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第十五章 王都で貴族のお仕事。そして・・・。

幕間79話 とある学生の進路相談。②

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    今日は学校が休日なので、ツール騎士団の訓練を見学に友人のケニーと見に行くつもりだ。
噂によると、他の騎士団からも、ツール騎士団の訓練に参加させてもらっているらしい。親父がそう言っていたな。何人かは、近衛からも参加しているらしい。
しかも毎日と言う程ではないが、辺境伯爵様も見に来るらしい。お話を聞けたらいいな。

    朝飯を食べたあとに、ケニーと集合して、ツール辺境伯爵様のお屋敷に向かう。

    王城からは意外と遠いお屋敷に着くと、守衛の人に誰何すいかされる。

「何者かな?当家に何用かな?」
「俺達二人は士官学校三年の俺がミッシェルでこっちがケニーです。騎士団の訓練を見学したいのです。騎士団の方に取り次いで頂けませんか?」
「なに、見学だと?また物好きな奴が来たな。待っていろ。今聞いてくるから。」

そう言って屋敷の裏に向かっていった。
思っていたよりも早く、帰った来た。

「許可がおりたぞ。今俺が向かった方向に行けば練兵場に着くから、向かうが良い。但し、それ以外の場所には立ち入るなよ。」
『有難うございます。』

    礼を言って、門を通って練兵場に向かう。向かう先から大勢の人の声が聞こえてくる。

    「ほらほらまだ三十分も経っていないぞ。そんな体力で味方を守れるのか?」

とか、

「強くなりたいのだろう?しゃがんでいて強くなれるのか?」

とか、色々と聞こえてきた。
その声の響く元に着くと、多くの騎士が地面に倒れて洗い息をしていた。
立っている騎士達は皆同じ紋章の鎧を着ている。どうやらツール騎士団の騎士達の様である。倒れている中には一人もツール騎士団の騎士は居ないようだ。

「お邪魔します。見学希望者です。宜しくお願いします。」

    貴族服の俺達と変わらない年頃の少年の側に侍っている、見るからに騎士という人が応じてくれて挨拶をかわした。

「ああ、見学者だね。聞いているよ。為になるかは解らないが、参考にしていってくれ。閣下宜しいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。」

    俺達と変わらない年の少年に丁寧な言葉使いをして確認しているのを見ると、この少年が辺境伯爵様の様だ。『雷光』と呼ばれる剣士には見えなかった。
許可が出たことで、頭を下げて礼をする。

    訓練内容は、特別な物ではなく、ひたすら立ち会いをしている。ただし、時間が来るまでぶっ通しで、戦い続けるようだ。一時間も続けると、ツール騎士団以外は、疲労なのか皆倒れ込んでいく。

「どうした?戦場では戦闘時間は二時間や三時間は当たり前だぞ。一時間でへばっていてどうする?立て!立って構えて戦え!」

辺境伯爵様が発破をかける。その言葉を聞いて、何とか立ち上がる他の騎士団から来た参加者達。

「よし、続けろ。この位で戦えない程度なら、自分の命は勿論、知り合いや家族の命でさえ守れずに、殺されて肉の骸となるだけだ。お前達が守れずに死なせてしまう事を肝に銘じておけ。」

(うわっ、キツいこと言うなぁこの人。まぁ、その通りだけど。それにしても、辺境伯爵騎士団の騎士は皆持久力が凄いなぁ。どう鍛えているのかな?)

「そこの二人。見ているだけでは暇だろう?アーサルト、カイリー。この二人の相手をしてくれるか?勿論手は抜くなよ?但し歩いて帰れる位の体力は残してやれ。」
「了解しました。」
「判りました。」

    先日特別講師で見えられた二人が、俺達の相手をしてくれることになった。

    俺の相手は、アーサルト先輩だ。ケニーはカイリー先輩が相手をする。木剣と訓練用の革鎧と盾を借りて先輩に対峙する。

    「お前、本当に強くなりたいなら、卒業したらウチに入れ。ただの騎士になりたいなら他へ行け。ここはな、心の底から強くなりたい人間しか居ないから、半端な覚悟なら止めておくことだ。」
「勿論強くなりたいです。」
「なら、お前の覚悟を俺に見せてみろ。半端な覚悟なら、この場で叩き潰してやる。仕官学校が世界の全てでは無いことを教えたやる。構えろ!」

    何時もの学校の授業の様に盾を前にして半身の構えをする。

「ほう、構えば及第点か。では、行くぞ!」

言葉と共に、打ちかかってきた。

(速い!)

