上 下
361 / 572
第十四章 イーストン解放編

幕間70話 ある狐幼女の絵日記。①

しおりを挟む
    これは、仮面司祭によって、救われたある獣人母子のその後である。

    「お母さん、行ってらっしゃい。」
「養護院の先生たちの言うことをしっかり守るのよ。」
「うん、わかった。」

    私の名前はネル。今年で八歳です。お母さんは、キリです。お父さんは私が二歳の時に冒険者っていうお仕事をしていて、そのお仕事の最中に死んでしまったそうです。
小さい時だったので、お父さんの顔は覚えていないの。

    私達は、現在町の城壁の中にある、お家に住んでいます。ちょっと前までは、城壁の外にあったテント村に住んでいました。

    お母さんは、その時は大きな怪我をしていて、熱を出し寝込んでいました。元々は町からずっと南にある村から、この町の噂を聞いてお母さんと一緒にやって来ました。

    お母さんは、この町は今景気が良いから、お仕事があってお金を稼げると言って、村を出てきました。
景気ってなんだろう?お母さんに聞くと、町全体が賑やかになっている事だと笑って教えてくれました。

    ただ、この町に着く直前に、お母さんが狼に襲われた私を助けるために、右腕を噛み千切られてしまい、町に着いて直ぐに熱を出して寝込んでしまいました。
私一人では食べ物も用意出来ません。お腹が空いていたけど、お母さんの看病もしないといけないので我慢していました。そんな日のことです。

   「私は修行の旅をしている正神教の司祭です。このテント村の中で怪我や病気、何らかの理由で体が欠損している者がいるなら、私の所に連れてきなさい。動けないようなら私をその者の居る場所に連れていきなさい。神のお慈悲で全て治療して差し上げる。勿論、お金は一切いらない。私の信仰の為の修行なのでな。誰か困っておる者は居らぬか?」

    テントの中で、お母さんを見ていたら、テントの外でそう叫ぶ男の人の声が聞こえた。何事かとテントの外に出ると、教会の人が着ている服を着た人がこちらに背中を見せながら大きな声を出しているの。お母さんを治して貰えるのかな。お金ないけど、診てくれるってさっき言っていたし、頼んでみよう。

    「司祭様。本当にお母さんの病気治してくれるの?」

    振り向いた司祭様は白い仮面を被っていました。わたしビックリしてしまい、思わずすくんでしまいました。でも、お母さんを治してもらいたいので、怖いのを我慢してお願いしました。

    「ああ、任せなさい。お嬢ちゃんのお母さんはどこかな?」

    しゃがみ込んで、そう私に聞いてきたので、お母さんが寝ているところに案内したの。

    テントの中に入ると、司祭様は周りを見回し、何か呟くとテントの中がいきなりピカッて光って驚いたよ。
それからお母さんの寝ているベッドに近付いて、また何かブツブツ言うと、今度はお母さんの右腕がピカピカ光出して、眩しかったです。
何度か光った後に、一番眩しく光った後に、顔色が良くなったお母さんが二日ぶりに目を覚ましたの。

「お母さん!お母さん!」
「・・・・ネル?!え、貴方は誰なの?どうしてここに?」

お母さんは目を覚ましたけど、私を背中に庇って司祭様に聞いていたの。

    「私は正神教会の者だ。修行の旅をしている。この町に着いたのでな、修行の治療行為を行っている。お前の娘がお前を治して欲しいと私に訴えたのでな、治療を施した所だ。あのままでは、腕の怪我の毒によって熱を出して死んでいただろう。」
「え、腕?!あああ、私の腕が元に戻ってる!」
「お母さん、治ったの?」
「ええ、ええ。お母さんの怪我は治ったのよ。」

良かったよ。お母さん治って。自然と涙が出てきた。お母さんと抱き合ってよろこんでいた。

    「お母さん。腕は治ったが、体力が落ちているし、娘さんを見ても、食べてない様で、栄養が足りていないようだ。この紹介状を渡すので教会に行き司祭殿に見せなさい。こんな不衛生なテント暮らしではなく、住まいも仕事も紹介してもらえて子供の面倒も見て貰えるようになる。あと、暫くの間の生活費にこれも受け取りなさい。」

司祭様はそう言って、紹介状と袋を渡してきた。

    「治して貰うだけでも、ありがたいことなのに、このお金は受け取れません。」
「これは、たまたま神のお情けが下された物だと思いなさい。貴女はこの子をしっかりと育てる使命があります。その為のお金です。遠慮無く受け取りなさい。」

司祭様は、そう言ってお母さんに袋を握らせていたわ。
お母さんは、まるで神様にお祈りをするように司祭様を拝んでいたわ。どこから出したのか判らないけど、肉串を一本ずつ出して、お母さんと私に渡してくれたの。
今まで食べた中で、一番美味しかったです。

その後も、司祭様は同じテント村の人達を次々に治して行ったの。

怪我や病気をしていた人全てを治して、町の中に戻られて行ったわ。
その日は、町ではお祭りだったみたいで、お母さんと久しぶりにお腹いっぱいになるまで食べ物を食べました。

    何日ぶりかな。お母さんから、あの司祭様に感謝しないとねと言われました。明日、教会に渡された手紙を持って行くとお母さんが言うので、あの司祭様に会えるかな。お顔は仮面で分からなかったけど、声は優しいお兄ちゃんだったな。また会えたら、お礼を言わないとね。結局私、あの後に『ありがとう』って言えなかったから。今度は忘れずにキチンと『ありがとう』っていうんだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

【完結】転移魔王の、人間国崩壊プラン! 魔王召喚されて現れた大正生まれ104歳のババアの、堕落した冒険者を作るダンジョンに抜かりがない!

udonlevel2
ファンタジー
勇者に魔王様を殺され劣勢の魔族軍!ついに魔王召喚をするが現れたのは100歳を超えるババア!? 若返りスキルを使いサイドカー乗り回し、キャンピングカーを乗り回し!  経験値欲しさに冒険者を襲う!! 「殺られる前に殺りな!」「勇者の金を奪うんだよ!」と作り出される町は正に理想郷!? 戦争を生き抜いてきた魔王ババア……今正に絶頂期を迎える! 他サイトにも掲載中です。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

処理中です...