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第十五章 王都で貴族のお仕事。そして・・・。

第296話 やっと出発、でも『お約束』が?

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    新年の挨拶に王都へ向かう為の準備は色々と忙しく、ツールだけでなくヒラドの街の政治体制を整える事にも時間をとられていた。
    しかし、此方の予想外に、ヒラドの街の良民から協力を申し出られた事でとても楽になっていた。

    私が街の有力者達に持っていた、スメラギ家の承認状とアオイの将軍職放棄の書状が有ることを見せると、不思議な程に騒ぎは落ち着いた。
    また、帝国の占領中に市井しせいに隠れていた役人や将官達が、協力をしたいと申し出てきたのだ。誠に有り難いことだ。

    また、兵に志願する者も増えて現在の兵力は一万に届きそうにまでになった。
それらの者達を取り込んで、なんとか役所を稼働させた訳だ。

    軍については、ムラマサをトップに、部隊千人ごとの隊長を決めたが、組織化はまだまだ出来ていなかったので、取り込んだ将官達を力量に応じて、配置した。

    現在は、部隊としての練度の向上と部隊間の連携の訓練を積んで集団戦闘が出来るようにさせている。

    年明けの二の月にはオウミかミカワへ奪還の兵を向けることにしているので、自分達の祖国を帝国から取り戻す為に、こちらも熱のこもった訓練をしている。
相手の兵力を考えれば、まず負けることは無いだろう。

    ツールについては、役所は仕事の軌道に乗り、特に気を付ける様に伝えたのは、治安についてで、周辺街道の巡回と最近また増えてきた流民の流入による、治安悪化の防止と結構細々と注意点を伝えた。オルソン卿も顔をひきつらせながら、指示を受けていたな。

    レオパルド卿には、今年度の決算報告を作成の準備をするように頼んだ。月々の報告では黒字だと聞いてはいるが、トータルの数字の変化を見ておきたいからね。
ちなみに、私自身の所持金は現在、白金貨でざっと八千五百枚だ。金貨はざっと五千枚といったところだ。イーストンの領事が貯め込んでいたのと、盗賊のアジトから回収した金額が、意外に多く、一時は独立運動の投資で白金貨は六千枚まで減ったが、解放の為の投資で使った額よりも多い金額が戻ってきたな。まあ、イーストンにはもう少し投資をしないといけないだろうけど。

    アルトリンゲンには兎に角、流民の戸籍化とツールでの職業の斡旋と定住化を進めることだ。特に小売業や各種職人、サービス業等の経験がある者は、安い金利で起業を促す様に指示する。
また死んだ住人の戸籍からの抹消も忘れるなと伝えた。これは財務部との連携で、毎月の人頭税の徴収時に家族構成に変わりないかを確認して貰うようにした。

    とにかく、人口が三万人を越えてきて、しかも増加率が衰えることなく人口が増えているのだ。忙しさは三部所の中では一番民政部が忙しいだろうね。

    最後にハザル卿には、行政トップとして統括と監査を、つまり組織の引き締めを頼んでおいた。

    サウスラーニについては、ツールに戻ってから、本格的な行動を開始するとメーガンとマリガンの二人に伝えてあり、引き続き兵力と独立後の政治を行える人材の確保を頼んでおいた。出来ればサウスラーニはイーストンみたいに、独立後の面倒を見ないですむ様にしたいものだ。と言うよりも、あそこは面倒を見たくないな。

    ざっとこれまでの様子を語ってきたが、私自身は今どうなっているかと言うと、前に改造する為にジンテツ親方に出していた馬車三台に乗り込んで、五十人の選抜された騎士団員に囲まれてツールから出発して二日目の朝である。

    今回の旅用に新たに買った、屋外用の魔道具の大型コンロと騎士団でも使う大型の寸胴とフライパン等の調理器具で、具沢山のシチューと白パンで朝食を取った所だ。さすがにこの時期は寒い為、シチューの温かさが見に染みたねぇ。

    既に馬車に分乗してこれから山越えをして、リヒトの街へ向かう所だ。山の手前までの自領は自慢だが綺麗に舗装された石の道のため、ここまで一日で到達出来たよ。
    だが、これからは未舗装の道が王都まで続くので、これまで程はスピードは出せなくなる筈だ。まあ、改造した馬車の性能に期待したいものだね。
出来れば、今日中にリヒトまで着きたいものだ。

