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第十八章 帝国大乱。

第361話 帝国分裂。

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    帝国の地方反乱が起きてから一月経過した三の月の五日。

    その間、帝国は兵力不足から手を打てずに、精々が帝都の周辺地域を制圧したのみで、反乱自体は手を打てずにいた。その結果現在の帝国内は三つの勢力が地域に別れて争う形になっていた。


    一つは、帝都周辺と旧ケルン領及び東部の貴族クロームガルド公爵領周辺地域。この地を領する政府派または皇帝派の貴族達。

    二つ目は帝都から西に位置する元貴族領の全て。ここは平民や下級官吏達による反乱で領主だった貴族家はその反乱軍により処刑されたり追放されたりで、領域は広いが統一された政府は無く、幾つかの大きな武装勢力が各地域を占領していた。それら全てをまとめて反政府派または反皇帝派と呼ぶ。

    最後はセイト、ローラン、トングーを中心に南部の海岸沿いの旧サウスラーニ領域だ。

セイトとローランは既に共和国連合として連合して自治を行っていた。しかも、つい最近に一番西にあったトングーを攻略して併合したばかりである。ここは旧サウスラーニ派と呼ぶ。
まあ、ここは私が裏で面倒を見ている訳だが。

    三つの勢力は、それぞれに弱点を抱えており、その弱点の為に統一の為の決定打が無い状態で、現在睨み合っている。

    まず、皇帝のいる帝都を中心とした皇帝派は、兵力において質、量ともに抜け出ているが、巨大都市である帝都を抱えているため食料消費が激しく、常に食料を確保する事が大変であった。その為今ある兵数への食料の供給や資金が追い付かず、中々作戦行動を取れずにいる。また、ケルン領とは分断されていて、時間が経つほどに維持できる兵数が落ちている事である。

    帝都から西側北側の貴族領は、支配地域面積こそ三勢力一だが、それぞれ幾つかの都市を中心とした三つの勢力に別れており、食料については三つの中で一番自給出来ている地域だが、纏まった勢力ではない。しかも、兵は街の元衛兵や守備兵や冒険者、民兵だったりと、統一感がなく、他勢力を攻めるには練度が足りず互いに守るに手一杯の状態だ。

    三つ目は、領域としては一番小さな旧サウスラーニ派のセイト、ローラン、トングーの三都市連合共和国だ。
兵数は三勢力では一番下だが、私が手を貸している関係で、最近は貿易を中心に経済が立ち直ってきており、経済的には皇帝派や反皇帝派に比べても負けない程の収入を見せてきている。実際、手を伸ばして来た他勢力の軍に対して負け無しで拡大中である。少しずつだが、兵数も整い始めて来た所であり、三勢力の中で一番勢いのある勢力だと思う。


    現在、私こと『仮面の魔導師』は、セイトの執務室に、連合政府の首脳を集めて会議中だった。

「さて、先日トングーを併合した訳だが、この地の行政組織は整ったのかなカーマン大統領?」
「はい、報告します。五日前にトングー政府を立ち上げました。市長は元代官家の長男でシュリーマンが就任しています。」
「その人物、能力とモラルはどうなの?」
「安心して下さい。小さい頃からの知り合いですが、真面目な奴ですし、能力も十分です。」
「不正していた者は処分したかい?」
「既に旧政府内の役人の分については終わっています。今は公共機関に手を着け始めました。」
「そうか。徹底的に洗い出す様に。政府さえしっかりすれば、時間はかかっても仕事はきちんと回るし、民達は安心して暮らせるからな。こちらとしても後々困る問題は出てこないしな。」
「お任せください。二回目という事で、大分やり方が分かっていますので。しかし、解っていたことですが、酷いものでしたよ。」
「まあ、帝国が下の者達を自由にさせていたからな。私も何度その事で悪態をついたか。新しい政府に変わる事を民に喜んでもらえる事が、せめてもの気休めだな。」
「はっ誠に。我々も心に刻みます。」
「そうだな。それでだ、これでサウスラーニの西側の都市は取り戻した。地方に散っていた民も噂を聞いて、少しは元の街に帰って来るだろう。漏れの無いように戸籍への登録を進めるように。いいな?」
「はっ。承知しております閣下。」
「うむ。済まないが、マリガンとメーガンを呼んでくれるか?」
「承知しました。」

カーマン大統領が一礼して部屋を出ていこうとした所に、オオガミは声をかけた。

「カーマン大統領。あと少しでサウスラーニは復活する。新しい国としてな。古い体質を捨てて、新しい国を作り上げるために、もう暫くだ。気を抜かずに仕事をしよう。」
「・・・・。」

カーマンは言葉を発しずに、深々と一礼した後、部屋を出ていく。
待っている間、ここ一月の様子を思い出す。

    正直言うと、帝国が現状の様に なる可能性があったのは事前に予想していたが、こちらが予想していた時期よりも早くに帝国は分裂したな。地方から生活苦や貴族の横暴が元で火が着き政府への反抗心から反乱にまでなっている。
いずれにしても、領主を追放または処刑している時点で彼等と帝国政府が折り合う事はない。
どんなに考えても、今の帝国政府が民衆の要求を飲む訳がないからだ。
だからと言って軍で討伐平定するだけの余力は皇帝側にもない。物資や資金的に現状の兵数を維持するだけでも厳しいのである。千、二千の少数なら動かすことも出来るが、万単位の兵士を動かすには、食糧も資金も足りない状態らしい。ウチのハロルド隊長からもそう言った報告が届いている。唯一怖いのはケルンの総督クロームガルド公爵がどう動くのかで、帝国の未来は大きく変わるだろうがね。

    皇帝側につけば、騒乱は内乱に変わり国内は更にボロボロになり再び帝国に再統一される事はほぼ無い。
帝国にとって最悪の将来となる。
    反対に民衆側につけば、帝国を二分した内戦いになる。この場合我々は公爵側について、後押しをすることで戦後の新帝国政府に恩を売ることで、その後の外交を有利にする事が出来るだろう。

    もし、ケルンで独立を選んだ時は、ますます現状が続く事態になるだろう。平民が支配している地域には時と共に街単位の都市国家が乱立して、結局は勢力の大きい所に統合されていくことになるだろう。日本の戦国時代の末期と同じだな。民には地獄が続く事になるな。

    皇帝についても、独立しても民の犠牲は大きい事に変わりない。唯一民衆側について、皇帝側と決戦したとき、帝国は元の一つに纏まるだろう。

    サウスラーニは、兎に角残りの東側二都市を統合して、自力で外敵と戦える体制を作らないといけないな。

    唯一の懸念は、民衆の中から強力な指導者が現れる事だ。この場合は、混乱が長くなる可能性が高くなる。
出来れば避けたい。
それまでにサウスラーニの体制を一日でも早くに整える。そして、秘密裏に公爵と接触して民側の勢力を吸収していくようにけしかける。内乱後にサウスラーニの独立を認めさせる為にも。
場合によっては、私が手を貸してもよい。兎に角、皇帝側が動き出す前に、公爵には決心してもらわないといけないな。

    今後の戦略を考えていると、扉がノックされる。

「どうぞ。」 
「閣下、お呼びとのことで。」

執務室にメーガンとマリガンが連れだって入ってきた。

「二人ともよく来た。実はな。・・・・。」

生き残りを掛けてオオガミは動く。
 
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