1 / 31
序章
犬神の呪い
しおりを挟む
真上家の広い庭の片隅には、古びた祠がある。
大きな池のほとりに四季折々の花が咲く美しい庭に比べると、その祠はずいぶん汚れて、今にも崩れ落ちそうだ。お参りする人がいなくなって、もう長いこと経つからだ。
(ひとりぼっちじゃ、犬神様は寂しいわ……)
祠をほったらかしにする父や母にぷりぷりしながら、宵子は鮮やかな紅い振袖を翻して庭を走る。傍からは、裾や袂に描かれた鞠が転がるようにも見えるだろう。
走るにつれて、宵子の艶やかな黒髪が乱れて、背中に踊る。小さな手に握りしめるのは、お手玉を解いて取り出した小豆がひと握り。神様にはお赤飯をお供えするものだとばあやに聞いたから、その代わりのつもりだった。
祠は、真上家が代々仕えた犬神様を祀るためのものだ。一年の天候を聞いて雨や日照りに備えたり、人に仇なす怪異が出たら退治してもらったり。犬神様のお力のお陰で、真上家は朝廷で地位を得て、富を築いてきた。
でも、それももう昔のこと。徳川の御代が終わって、文明開化の時代になってもう何年も経っている。西洋から進んだ技術が入って来て、古臭い迷信を信じる人はいなくなった。
宵子のおじい様は、犬神様には頼らずに維新の動乱で手柄を立てた。お父様は、そもそも犬神様なんていなかったんだ、なんて言う。
『いないものにお供えをするなんて、無駄なことだ』
宵子が違うわ、と頬を膨らませたり唇を尖らせたりするのを面白がって、お父様はそんな意地悪をする。
(そんなことないわ。犬神様は、いらっしゃるのよ)
お父様もお母様も、双子の妹の暁子も、あり得ないと笑うけれど。宵子にはちゃんと分かっている。見えている。
「犬神様、宵子が参りました!」
息を弾ませた宵子の、高い声が木々の間に響く。驚いた鳥が飛び立って、揺れる枝からはらはらと葉が落ちる。舞い降りるその葉を、尖った耳をぴくぴくさせて振り払う──ほら、犬神様は今日も祠の前で大きな身体を丸めていらっしゃる。
「ご機嫌はいかがですか? 今日はお天気が良いですね! これはお供えです。あの、触っても良いですか?」
祠と同じくらいに古びたお皿に小豆を載せて、宵子は犬神様に差し上げた。ふさふさした尻尾を軽く振ってくださったのはお許しが出たということだから、うきうきとした気分で犬神様の傍に腰を下ろす。生い繁った草は座布団の代わりになって、着物を汚す心配もなさそうだ。
暖かな陽射しに、草の香り。犬神様の毛並みは少し硬いけれど、気持ちよさそうに目を細めて、宵子の膝に頭をあずけてくれるのは嬉しかった。
「暁子にも声を掛けたんですけど、来てくれなくて。祠は汚くて不気味だって──失礼ですよねえ」
犬神様は、その名の通りに子牛くらいに大きい犬、というか狼のような姿をしている。
降ったばかりのまっさらな雪を思わせる白い毛並みは、陽の光にあたると輝いてとても綺麗。宵子が訪ねると目を閉じていることが多いけれど、開けると月のような金色の眼差しが鋭くて、それも綺麗。こんなに綺麗な存在を、みんながいないように扱っているのが、宵子には信じられない。
「宵子がもっと大きくなれば、みんな分かってくれるのかしら。犬神様は真上家をずっと助けてくださったのに、時代が変わったらほったらかしだなんて、ひどいですよねえ」
まだ七歳なのに、宵子はとてもよく口が回る、と言われる。お母様には、時々はしたない、と叱られるくらい。子供だから、夢やお伽話と本当のことの区別がついていないと思われているのだとしたら、とても悔しい。
「暁子もひどいわ。ここが汚いなんて。宵子がお掃除できたら良いんですけど、真上家の娘が箒なんか持つものじゃないって、ばあやが取り上げてしまうんです」
宵子が止まることなく語り掛けても、犬神様は答えてくれない。でも、たぶんうるさいと思っている訳ではないはずだ。尻尾はゆっくりと左右に触れているし、毛が短くてすべすべした額のあたりを撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めているから。
「そうだわ、犬神様! お庭に出て、みんなにお姿を見せてくださったら良いわ!」
犬神様の牙は長くて鋭くて、おじい様の収集している刀のよう。でも、犬神様が宵子に牙を剥いたことはない。お庭で摘んだ花やおやつのお菓子をお供えすると尻尾を振ってくれるし、とても優しい方なのだろうと、宵子は信じていた。──今、この時までは。
「みんな、きっとびっくりするわ。ねえ、その時は宵子を乗せて──」
突然、宵子の視界が暗くかげった。不思議に思って目を上げると、犬神様の巨大な影が太陽を遮っている。
(……え?)
