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第十五章 王都で貴族のお仕事。そして・・・。

第321話 クチコミは、ネットよりも速い?

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    日が改まり、今日は一の月の四日だ。昨日は午後にリヒト公爵邸を訪問して、久しぶりにお話や弟君達に剣の稽古をつけて、屋敷に帰った。

    一緒に連れていった、アイリスとアルメイダはシュザンナ奥様に気に入られた様でずっと傍らに置いて、二人に抱きついては顔をスリスリしていたらしい。アイリスが、屋敷に帰る馬車の中で『ホント大変だったわ』と溢していた。

    しかも、申し訳ない話だが、奥様がセイラの幼かった時の服を出してきて、二人に着せ替えして、大喜びだったとか、気に入った服を持っていきなさいと頂いたり、また連れてきなさいとか有無を言わせない迫力で言われた。
勿論返事は『イエス、マム!』だったよ。当然だよね。家庭内強者に逆らうなんて、とてもとても。

    朝食の時に、レナードから食後に話があると言ってきた。

     「さて、レナード。報告があるとかだが、何かな?」
「はい、先日お話のありました、近衛騎士団とリヒト公爵家騎士団とリルムンド辺境伯爵家騎士団との合同訓練の申し込みの件ですが、日程と内容が決まりましたので、ご報告します。」
「ああ、有りましたね。で、日程は?」
「はい、七日にウェザリア王国では教会主催の創世祭が行われ、王国総出で警備等で忙しいとの事で調整したところ、十日の午後一時から行うことに決まりました。場所は王宮内の練兵場で行います。当日は王都に居る騎士団全員と閣下も参加して頂きます。」
「え、私もかい?」
「はい、どの騎士団からも是非との事でした。」
「ん?何だろうね。面倒事の臭いがプンプンするんだけど。レナード、何か聞いてないかい?」
「いえ、特には。只、何故か各騎士団長からの強い要望でして。」
「ふふ、かなり怪しいな。まあ、良いでしょう。十日の午後から予定しておきます。他には?」
「閣下に団員から昨日の午前の国軍との訓練で使った魔法を、騎士団の訓練で、またお願いしたいとの希望が出ています。」
「ははは、物好きな人がいるねぇ。誰だい、酔狂な事を言ってるのは?」
「はぁ、ライガとメイザースですが。かなり効果的な訓練が出来ると申しまして。」 
「わかったよ。一時間限定で負荷をかけてやるよ。」
「一時間だけですか?」
「レナードは知らないんだよな。ライガとメイザースが、練習後意地で立っていた位キツいのさ。一時間以上は体を壊しかねないからね。」
「そんなに厳しい訓練ですか。私にも一度お願いします。」
「フフ、今言った言葉を後悔しないようにね。」

レナードと笑いを交えて、話していると、執務室の扉がノックされて、『どうぞ』と許可すると、サウルが入ってきて、少し慌てている。

    「旦那様、失礼致します。只今、王宮から至急登城せよとの連絡が参りました。兎に角急いで欲しいとの事です。」
「え、何だろうね急に。分かった。馬車の用意をしてくれるか。私も着替えてくる。レナード、先程の話は承知した。また改めて詳しい所を教えてくれるか?」
「承知しました。」