慌てて、盾で受け止める。その盾ごと体を吹き飛ばされる。
何とか、体勢は崩さずにすんだが、一息吐くことも無く次の打ち込みがくる。

「何気を抜いている。戦いの最中だぞ!」
「ぐっ。」

真上からただ打ち下ろす打ち込みだが、剣速が速い。
危うく打たれる寸前で剣で受け止めたとそう思った瞬間に右胴を打たれた。
思わず息がつまり、痛みに踞ってしまった。

「どうした?この位のフェイントに引っ掛かるなんて、実戦ではすぐに死ぬぞ。まぁ、反応はそれなりに良いが、まだまだ訓練不足だな。おや、何を笑っている?まだ元気なら早く立て。」
「ふふふ。嬉しいんてすよ。もっと強くなる余地があることと、もっと強くなれる様に導いて貰える場所があることがね。」
「・・・一つ忠告な。閣下の言葉だが、強くなりたいなら、自分自身で強くなると言う強い覚悟がいる。誰かに強くしてもらうなんて受動的な考えなら止めておいた方が良いな。ウチの騎士団では強くなりたい奴は皆だが、強くしてもらいたいなんて考えている奴は一人もいない。そんな奴は途中でくじけるからな。さぁ、立て。次行くぞ。」

    それから一時間程、休みなく対戦は続いたが、防御をするのに手一杯で、こちらから打ち込んだのは一回もなかった。
隣では、地面の上に大の字で倒れているケニーを見たが、おれ自身も木剣を杖にしゃがみこんでいる。

「ほう、倒れずにいることは誉めてやるが、たかが一時間木剣を振るっただけでこれでは、まだまだだね。まぁ、その気があれば、卒業したらウチにこい。学校でトップだなんて物が全く価値がなく役に立たないことだと、教えてやるよ。」

汗一つかくこと無く、静かな語調で言ってくる先輩を見ながら思った。

(俺よりも動いていたはずなのに、平気な顔をしていやがる。本当に半年まえは同じ学生だったのか?信じられないよな。)

「よし、他から参加の騎士はここまで、お疲れ様。今日はここまでだ。戻ったら体のケアをしっかりしておくこと。でないと明日筋肉痛で動け無くなるからな。ウチの騎士団は引き続き訓練を続けろ。一時間だ。負荷をかけてかかり稽古だ。準備しろ。ほら、寝ている奴はとっとと起きろ。邪魔だ。スタートはライガとボニーだ。準備は良いな。〈マルチロック〉〈グラピティー二G〉。」
『グッ!』

    何やら、辺境伯爵様が呪文を唱えると、皆の動きがゆっくりと鈍くなり、重い荷物を背負っているようにゆっくりした動きになってくる。
側にいる先輩に事情を聴くと。

「先輩、伯爵様は何をしたのですか?」
「ああ、これな。・・・お前、自分の体重が急に二倍になったらどうするよ?」
「ええ?二倍ですか。そんな事になったら、動けないですよ。」
「普通そうだよな。・・・今やっているのは、正にそれさ。・・・俺達でも一時間もやれば、ヘロヘロになる訓練さ。」

そう笑いながら言う。言っている内容と表情が合っていないのだが、何となくそうなる気持ちは分かる。
先輩達は、今でも、強くなれるチャンスを逃すつもりはないのだ。

    騎士団の訓練を最後まで見学して、家に帰った。ケニーは何とか肩を貸しながら家に連れていった。
アイツには、訓練が厳しすぎたかもしれないな。
俺も家に帰ると、親父が仕事から戻っていたが、来年ツール騎士団の募集を受ける積もりだと伝えると真剣な表情で言ってくる。

「本気なんだな?」
「ああ、今日見に行って、余計に感じた。俺は強くなりたいと。只の騎士や兵士ではなく、強者になりたいのだと。確かにあそこの訓練はキツいだろうが、それを乗り越えれば、確実に強くなれると確信したよ。」
「そうか、男手一つでここまで育ててきたが、そろそろ一人立ちか。分かった。覚悟があるなら、好きにしなさい。但し、一人前になるまでは、帰ってくることは許さん。良いな?」
「ああ、勿論そのつもりだ。ツールで生まれ変わる俺を楽しみにしていてくれ。」

    こうして、一人の学生の進路が早くも決まった。
因みに、もう一人は、訓練の厳しさに心が折れたようで、一般的な国軍の兵士になったそうだ。

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