犬神様のお口の中は、真っ赤だった。刀のような牙がずらりと並んでいる。
ウオーーーーァオン
耳に刺さる恐ろしい音は、犬神様の吼える声だった。今まで一度も聞いたことがない、雷が落ちるようにお腹の底まで震えて痺れるような大きな声。
犬神様の前足に突かれて、宵子はあっけなく地面に転がった。そこに、白い巨体がのし掛かる。真っ赤な口が、鋭い牙が、目の前に迫る。
「ひ──」
喉を噛み切られる、と思った瞬間、宵子は小さく喘いで気を失った。
(犬神様。どうして……?)
意識が闇に呑まれるまでの一瞬に感じたのは、恐怖よりも疑問だった。いつも撫でさせてくれていた犬神様がどうして、という。
それに──もしかしたら嫌われていたのかもしれない、と思うと、とても悲しかった。
* * *
宵子は、気が付くと布団に寝かされていた。天井の木目の模様や、視界の端に映る欄間の細やかな細工から、自分の部屋だということが分かる。
(何が、あったの?)
起き上がろうとしても、手足に力が入らなかった。身体が、風邪を引いた時よりももっと熱くて、辛い。燃える炭を押し付けられたように熱い額を拭ってくれるのは、ばあやだろうか。あまりの熱に、目も霞んでよく見えなかった。
(犬神様、は……?)
何があったのかを聞きたいけれど、舌も動かない。ただ、襖越しに、よく知っている人たちの声が聞こえてくる。
(おじい様と、お父様……お母様も?)
おじい様は厳しいお方だけれど、今は特に怒っているようだ。熱でぼうっとする宵子の頭が、険しい大きな声で揺さぶられる。
「宵子を祠に近づけただと!? 弱っているとはいえ犬神がいるところだぞ!?」
「祠が腐って危ないとは、いつも言い聞かせていました! でも、犬神なんて迷信でしょう……!?」
「迷信ではない。今の時代にさほど役に立つものではないが、確かにいるのだ。不可思議な力を持った存在は!」
おじい様は、犬神様がいると知っていたらしい。でも、どうしてこんなに怖いお声なんだろう。何か、とても苦いものを吐き出すような言い方をするのだろう。
「宵子に、何があったのですか? お医者様は、薬も効かない、こんな症状は見たことがないと──」
おろおろとした声で尋ねたのは、お母様だ。
「犬神の呪いだろう。死にかけの獣め、宵子を呪って真上家に復讐したのだ! 長年、祀ってやったのに恩知らずな──供物が絶えれば、遠からず死ぬだろうと思っていたのに。だから祠は朽ちるに任せろと言ったのだ!」
「そんな──」
「お義父様、それでは宵子は助からないのですか!?」
お父様が絶句して、お母様が泣き崩れる。そしておじい様は、相変わらずの厳しいお声で重々しく答えた。
「分からん。だが、幸いにまだ暁子がいる。暁子に婿を取らせれば家が絶えることはなかろう」
布団の中で聞いていた宵子の目を、ひと筋の涙が伝った。熱が辛かったからでもあるし、おじい様のお言葉に胸を刺されたからでも、ある。おじい様は、宵子は死んでも仕方ないと言ったも同然だった。それに、何より──
(犬神様、可哀想。ごめんなさい、真上家が──)
おじい様は、わざと祠を放っておいたのだ。犬神様が、弱って死ねば良いと思っていたのだ。
