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第十七章 転げ落ちていく帝国

幕間97話 ルーナの剣。⑦

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    「はーい、対戦したい人は並んでね。」 

伯爵様、いえ、閣下が大きな声で告げる。

「ひの、ふの、みい・・・と。ざっと十人か。多いね(笑)。誰からやる?」

(トーナメント出場者ばかりの、このメンバーを相手にして、この大したことではない様な言い方。本当に強いのかしら?それとも我々の強さが解ってないのかも?)

そう思わせる笑顔と軽い態度だった。

「俺から、行かせてもらう。」

名乗りを挙げたのは、男子の準優勝者のメイザースさんだ。話に依ると、元冒険者で、名を知られるほど強い戦士らしい。彼も団長や閣下との模擬戦を条件に誘いに乗ったクチらしい。

「いいよ、相手をしよう。武器はこっちに用意した木剣から具合の良いのを選んでくれ。私はこれを使わせてもらう。」

そう言うと、右手にバスタードソードを模した木剣が握られていた。

(あれ?さっきまで手ぶらだったのに、いつの間に持っていたのかな?)

不思議に思っていると、メイザースさんも両手剣サイズの木剣を選んで閣下と距離を取り対峙する。 

「見学者は場所を空けてくれ。レナード、審判を頼むよ。」
「はっ。それでは双方構えて、始め!」

レナード団長の開始の合図と共に、メイザースさんが素早く大きく踏み込んで斜めに切り下ろす。中々の剣速だ。並みの騎士なら避けられずにやられる程に。

「えっ。」

(驚いたわ。アレを軽く回避するなんて。見た目に騙されちゃ駄目ね。)

「メイザースだったね。そんな押さえた剣速じゃ、私には通じないよ。どうせなら、もっと本気を出してくれるかな。」

そう言いながら、無造作に逆払いをして、相手に距離を取らせる閣下。

「これは凄いな。見た目に騙される所だった。閣下、あんた化け物だな。なら、全力で行かせてもらう。ハァッ!」

先程までとは段違いの気合いと踏み込みスピードからそのまま胴を払いに行く。

一瞬、閣下がニヤリと笑ったように見えたあと、姿を見失う。

「何?、いないだと。ぐっ!?いつの間に移動した?」

後ろからの閣下の打ち込みを何とか剣で受け、慌てて間を取るメイザース。

「ほう、流石だね。良くアレを受けたね。それだけでも強さが解るよ。流石に準優勝者だ。期待以上だよ。なら私も少しだけ本気になろうか。」

(ぐっ!何?!本気になるって言った途端に、閣下からとんでもないプレッシャーが。何これ?)

「ふふふ、そうだよな。強さに歳は関係ないよな。強い者が強い。それが真理だよな。今さらながら、実感したよ。行くぜ閣下!」

閣下からのプレッシャーを受けてメイザースさんはなんと笑いながら、自分に言い聞かせる様に言葉を発すると閣下に打ちかかる。
先程までとは、明らかに別次元の動きの速さで、更にフェイントを交えながらの攻撃だ。
閣下はその攻撃を見事に捌いて見せた。

「凄いわね。あの連続攻撃を凌げるなんて、 本当に十五歳なの?」

    隣でボニーが呟いている。全く同感ね。どんな訓練をしたらあの歳で、これだけの強さを得られるのかしら。
暫く打ちあいしていたが、閣下が間を取るために引くと一呼吸してから言う。

「流石だね。このまま戦っていても楽しそうで良いけど、後が支えているのでね。今回はここまでだ。これを受けきれたら、副団長とする。」
「ほう。面白い。あんたの力を見せてみろ。」

閣下の徴発(?)に笑いながら乗るメイザースさん。

「なら、行くよ。」

そう言った途端に、何故か閣下が白く光った様にみえたら、また姿を見失っていた。突然に目の前から消えたのだ。

「がっ!」

閣下の姿を探そうとしたら、メイザースさんが呻き声を上げて右腕を押さえている。剣は足元に落としていた。

(いつの間に?どうやって?)

