上 下
453 / 572
第十七章 転げ落ちていく帝国

幕間91話 ルーナの剣。①

しおりを挟む
    これは、ルーナの話です。

「やぁっ!」
「まだまだ!もっと動きを早く、左右に動いて!単純な動きでは、相手に読まれてしまうぞ!ほらっ、こんな風にな。」
(ポカリ)
「あぅ。」

    踏み込んで、木剣で突こうとしたルーナに、それを読んでいたのか、サイドステップして突きを避けて、手に持っていた木剣で頭を軽く叩かれ、痛みで木剣を落とし、痛い頭を抱える。

「痛~い。手加減してよね兄ちゃん。」
「馬鹿者。本来戦いに手加減など無いわ。獲物に対して常に全力、相手が例え何者であろうとな。決して敵を侮るような事は有ってはならない。我らは誇り高き狼人族。その長の一族だ。一族や部族の者を守る義務がある。例え女であってもそれは変わることはない。さあルーナ、木剣を拾って兄ちゃんに打ちかかって来い。」
「ううー、十歳の妹にする仕打ちじゃあないよね、全く。いくよ、兄ちゃん。」

落とした木剣を拾い直して、再び構える。

「良し、来い。」
「う~。今度こそ当ててやる。やぁ!」
「ほら、もっと動いて。そら!」
「あぅ。痛ーい。」
「まだまだ甘いぞ。もっと訓練しないと強くなれないぞ。良いかい、世の中には兄ちゃんよりも強い人が沢山いるんだぞ。」
「ううぅ、兄ちゃんのイジワル、バカ、ボッチ。」
「(ピクッ)お前、言うに事欠いてとんでもない事を言ったな。イジワルやバカは、まぁ何とか許すとして、ボッチは許せん。お仕置きだぁ!」
「キャー!(笑)」

剣の訓練だったのが、何故か村中を追いかけっこしていた。逃げるルーナを兄が本気で追い回す様子を見て、村の者は何故か微笑ましく見ていた。

(あ~あ、またいつもの事か。族長の所の兄妹は本当に仲が宜しい事で。)


    七年後の三の月。

    「兄貴、剣の相手をしてよ?」
「スマンナ。この後、婚約の儀式の準備でここ暫く忙しいんだよ。」
「婚約?誰の?」
「俺のだよ!」
「ええ!兄貴が!誰と?」
「お前の幼馴染のタマルとだよ。」
「えっー!タマちゃんと?本当に?」
「ああ。本当だ。お前もそろそろ好きな人見つけろよ。」
「え~。私は好きな人は私より強くないと嫌だな。村で私より強いのは、父上と兄貴しかいないじゃん。無理無理。」
「はぁ~、仕方ない奴だな。そんなに強い奴が良いなら、今度五の月の初めにある、王国の建国祭で行われる武闘大会が毎年開かれているから、お前も出てみろ。強い奴がゴロゴロいるぞ。しかもお前と同じ女でな。俺は二年前に出たが、ベスト四になるのが精々だったな。上位に残れれば、国や貴族家から騎士として勧誘が有るかもしれないぞ。女の騎士は少ないが居ないわけではないからな。ま、試しに一度出てみろ。 」
「うん、分かった。ちょっと腕試しに出てみるよ。でも兄貴、これでボッチ卒業だね。(笑)」
「ふん、何とでも言え。相手がいる者が勝者だ。お前も速くボッチ卒業しろよ。(笑)」
「兄貴のボケー!元ボッチー!」
「ハハハ、何とでも言え。私の勝ちは揺るがないわ。」
「キー、悔しい。  」


一月後の四の月。

「父さん、母さん。兄貴、姉貴、タマちゃん行ってくるよ。ささっと勝ってくるから。」
「ルーナ、よく聞け。我等、狼人族はこのウェザリアでは、始祖王様に仕えて建国をお助けした故に、今のような独立した国に近い形の自治を認められている訳だ。部族の名に泥を塗る様な無様をさらすなよ。」
「勿論です父さん!」
「悪い人には着いていかない様に気を付けるのですよ。」
「はい、母さん。」
「あんた、怪我しないようにしなさいね。」
「有り難う姉貴。」
「ついでに好きな奴見つけてこい。」
「何?何の事だ?まだルーナには早いぞ。ワシは認めないからな。」
「父さん、試合をしに行くだけだから。」
「変な奴に引っかかる前に、早く帰ってこい。分かったな?」
「早く帰れるかはわからないけど、精一杯戦ってくるよ。タマちゃんも兄貴を宜しくね。じゃ行ってくるよ。」

    心配気な父親以外は笑顔で見送っている家族を残して、王都のウェザリエに向かって出発した。


    お祭り前の時期な為か、王都に向かう街道は多くの王都へ向かう人々で混んでいた。
村に来ていて、丁度王都に戻る商人ダンの馬車に乗せて貰っていたルーナは、あと三日で王都に着く距離にある森の中を通る道の入り口付近で、荷台の屋根の上でキョロキョロと周りを眺めていた。そんなのんびりとした日差しの中で、急に耳をピクピクさせると馬車の向かう前方に集中する。
そんなルーナの様子を見て、彼女を馬車に乗せてくれた商人ダンは不審に思い尋ねた。