ずっと大切に祀っておいて、そんな仕打ちを受けるなんて。犬神様が真上家を怨むのも当然だ。だから宵子が呪われても──死んでしまっても。報いを受けるだけだろう。
(でも、犬神様は死んでしまったのかしら)
最後の力を振り絞って、宵子を呪ったのだとしたら。あの真っ白な毛皮に触れることは、もうできないのだろうか。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
知っていたら、ちゃんと謝れたのに。熱に苦しみながら、宵子は胸の中で何度も繰り返した。
大きな池のほとりに四季折々の花が咲く美しい庭に比べると、その祠はずいぶん汚れて、今にも崩れ落ちそうだ。お参りする人がいなくなって、もう長いこと経つからだ。
(ひとりぼっちじゃ、犬神様は寂しいわ……)
祠をほったらかしにする父や母にぷりぷりしながら、宵子は鮮やかな紅い振袖を翻して庭を走る。傍からは、裾や袂に描かれた鞠が転がるようにも見えるだろう。
走るにつれて、宵子の艶やかな黒髪が乱れて、背中に踊る。小さな手に握りしめるのは、お手玉を解いて取り出した小豆がひと握り。神様にはお赤飯をお供えするものだとばあやに聞いたから、その代わりのつもりだった。
祠は、真上家が代々仕えた犬神様を祀るためのものだ。一年の天候を聞いて雨や日照りに備えたり、人に仇なす怪異が出たら退治してもらったり。犬神様のお力のお陰で、真上家は朝廷で地位を得て、富を築いてきた。
でも、それももう昔のこと。徳川の御代が終わって、文明開化の時代になってもう何年も経っている。西洋から進んだ技術が入って来て、古臭い迷信を信じる人はいなくなった。
宵子のおじい様は、犬神様には頼らずに維新の動乱で手柄を立てた。お父様は、そもそも犬神様なんていなかったんだ、なんて言う。
『いないものにお供えをするなんて、無駄なことだ』
宵子が違うわ、と頬を膨らませたり唇を尖らせたりするのを面白がって、お父様はそんな意地悪をする。
(そんなことないわ。犬神様は、いらっしゃるのよ)
お父様もお母様も、双子の妹の暁子も、あり得ないと笑うけれど。宵子にはちゃんと分かっている。見えている。
「犬神様、宵子が参りました!」
息を弾ませた宵子の、高い声が木々の間に響く。驚いた鳥が飛び立って、揺れる枝からはらはらと葉が落ちる。舞い降りるその葉を、尖った耳をぴくぴくさせて振り払う──ほら、犬神様は今日も祠の前で大きな身体を丸めていらっしゃる。
「ご機嫌はいかがですか? 今日はお天気が良いですね! これはお供えです。あの、触っても良いですか?」
祠と同じくらいに古びたお皿に小豆を載せて、宵子は犬神様に差し上げた。ふさふさした尻尾を軽く振ってくださったのはお許しが出たということだから、うきうきとした気分で犬神様の傍に腰を下ろす。生い繁った草は座布団の代わりになって、着物を汚す心配もなさそうだ。
暖かな陽射しに、草の香り。犬神様の毛並みは少し硬いけれど、気持ちよさそうに目を細めて、宵子の膝に頭をあずけてくれるのは嬉しかった。
「暁子にも声を掛けたんですけど、来てくれなくて。祠は汚くて不気味だって──失礼ですよねえ」
犬神様は、その名の通りに子牛くらいに大きい犬、というか狼のような姿をしている。
