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第十六章 サウスラーニは面倒臭い。

第353話 セイト解放戦。⑤

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     今回捕まえた敵兵や帝国から派遣された役人達の仕置きを済ませ後をマリガンや新しくメーガンの仲間となった兵達に任せると、領事達が仕事場として使っていた旧サウスラーニ王城へメーガンと私達一行で向かった。

    城の門をくぐる時、横にいるメーガンが突然右の掌で顔を押さえたのが目の端に見えたが、私からは何も言わず、見なかった事にした。

    彼の気持ちが、分からなくも無いからだ。
若くして国軍の将軍に登り詰め、国の為を思って政府に諫言するが、結局煙たがられて地方の守備軍に左遷されてしまう。そして、本人は戦う事なく帝国に国が降伏する事になったのだ。

    それでも、地下に潜り何もない所から地下組織を作って帝国に抵抗していたのだから、その苦労は我々が思う以上だろう。
レナードや許嫁達も分かるのだろう。声も出さずに、肩を震わせて泣くメーガンに声を掛けずにそっとしていたのだからな。

「す、済みませんでした。つい・・・。」

感情の昂りが治まったのか、流していた涙を腕で拭うと、そんな自分が恥ずかしくなったのか、顔を赤らめながら謝ってきた。

「まぁ、人間なら感情が押さえられなくなる時もあるさ。気にするな。」
「はい、有難うございます。」
「落ちついたなら、城の中を案内してくれるかい?ここが、暫くの拠点になるのだからね。」
「はい、お任せ下さい閣下。」

    メーガンに案内されて、城内に入っていく。
    城には掃除や雑用をする下働きのメイド達や帝国からの役人の下で雇われて働く現地職員達などが扉や柱の影から怯えた目をしながら、此方を覗いている。あまり気分の良い物ではなかったが、そこは無視して先に進む。

    城の中の装飾品は総じて派手であり華美であった。所謂成金趣味に私には見えたな。
うちの許嫁達もそう感じたのか、驚くより趣味が悪いと感じているようで眉をしかめている。ソニアなんかはあからさまに顔をしかめている位だから。そうした中を案内されて城の奥に進んでいく。

    「閣下、こちらが謁見の間です。そして、あの王座の奥の扉の向こうがサウスラーニ王の執務室でした。」

    広間の奥に階段状の台を登りつめた上に一際華美な背凭れの高い造りの王座が置かれている。王座の背後の壁には三つの扉が有り、メーガンの説明によると、真ん中の扉が、王の執務室に通じる扉らしいね。
城の探検はまたの機会にして、まずは行政府の掌握からしないと。

「執務室に行くぞ。」
『はい。』

    壁の真ん中にある扉を通り短い通路を抜けると、豪華な扉が突き当たりにあった。開けて中に入ると百畳程もある広い部屋の窓側に、これまたデカイ黒檀の天板の執務机に、これまた見事な細工の施されている椅子。部屋の片側の壁は本棚が並び、サウスラーニ国内の街の地図や曾ての交易先の街や国の産物の資料など、機密文章の束である。また、書棚でない一方の壁には、これまた大きな絵画が飾られており、美術音痴の私から見ても思わずスゲーと思う程の迫力ある絵画が飾られていた。

「ほう、ここも金をかけているねぇ。成金は趣味じゃないんだけどねぇ~。」

思わず皮肉混じりの感想が出てしまった。

「ショウ様!」
「閣下!」

メーガンとセイラから突っ込みが入るが、スルーする。
やはり商人上がりの王様が建てた国だけあるのか、城の中にある調度品はどれも金がかかったものに見えた。

(まぁ、個人的には趣味じゃないけどね。売ったら幾らになるのかな?活動資金に回すか?)