    慌てて着替えると、玄関前に用意された馬車で急ぎ王宮に向かう。

    何時もの応接室に通され座って待っていると、扉から陛下と王妃様とソニアとヘンリー王子が珍しく一家揃って入ってきた。

    立ち上がり、頭を下げて迎える。ヘンリー王子とは意外に面識はなく、遠くから顔を拝見しただけで今回が初対面だ。

    「急なお呼びとの事で、慌てて参上しましたが、何事か急用でしょうか?」
「ああ、辺境伯済まぬな。后がどうしても急いで欲しいと申すのでな。詳しくは后から聞いてくれるか?」
「成る程。王妃様、急のお召しとの事ですが、一体何用でありましょうか?」
「急ぎ呼びつけてしまい、済まぬことをしましたね。実は今朝リヒト公爵夫人から、聞き逃せない話を聞きまして、そなたに確認する為に来て貰ったのです。」
「成る程。して、何をお聞きになられたのでしょうか?」
「うむ、昨日オオガミ殿はリヒト公爵邸に赴いたとか。真であろうか?」
「はい、暇しているから、会いに急いで来なさいと公爵閣下から連絡がありましたので、お伺いしました。」
「うむ。その折りに新作のお菓子を試してもらったと間違いはないかの?」
「ええ。新作の『シュークリーム』を試食してもらい、感想をお聞きしました。」
「夫人が言うには、プリンに匹敵する美味しさだとか。わたくしもその『シュークリーム』なる物を所望します。」

(えええ!マジかよ。昨日の今日でもう口コミで広まっているのか。奥様ネットワーク恐るべし。)

「まさか、シュザンヌ殿には提供して、妾には出せないとでも言われるのかしら?」
「いえいえ、トンでもない。試作した物が僅かにまだありますので、お試し下さい。済みませんが小皿とスプーンをお願いします。」

陛下が両手を打ち合わせると部屋の扉が開き、メイドが一人入ってきた。

「ご用でしょうか?」
「うむ。人数分のお茶と小皿とスプーンを揃えてくれるか?」
「はい、畏まりました。」

一旦部屋から出ていったメイドさんが、暫くして二人連れで、部屋に戻ってきてお茶や小皿の用意をする。一通り整うと、一礼して退室していく。

    テーブルに並べられた小皿にインベントリィから作り置きしてあったシュークリームを一つずつ乗せていく。王妃様とソニアとヘンリー王子は目を輝かせそれを見ている。

「このお菓子の名前は『シュークリーム』といいます。甘さは控えめにしましたが、砂糖を使ったお菓子ですから、沢山食べると太ったりする元になりますから、注意してください。スプーンで食べても良いですが、少しお行儀は悪いですが、手で掴んで齧っても美味しいですよ。お好きにどうぞ。」

そう言って、自分の分のシュークリームを手に取り齧っても魅せる。
サクッとしたシューの歯応えと二種類のクリームのうまさは何度食べても美味しい。紅茶にも合って申し分ない。
あと作りおきで残っているのは、インベントリィに一個だけだ。これは何としても、ビルさんに試食して貰わないといけないので、手を付けずに取って置く事にする。

    以前のクッキーやプリンの事もあり、遠慮や躊躇する事無く全員私と同じく手掴みで噛り着いた。次の瞬間、四人とも笑顔となりニコニコと笑っている。

「むう、旨い!」
「こんなに美味しいお菓子は初めてですわ。」
「ショウ様、わたくしこんなに甘いお菓子は初めでですわ。プリンと甲乙付けがたいですわ。」
「義兄上、義兄上がこれを作ったのですか?」
「あ、義兄上って、それは私の事かな?」
「はい、姉様と将来、ご結婚するのですよね?なら僕の義兄上ですよね?」
「王子、少し気が早いですよ。結婚にはあと三年ありますから。」
「え、まだ早かったかな?義兄上が出来るって言われて、僕嬉しかったから、少し残念だな。」
「そうだぞ。ヘンリー、ツール辺境伯をそう呼ぶのはまだ気が早いぞ。」
「貴方達、今はこのお菓子の話でしょう?少し黙っていてください。オオガミ殿。お聞きしたいのですが、王都のエチゴヤでは、このお菓子はいつ頃販売になるのかしら?」
「えと、これから商会の担当者と相談しますので、早くとも来月中に販売できればと考えていました。」
「そうですか。わたくしも以前のクッキーやプリンの時のように、無理は申しませんが、一日でも早く販売できる様に努力してください。宜しいですね。」

    シュザンナ様同様、王妃様からも、凄まじい目力でのお願いと言うよりも、命令が下った。これは至急ビルさんと相談しなくてはならないね。
いつの時代も甘味については、女性に逆らってはいけないのだと、しみじみ思い至ったよ。
   
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