閣下の姿を見失っているのはあたしだけではないようで、ボニー達も顔を青くして閣下とメイザースを見比べている。

「ねぇ、ボニー。今の見えた?」
「見えなかったわ。ルーナあんたはどう?」
「全然。今思い出したわ。」
「何を?」
「閣下の異名よ。『雷光』ってね。確かにそうだわ。」
「とんでもない人だわね。『雷光』か。フッ、ゾグゾクするわね全く。」
「あたしもよ。世の中広いわ。」

ボニーと話している目の前で、打たれた腕を押さえて踞るメイザースに閣下が、回復魔法をかけている。

(おいおい。あの剣の腕に魔法まで使うのかい。本当に怪物だわね。)

「じゃあ次の人、用意して。」

メイザースさんは、何故負けたのか考えているのか、真剣な顔つきで考えている。

「はーい。次はあたしの番よ。」

次はボニーが木剣を持って前に出た。 

「おや、今度は女子の準優勝者ですか。お手並み拝見だね。」
「見るのは構わないけど、見とれて、一本取られないようにね。」
「そうだね。全くその通りだ。忠告に感謝するよ。」
「・・・・見た目と違って貴方怖い人ね。私も全力で行くわ。」

そう言うと、両手に片刃タイプの細身の木剣を持って構える。

「サーベル?いや小太刀?どちらにしろまた厄介な。レナード審判を頼むよ。」
「はい、では双方構えて。・・・始め!」

    団長の掛け声で二戦目が 始まる。先程までの笑顔とは違う仮面の様な微笑みを顔に浮かべたボニーが、滑るように閣下との間合いを詰めていく。
閣下もメイザースさんとの戦いよりも何故か緊張している(?)みたい。

「うわっ!凄い。あの舞うような連続攻撃の速いこと。しかも途切れないわね。あたしじゃ受けきれないわね、アレは。」

思わず呟く程のボニーの流れる様な連続攻撃を、それでも確実に受けている閣下。まるで剣を持った舞いを見ている様なボニーの攻撃から一旦引いて間を取ると閣下はニヤリと笑ったように見えた。

「剣舞かい。初めて実物を見たよ。あの速さでの連撃はレナードでも苦戦するね。本当に強いや。しかもまだ未完成と見たよ。まだこれから強くなれるね。なら私もそれなりに力を出そうか。」

閣下がそう言うと、先程のメイザースさんとの一戦の時のように、また体が白く光ると、今までとは別人のように動きが素早くなる。

「やっぱり、奥の手を隠していたわね。閣下、貴方のソレは何かしら?」
「何、大した物じゃないさ。私が習っていた剣術を使っただけさ。」
「何て言う流派かしら?」
「誰も知らないよ。大神神刀流なんてね。行くよ。」

途端に緊張した顔を見せ双剣を構えるボニーだが、既にその時には再び閣下の姿は消えていた。

「えっ?!また?」

閣下を見失って、また声に出してしまう。
ボニーも見失ったのか辺りを探ろうとした時には、もう彼女の後ろに閣下はいて、笑い顔で彼女の首筋に剣を突き付けていた。

「嘘っ!いつの間に背後に??ふぅ、とんでもないわね。閣下ぁ~ホントに十五歳?」
「歳の事はお互いに言わない方が良いだろう?(笑)。」
「まぁ、そうなんだけどねぇ。(笑)」

苦笑いしながら、木剣を下ろすボニーがぼやく。

こうしてこの後も、希望者全員と対戦をして行き、その全てに閣下は勝つ。
あたし?勿論負けたわよ。素早さで負けたのは生まれて初めてよ。
団長の言っていっていた通りだった。て言うか、話以上だったな。あんなに強い人がいるなんて世の中は広いわ。親父と兄貴に手紙書こうっと。きっと驚くだろうな。しかもあたしが騎士様になったなんてね。
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