「ルーナ嬢ちゃん、急にどうした?」
「うーん、前方で誰かが戦っている音がするから。」
「ええ?本当かい?俺には聞こえないが。」
「うん、間違いないよ。でも、変なんだよね。」
「変って?」
「結構な人数が戦っている気配なんだけど、一方的なんだよね。多分襲ってる側が負けている気配なんだけどね。うーん?」
「本当かい?なら、近づいても大丈夫かい?」
「うん。馬車が着く頃には終わっているよ。あっ、言った側からもう終わったみたい。襲ってきていた側の気配が消えたから全滅したみたいだよ。殺気が無くなったからね。」
「へぇー、こんな遠くから良く分かるな。嬢ちゃん腕っぷし、強いのかい?」
「うーん?よく分かんないや。村では三番目に強かったよ。」
「三番目か。微妙だな。」
「微妙なの?」
「一番とかなら分かりやすいんだがね。(笑)」
「あ、道の先にその馬車の列が見えたきたよ。」
「おや、あれは騎士かな?すると馬車は貴族かな。先に通してくれると有り難いのだがな。」

道の先に止まっている馬車の列が見えてきた。
やはり貴族の馬車列のようで、護衛に結構な人数がいるようだ。その後ろから近付くダンの馬車隊。

「あのう騎士様、申し訳有りませんが先に横を通り抜けても宜しいですか?」
「あー済まないが、あと十五分程待ってくれるか。直ぐに我らも出発するから。」
「左様ですか。分かりましたお待ちします。」
「悪いな。」
「因みに、どちらの貴族様の列でしょうか?」
「我らはリヒト侯爵家の者だ。」

    十五人程いる騎士の一団はキビキビと動き、再び隊列を整えて十分程で再出発した。

「おじさん、何だって?」
「ああ、リヒト侯爵家の馬車らしいぞ。」
「リヒト侯爵様と言えば、王弟様だよね。」
「ああ、王族なのに偉ぶらないで、平民に優しい方だ。貴族が皆あの方と同じなら良い世の中なんだがな。ハハハ。」
「おじさん、無茶を言ってはダメだよ。ウェザリアは帝国と比べたらずっと良い国なんだから。」
「まあ、確かにそうだな。にしても、リヒト侯爵家の騎士団は強そうだな。」
「気配だけだけど、凄く強そうなのが一人とあたしと同じ位のが一人で、良く解らないのが一人いるね。」
「え、解らないのって何だい?」
「うーん、多分強いとは思うけど、・・・やっぱり分からないや。」
「まあ、嬢ちゃんが強いと言うならソイツも強いんだろうさ。でも、さすがリヒト侯爵殿下だね。強い騎士を何人もお持ちだ。」
「うひっ!何だ?!今体の中まで見られたような気がした?」

それは、オオガミに〈鑑定〉の魔法をかけられた一舜だった。
本人達は知らなかったが、こうしてファーストコンタクトした二人だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

【完結】転移魔王の、人間国崩壊プラン! 魔王召喚されて現れた大正生まれ104歳のババアの、堕落した冒険者を作るダンジョンに抜かりがない!

udonlevel2
ファンタジー
勇者に魔王様を殺され劣勢の魔族軍!ついに魔王召喚をするが現れたのは100歳を超えるババア!? 若返りスキルを使いサイドカー乗り回し、キャンピングカーを乗り回し!  経験値欲しさに冒険者を襲う!! 「殺られる前に殺りな!」「勇者の金を奪うんだよ!」と作り出される町は正に理想郷!? 戦争を生き抜いてきた魔王ババア……今正に絶頂期を迎える! 他サイトにも掲載中です。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラス転移したが、目覚めたジョブが最弱職だった件~

おさない
ファンタジー
ごく普通の高校生である俺こと観音崎真城は、突如としてクラス丸ごと異世界に召喚されてしまう。   異世界の王いわく、俺達のような転移者は神から特別な能力――職業(ジョブ)を授かることができるらしく、その力を使って魔王を討伐して欲しいのだそうだ。 他の奴らが『勇者』やら『聖騎士』やらの強ジョブに目覚めていることが判明していく中、俺に与えられていたのは『観光客』という見るからに弱そうなジョブだった。 無能の烙印を押された俺は、クラスメイトはおろか王や兵士達からも嘲笑され、お城から追放されてしまう。 やれやれ……ここが死ぬほどやり込んだ『エルニカクエスト』の世界でなければ、野垂れ死んでいた所だったぞ。 実を言うと、観光客はそれなりに強ジョブなんだが……それを知らずに追放してしまうとは、早とちりな奴らだ。 まあ、俺は自由に異世界を観光させてもらうことにしよう。 ※カクヨムにも掲載しています

処理中です...