    馬車には外に〈レジスト・コールド〉内部に〈レジスト・ファイア〉を三台に付与して、馬車の中には、座席の下の部分を改造して石製の火鉢が入れられる様に固定して貰い、火鉢の中には錬金術魔法で〈加熱〉を付与した石をいれてあり、座席や車内を暖める様にしてある。その為にかなり中は暖かいのだ。女性陣には、この仕掛けは好評で、冷えで辛くなくて助かると言っている。夏用にクーラーも考えないといけないな。まあ、また暑くなって来た頃に考えようかね。

    現在、私が乗っている馬車には私とアルメイダとサウルが乗っている。そしてアルメイダは座席が暖かい為か、〈シェイプチェンジ〉で小虎になっており、暖かい座席の上で、のぺーと体を伸ばしている。全く羨ましい限りだね。さて山道に早速入ったのか、先程から道がガタついているようだが、中の揺れはさほど感じない。流石はジンテツ親方だ。
ビルさんの話によると、早くも、話を聞いたリヒト公爵閣下から一台注文を頂き今月半ばに納品したそうだ。好評であれば、友人知人にも紹介しようと、言ってくれたようだ。有り難いね。王都で会ったらお礼を言わないといけないな。

    あれこれと考えてしまうのは、手元にある厚い報告書を読むのに、飽きてきたから何だけどね。新年の挨拶の手順や親国王派の貴族の情報とか王都に着くまでに、内容を把握しておかなくてはいけないと、サウルからも釘を刺されているのだよ。
    他に領地の各部署に詳しい数字で報告書を頼んだのは、自分なので、自業自得なわけだが。どうも、暖かい事もあってか眠くなってきたよ。アルメイダは既に寝ている。こんな時こそ、『お約束』がある事が多いからね。寝る前に確認だ。

「〈マップ表示・オン〉。〈サーチ・この車列に敵対心を持つ者〉。・・・おや?」

    マップ上に赤い光点の集団が現れた為、いきなり目が醒めたな。

「如何しました旦那様?」

私が声を上げた為か、サウルがどうしたかと聞いてきた。

「いや、この近くに襲撃者がいるようだね。反応が有って、驚いてついね。さて、何者かな?〈鑑定・赤い光点〉。」

(鑑定結果・指定の赤い光点は、帝国からの刺客です。帝国の情報部の暗殺部隊五十人です。毒を使って来るので注意よ。まあ、貴方の敵じゃ無いけどね。)

「まあ、この位なら任せるか。毒対策はしないといけないが。・・・レナード!」

馬車の窓を開けて、先頭を行くレナードを呼ぶ。
乗馬したまま、馬車の横に乗り付けてくる。

「閣下如何しました?」
「この先に、帝国の暗殺部隊が五十人待ち伏せしている。始末してくれるかい?」
「はっ、お任せください。」
「毒には気を付けてね。耐毒と矢避けの魔法をかけるけど、暗殺者相手だから気を抜かないように。良いね?」
「お任せ下さい。それで、待ち伏せ場所はどこで?」
「どうやら、峠で待ち伏せしているようだね。〈サーチ・ツール騎士団員〉表示青。〈マルチロック〉表示青〈エアカーテン〉。〈マルチロック〉表示青〈レジスト・ポイズン〉。よし、レナード行け!」
「はっ!」
「旦那様、大丈夫でしょうか?暗殺部隊などと。」

サウルが心配顔で尋ねてくる。

「安心しろ。家の騎士団なら五倍の敵でも勝てるさ。安心して任せなさい。」

あまり、荒事に慣れていないのか、サウルは心配顔を改めるまでいかないようだな。

    一方レナードは、一旦馬車を止めると、部下達に事情を話し、迎撃の準備を整える。私の方でも、念のためにいつでも倒せるように準備をしておく。

「〈マルチロック〉表示赤。」

    準備は整った。待ち伏せの暗殺部隊の場所まで、あと少し。なかなか平穏無事に王都へは、辿り着けないようだ。平和が一番なんだがねぇ。
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