降ったばかりのまっさらな雪を思わせる白い毛並みは、陽の光にあたると輝いてとても綺麗。宵子が訪ねると目を閉じていることが多いけれど、開けると月のような金色の眼差しが鋭くて、それも綺麗。こんなに綺麗な存在を、みんながいないように扱っているのが、宵子には信じられない。
「宵子がもっと大きくなれば、みんな分かってくれるのかしら。犬神様は真上家をずっと助けてくださったのに、時代が変わったらほったらかしだなんて、ひどいですよねえ」
まだ七歳なのに、宵子はとてもよく口が回る、と言われる。お母様には、時々はしたない、と叱られるくらい。子供だから、夢やお伽話と本当のことの区別がついていないと思われているのだとしたら、とても悔しい。
「暁子もひどいわ。ここが汚いなんて。宵子がお掃除できたら良いんですけど、真上家の娘が箒なんか持つものじゃないって、ばあやが取り上げてしまうんです」
宵子が止まることなく語り掛けても、犬神様は答えてくれない。でも、たぶんうるさいと思っている訳ではないはずだ。尻尾はゆっくりと左右に触れているし、毛が短くてすべすべした額のあたりを撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めているから。
「そうだわ、犬神様! お庭に出て、みんなにお姿を見せてくださったら良いわ!」
犬神様の牙は長くて鋭くて、おじい様の収集している刀のよう。でも、犬神様が宵子に牙を剥いたことはない。お庭で摘んだ花やおやつのお菓子をお供えすると尻尾を振ってくれるし、とても優しい方なのだろうと、宵子は信じていた。──今、この時までは。
「みんな、きっとびっくりするわ。ねえ、その時は宵子を乗せて──」
突然、宵子の視界が暗くかげった。不思議に思って目を上げると、犬神様の巨大な影が太陽を遮っている。
(……え?)
犬神様のお口の中は、真っ赤だった。刀のような牙がずらりと並んでいる。
ウオーーーーァオン
耳に刺さる恐ろしい音は、犬神様の吼える声だった。今まで一度も聞いたことがない、雷が落ちるようにお腹の底まで震えて痺れるような大きな声。
犬神様の前足に突かれて、宵子はあっけなく地面に転がった。そこに、白い巨体がのし掛かる。真っ赤な口が、鋭い牙が、目の前に迫る。
「ひ──」
喉を噛み切られる、と思った瞬間、宵子は小さく喘いで気を失った。
(犬神様。どうして……?)
意識が闇に呑まれるまでの一瞬に感じたのは、恐怖よりも疑問だった。いつも撫でさせてくれていた犬神様がどうして、という。
それに──もしかしたら嫌われていたのかもしれない、と思うと、とても悲しかった。
* * *
宵子は、気が付くと布団に寝かされていた。天井の木目の模様や、視界の端に映る欄間の細やかな細工から、自分の部屋だということが分かる。
(何が、あったの?)
起き上がろうとしても、手足に力が入らなかった。身体が、風邪を引いた時よりももっと熱くて、辛い。燃える炭を押し付けられたように熱い額を拭ってくれるのは、ばあやだろうか。あまりの熱に、目も霞んでよく見えなかった。
(犬神様、は……?)
何があったのかを聞きたいけれど、舌も動かない。ただ、襖越しに、よく知っている人たちの声が聞こえてくる。
(おじい様と、お父様……お母様も?)
