たちの国を持ったのは喜ばしいことだし、民衆が総意によって動かす時代は素晴らしいと、伝えようとしていたでしょう? 貴方は気付いていなかったのかしら。それとも、気付いていない振りをしていたのかしら。私に説得する隙がないかを、探ってもいたのでしょうね。貴方の言葉の端々から伝わってきたもの。私の若いころの振る舞いを決して快く思っていないこと、私の最後の夫、愛するゴルディの思想に批判的だということ。過ちの償いをしろという理屈で、私に何かをさせようとしていたのではなくて?
謝罪の言葉なんて聞きたくないわ。正体を隠して近づくなんて──とんでもない無作法、弁明の余地がないことだと分からない訳でもないでしょうに。貴方は、ゴルディの墓参さえ口実にして押しかけてきていたのよ。
それでも私は、自ら語り続けた──本当にそう思うの? 貴方の正体に気付いていたなんて強がりで、本当はずっと、インタビューに答えるつもりでべらべらと得意げに語っていたんじゃないか、って? 私の若いころの過ちを糊塗するように、もっともらしく言いつくろっているのだと、あざ笑っていたのかしら? いいえ、でも、私は何ひとつ語っていないのよ。私は何も語らない(Ich rede nichts)と、最初に言った通りよ。……何のことだか分からない、という顔をしているわね。それとも、この婆さんは頭がおかしくなったのだと思っている? あいにく、私はまったくの正気よ。
まだ分からないの? 鈍い人ねえ。ねえ、私が語ったのが真実だと、貴方はどうして信じたの? 貴方が既に知っていた事実と一致していたから? そうね、少なくとも実際に起きた出来事だけをなぞれば、それも間違っていないわ。でも、その時その時に私が感じたことや、私の行動の動機についてはどうかしら? ほかならぬ私の口から出たことだからといって、本当のことだと言い切れる? ええ、確かに私は当の本人が言っているのだから、と言ったわ。でも、それさえも嘘かもしれないじゃない? 私の顔色や声から本音を読み取ることができるほど、貴方は私を知っているかしら。見透かすことが、本当にできていたのかしら?
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