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運命の出会い

かさぶたを剥がすように

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 でも、そうはならなかったのよ。改めて語るまでもないことでしょう。一九二〇年代から四〇年近く、今日のこの日に至るまでにこの国に、世界にいったい何が起きたのか──貴方だってさすがによく知っているでしょうから。少なくとも一番悪い時期についてだけは、無事に乗り越えることができたと言えるのかしら。この国はいくらかマシな状況になっただけで、世界全体としてはますます先行きが分からなくなっているようにも思えるけれど。いずれにしても、「続き」を話すことは、私にとっては塞がった瘡蓋かさぶたをわざわざ剥がすようなものよ。できることなら二度と思い出したくもないし、まして語りたくないことがいくらでもある。

 分かります、だなんて気楽に言うわ! 貴方はその時代を知らないのでしょうに。気の毒そうな顔をしてみせて、結局、私に口を割らせようとしているのでしょうに! こんな年寄りから、何もかも搾り取ろうというのでしょう! 歴史の真実だとか記録だとか証言だとか──それは、私と貴方がやらなければならないことなの? あの時代を生きた人はまだほかにもたくさんいるでしょうに、どうしてわざわざ私に尋ねるの? 私の生まれによって、見たものや感じたことがどれほど変わるというのかしら。オットーとの離婚が成立した時点で、私は今度こそ生まれた階級と縁を切ることができたというのに! 今になっても、まだ「もと」ハプスブルクだという事実は私につきまとうというのかしら。

 ……どうしても、と言うなら続けないこともないわ。私は、徹底して貴方のような人を喜ばせないと決めているのよ。最初に言った通り、私は貴方が期待するようなことは何も語らない。どうせ貴方のような人たちは、はじめから聞きたいことを決めてからやってくるのよ。貴方の目的を聞かないのは、それが何だろうと私には関係ないし、私の言葉はどのみち良いように使われるのを知っているから。その上で、私は言葉を選んでいるのよ。そんな話でも良いなら語ってあげる。でも、また別の機会に、日を改めなさい。私の本当の夫、愛するゴルディのこと──彼との出会いを思い出したのだもの。せめて今日は、幸せな思い出を味わったままで終わりたいから。
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