    執務机の前には、これまた見るからに高級なソファーセットが脚の低いテーブルを囲むように置かれていた。
    皆で柔らかなソファーにそれぞれ座り、今後の活動について話し合いを始めようかと思ったが、その時私の腹のムシがなった。思わず顔が赤くなったよ。

    ただ今の時刻は、お昼を過ぎて午後の二時に近かった。
流石にお腹が空いていたので、話し合いは食後という事で、一旦中断して昼食を取る事にした。メーガンが用意させるという言葉を抑えて、この場は私が用意する事にした。

    インベントリィに入れてあった、リヒトの『猪鹿亭』で昔作って貰った一品料理やスープ等を仕舞い込んでいたのを取り出す。
これまでに、スラムの者達に分け与えたり、『仮面司祭』の時に与えたり、魔物狩りの時の食事に使ったりと様々な機会で使用して、品数自体かなり減っていたのだが、まだ残っていた麺料理や肉料理を取り出すとこれまた入れてあった白パンも取り出して小皿に分けて皆で平らげた。

    流石にインベントリィに入れてあった料理だけあり、創ってから半年経っていても作りたての温かいままである。パンも焼きたてのフワフワである。これで非常食は尽きてしまったので、また近日中に補充しにリヒトへ行かないとな。
そんな事を考えつつ、取り出した料理を平らげる。食後のお茶が欲しい所だが、ここは我慢してインベントリィにあった果実水の入った水筒を出して皆で飲み分けた。

    腹も膨れたので、再び会議を再開する。

    「さて、これからの予定だが、先日会った役人の幹部候補を呼び出して明日にも仕事を割り振りするよ。早速仕事をしてもらおう。メーガン頼めるかい?」
「はい、早速今日にも連絡して明日から仕事に着いて貰います。閣下、人事の指示をされますか?」
「いや、私は止めておこう。」
「何故でしょう?」
「人事の指示をすると言うことは、その組織に責任を持つと言うことになる。今後の事を考えると、サウスラーニの者達に自分でやらせるべきだからね。私は所謂独立のために働く傭兵みたいな立場だからね。独立後も別に領地として仕切る訳でもないから。この地の事はこの地で生きていく者が責任を持つ事だからね。」
「正直、私としては閣下に王として治めて頂きたいのですが。」 
「やだよー!そんな面倒臭いのは。今の領地だけでも面倒臭いのに、イーストンの半分も今後は見なくてはならなくなったし、そこに更にサウスラーニまでなんて、この大陸にある国二つを治めるなんて、勘弁してよ全く。」
「フフフ、ショウ様らしいですわ。」
「コーチなら大陸制覇も可能でしょうに。」
「おいおい、お嬢さん達勘弁してくれよ。制覇してその後はどうするんだよ?得た物は手に入れた者が責任をもって治めなきゃならないんだぞ。それこそ帝国みたいに征服しました。民から税を取り立てるだけでした、では国は荒れるに決まっているからな。実際サウスラーニの五都市を見てみろ。治安は最低、役人は不正をしまくり、公共の冒険者ギルドの職員でさえ平然と犯罪の片棒を担いでいる。以前のツールよりも始末に悪い位だ。上が腐ると下もそれに倣う。まあ、これは私達も気を付けないといけないけどね。」
「そうですな。我々も自省しないと、いけませんな。」

私の呟きに、レナードがしみじみと相づちを打つ。

「まあ、そんな話しは取り敢えず置いておいて、セイトの今後の続きだが。治安部隊と防衛兵力は暫く私が指揮権を持つ。実質はメーガンやマリガンが現場で指揮してくれ。政治については、私がこれも暫く統括して起動に乗るまで、チェックする。なるべく早い段階で私が見なくても済むような組織を作る事にするよ。国の体制としては、王が立てられない様なら、有力商人や役人による合議制の共和国制でやるしかないね。トップの大統領は数年毎に商人や役人達の会議での互選で決める。まあ、最初はこちらからの指名で始めるけどね。任期は最大二期八年までかな。どう思う?」

こうして、王様のいない国の説明が続いていく。
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