おじい様は厳しいお方だけれど、今は特に怒っているようだ。熱でぼうっとする宵子の頭が、険しい大きな声で揺さぶられる。
「宵子を祠に近づけただと!? 弱っているとはいえ犬神がいるところだぞ!?」
「祠が腐って危ないとは、いつも言い聞かせていました! でも、犬神なんて迷信でしょう……!?」
「迷信ではない。今の時代にさほど役に立つものではないが、確かにいるのだ。不可思議な力を持った存在は!」
おじい様は、犬神様がいると知っていたらしい。でも、どうしてこんなに怖いお声なんだろう。何か、とても苦いものを吐き出すような言い方をするのだろう。
「宵子に、何があったのですか? お医者様は、薬も効かない、こんな症状は見たことがないと──」
おろおろとした声で尋ねたのは、お母様だ。
「犬神の呪いだろう。死にかけの獣め、宵子を呪って真上家に復讐したのだ! 長年、祀ってやったのに恩知らずな──供物が絶えれば、遠からず死ぬだろうと思っていたのに。だから祠は朽ちるに任せろと言ったのだ!」
「そんな──」
「お義父様、それでは宵子は助からないのですか!?」
お父様が絶句して、お母様が泣き崩れる。そしておじい様は、相変わらずの厳しいお声で重々しく答えた。
「分からん。だが、幸いにまだ暁子がいる。暁子に婿を取らせれば家が絶えることはなかろう」
布団の中で聞いていた宵子の目を、ひと筋の涙が伝った。熱が辛かったからでもあるし、おじい様のお言葉に胸を刺されたからでも、ある。おじい様は、宵子は死んでも仕方ないと言ったも同然だった。それに、何より──
(犬神様、可哀想。ごめんなさい、真上家が──)
おじい様は、わざと祠を放っておいたのだ。犬神様が、弱って死ねば良いと思っていたのだ。
ずっと大切に祀っておいて、そんな仕打ちを受けるなんて。犬神様が真上家を怨むのも当然だ。だから宵子が呪われても──死んでしまっても。報いを受けるだけだろう。
(でも、犬神様は死んでしまったのかしら)
最後の力を振り絞って、宵子を呪ったのだとしたら。あの真っ白な毛皮に触れることは、もうできないのだろうか。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
知っていたら、ちゃんと謝れたのに。熱に苦しみながら、宵子は胸の中で何度も繰り返した。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
『神山のつくば』〜古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー〜
うろこ道
恋愛
【完結まで毎日更新】
時は古墳時代。
北の大国・日高見国の王である那束は、迫る大和連合国東征の前線基地にすべく、吾妻の地の五国を順調に征服していった。
那束は自国を守る為とはいえ他国を侵略することを割り切れず、また人の命を奪うことに嫌悪感を抱いていた。だが、王として国を守りたい気持ちもあり、葛藤に苛まれていた。
吾妻五国のひとつ、播埀国の王の首をとった那束であったが、そこで残された后に魅せられてしまう。
后を救わんとした那束だったが、后はそれを許さなかった。
后は自らの命と引き換えに呪いをかけ、那束は太刀を取れなくなってしまう。
覡の卜占により、次に攻め入る紀国の山神が呪いを解くだろうとの託宣が出る。
那束は従者と共に和議の名目で紀国へ向かう。山にて遭難するが、そこで助けてくれたのが津久葉という洞窟で獣のように暮らしている娘だった。
古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー。
魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る
ムーン
ファンタジー
完結しました!
魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。
無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。
そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。
能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。
紀尾井坂ノスタルジック
涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。
元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。
明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。
日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
付喪神、子どもを拾う。
真鳥カノ
キャラ文芸
旧題:あやかし父さんのおいしい日和
3/13 書籍1巻刊行しました!
8/18 書籍2巻刊行しました!
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞】頂きました!皆様のおかげです!ありがとうございます!
おいしいは、嬉しい。
おいしいは、温かい。
おいしいは、いとおしい。
料理人であり”あやかし”の「剣」は、ある日痩せこけて瀕死の人間の少女を拾う。
少女にとって、剣の作るご飯はすべてが宝物のようだった。
剣は、そんな少女にもっとご飯を作ってあげたいと思うようになる。
人間に「おいしい」を届けたいと思うあやかし。
あやかしに「おいしい」を教わる人間。
これは、そんな二人が織りなす、心温まるふれあいの物語。
※この作品はエブリスタにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる