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第十四章 イーストン解放編

第261話 食べ歩きと仮面の司祭の臨時出張。

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    「ショウ兄ちゃん、あれを食べたいにゃ!」
「お、あれは肉串の屋台だな。リヒトの屋台並みに旨いといいなぁ。しかしアルは肉串が好きだなぁ。(笑)」

    そう笑いながらその屋台に向かう。祭りという事で、どの屋台も盛況である。屋台裏に設置された共同のイートインコーナーには、椅子に座り買った食べ物や飲み物をテーブルに並べて楽しんでいる大勢の町の人々が目に映る。
    中には、まだ午前中なのに既に祝杯を挙げている、冒険者や港湾労働者だろうか、体のゴツイオッサンや兄ちゃん達が屋台の食い物をツマミにして歓声を上げている。

    大声で笑い楽しそうな、そんな様子を見ると、自分が酒に弱いことが残念で羨ましくて仕方なくなるよ。
何とか酒に対する耐性をつける練習をしてみるかな。
あまり個人的な希望で神様に頼るのも、前にダメと言われているからなぁ。

    まずは果実水みたいに、水で薄めたワインから始めてみるかな。炭酸水を錬金術でつくって、それを合わせても良いかも知れないな。将来ブランデー作った後に、ハイボールとかにも転用出来るしね。

    列に並びそんな事を考えながら順番を待つと、やっと順番が回ってきた。

    「店主、肉串を六本くれるかな?」
「はい、ええ?ご領主様?家なんかの物を食べて宜しいのですか?」
「店主、ちゃんとした売り物なんだろう?(笑)」
「も、勿論でございますです。」
「なら、自信を持って私に商品を売りなさい。私も元は冒険者だ。屋台の飯には慣れているよ。」
「は、は、はい。では少しお待ちくださいです。」
「ただの客だからさ。そんなに緊張しなくて良いよ。(笑)」

    緊張しまくっている店主の気を和らげようと思い気軽にと声をかけたが、それに対してソニアが、突っ込んでくる。

    「ショウ様、いくらショウ様がそうは言っても、領民が領主に対して気軽に話しかける事は出来ませんわよ。」
「ふぅ。堅苦しい身分になったものだな。ヤダヤダ。」

    屋台の店主が恐縮しながら焼けた肉串を差し出してくる。代金を多めに払い、恐縮している店主を後に移動する。

    屋台から離れて、次は飲み物が欲しくなり飲み物を扱う屋台を探す。

    見つけたのは、ワインをグレプの果汁で割ったワイン風味のグレプジュースだった。他に果実水も売っていたが、この時の私は祭りと言うことでやはりどこか浮かれているようだった。

    少しなら大丈夫だろうと、一杯分だけ買い、一気に飲み干すような真似はせずに、ジュースをチビチビと舐める様にして飲む。念のために、倒れないようにイートインの椅子に座って、皆と一緒に屋台で買った食べ物を広げて食べている。

    ジュースを一舐めして、自分の体調を確認する。勿論、ユニークスキルの『状態異常完全無効』を強く意識しながら様子を見る。 
そうすると、飲み込んだジュースが胃の辺りを一旦カッと熱くさせるが、時間と共に胃に感じた熱をすぐさま、元の状態に戻していくのが感じられる。

    (お、これはスキルがキチンと働いているのかな?)

    引き続き、舐める量を少しずつ増やして行く。
増やした分だけ、元に戻るのに時間が掛かるが、同じ量を何度も舐めていると、回復するまでの時間が短縮されていくのが分かる。
    まだまだジュースに近い状態の微弱なアルコール飲料だが、以前のようにいきなり倒れることはなく、慣れれば慣れる程に『状態異常完全無効』のスキルが働く様になってくるようだ。
どうやら、このスキル、一度は状態異常にならないと、そのタイプの抵抗力が高くならないようだ。初めから全ての状態異常に対して強いという訳ではないようだ。
つまり、アルコールに強くなるには、少しずつ飲んで鍛えないといけないようだね。

    まあ、神様のじいちゃんに頼む羽目にならなくてよかったよ。これで将来酒が飲める目処がたったのだから。これからは、寝る前に少しずつグレプのジュースで割ったワインに慣れる様にしていこう。
そう、胃の辺りが熱くなったのが元に戻って行くのを感じながら、ニヤリと笑っていると、ソニアがその顔を見て聞いてきた。

    「おや、ショウ様。何かお笑いでしたが、嬉しい事でも有りましたので?」
「ええ、ご存じかも知れませんが、私はアルコールが苦手だと思っていたのですが、どうやら、ほんの少しずつなら、体が慣れていくらしく、大丈夫だと判ったもので、嬉しかったのですよ。」
「お酒の事ですか?わたくしも、まだ未成年ですので、普段嗜む事はしておりませんけど、来年はわたくしも成人を迎えますし、そうですわね。少しは嗜める様にならないといけませんわね。」
「ま、慌てずにお互い慣らしていきましょう。勿論、貴女は成人に成ってからですがね(笑)。」

    その後、皆で町中をブラブラと周り、昼近くになって、一旦屋敷に戻る。

    昼食の時間となる。午前中に屋台の物を食べた為か、昼は軽くで済ませたよ。
    この後、教会の様子を見たあとは、ふと思い付きで仮面の司祭の臨時出張でもするかと思い付いた。
その為に、ソニア達見物組の護衛に騎士団から人を出して貰うことにした。女性ばかりなので、念の為だね。

    昼食後は真っ直ぐに教会に向かい、司祭様にまず話を通す。見物組は既に別行動で、それぞれ行きたい場所に散って行った。

    「これは、オオガミ様。お久しぶりにございます。今日は如何なさいましたか?」
「司祭殿、最近は中々訪問する機会が無くて、色々と町の事でお願いしている身としては、報告書を見ているだけでなく、直接伺って色々とお聞きしたいと思ったのと、スラムは減ったとはいえ、最近は新しく流入してくる人々も多いと聞きます。新たにスラム化している場所などありませんか?」
「そうですな、・・・これは、聞いた話なのですが、南門の外側の外壁沿いに戸籍に無登録の者達がテントを張るように最近なりだしたとか。収入が僅かなため、他の街と同じに思い、人頭税が払えないと思い、壁の外で暮らし出した様ですな。オオガミ様、憐れなこの者達、何とかなりませんか?」
「そうですね。人頭税自体はウチは他の街よりもかなり安いので役所の者に一度出向かせて、説明と戸籍の登録についても、誤解がないように話をさせますか。」
「お願い出来ますでしょうか?」
「分かりました。手配しますね。それでそのテント暮らしをしている者達、重大な怪我や病の者達とかいませんか?」
「そうですね。病人ばかり居るとは聞きませんが、移動してくる間に色々と怪我をしたりとかは聞きますな。それと、獣人族が何故か多いらしいですよ。」
「そうか、なら久々に仮面の司祭が町にやって来るようにしますか。司祭殿、すまないが、何時ものように、知らない事にしてくれるかな?」
「使徒様の想いのままに。」

    胸の前で聖印を指で切り、神に祈りながら、司祭は答えた。

    早速、教会の中で人知れずに白い司祭服に着替えて、祭祀用の白い仮面を着けて、教会から出て南門を目指す。
    門へ行く途中で以前私がスラムで治療した者なのか、私の姿を見るなり、両手を組み祈りを捧げてくる者がいたのには驚いたね。まあ、周りはそれを驚いて見ていたがね。

    南門を抜けて壁沿いに西側に向かうと粗末なテントの群れが見えてくる。

    テント村は、予想よりも数が多く、実際目で見ないと、実情は分からないなと改めて思ったよ。

    「私は修行の旅をしている正神教の司祭です!このテント村の中で怪我や病気、何らかの理由で体が欠損している者がいるのなら、私の所に連れてきなさい!動けないようなら私をその者の居る場所に連れていきなさい!神のお慈悲で全て治療して差し上げる!勿論、お金は一切いらない。私の信仰の為の修行なのでな。誰か困っておる者は居らぬか?」

    私が大声でそう叫ぶと、何事かとテントの中から人がワラワラと出てきた。やはり話に聞いていたように、獣人族の者が多かった。

    「司祭様。本当にお母さんの病気治してくれるの?」

    後ろからそう声をかけられて振り向くと、七~八歳程の獣人属の幼女がいる。仮面を被っている私に痩せた顔を怯えながらも、母親の為に怖いのを我慢して話しかけてきた。

    「ああ、任せなさい。お嬢ちゃんのお母さんはどこかな?」

    膝を着いてしゃがみ、視線を会わせてそう聞くと、『こっち』といって、あるテントに案内してくれる。

    テントの中には、右腕を食いちぎられて、汚い包帯を巻いているが、傷口が膿始めたようで、嫌な臭いをさせ始めていた女性がうなされながら寝ていた。

    (いきなりハードな患者だな。まずはテントの中を綺麗にしないとな。)

「〈クリーン〉〈ピュリフィケーション〉。」
「きゃっ!」

    テントの中が光り、突然の光に驚いたのか、幼女は悲鳴をあげる。それまでの汚かったテントがパッと見ただけでま綺麗になる。ついでに幼女も綺麗になった。なんと、キツネの耳と太い尻尾を揺らす狐人属の子供だった。
(可愛いじゃねぇか。いや、今は治療が先だ。)

「〈鑑定〉。」

    鑑定を負傷している部位に対してかけると、部位の状態と治療方法が知らされる。傷口が膿始めているので、まず傷口を消毒して膿を消す。
「〈クリーン〉〈ピュリフィケーション〉〈リフレッシュ〉〈キュアオールラウンド〉〈リジェネレーション〉〈パーフェクトヒール〉。」

    自分の使える光属性の魔法を幾つも駆使して、腕の再生をする。

    治療が終わり、〈リジェネレーション〉によって体力が少しずつ戻って来たのか、目を覚ました母親が私の姿に気付き驚いたらしく、慌てて娘の幼女を背に隠して、私に聞いてきた。

    「貴方はだれ?何故ここに居るの?」
「私は正神教会の者だ。修行の旅をしている。この町に着いたのでな、修行の治療行為を行っている。お前の娘がお前を治して欲しいと私に訴えたのでな、治療を施した所だ。あのままでは、腕の怪我の毒によって熱を出していずれ死んでいただろう。」
「え、腕?!あああ!?、私の腕が元に戻ってる。」
「お母さん、治ったの?」
「ええ、ええ。お母さんの怪我は治ったのよ。」

    親子揃って泣いて喜んでいる所に、注意事項を伝える。

    「お母さん。腕は治ったが、体力が落ちているし、娘さんを見ても、栄養が足りていないようだ。この紹介状を渡すので教会に行き司祭殿に見せなさい。こんな不衛生なテント暮らしではなく、仕事も紹介してもらえて子供の面倒も見て貰えるようになる。あと、暫くの間の生活費にこれも受け取りなさい。」

そう言うと、紹介状と銀貨五十枚入った巾着を渡す。

    「治して貰うだけでも、ありがたいことなのに、このお金は受け取れません。」
「これは、たまたま神のお情けが下された物だと思いなさい。貴女はこの子をしっかりと育てる使命があります。その為のお金です。遠慮無く受け取りなさい。」
そう言って、母親の手に金の入った巾着を握らせる。

    こうして一件目が終わり、結局その日は三十人程の怪我人や病人を治していった。治しながら、就職について話をして、役所や教会を訪ねるように話して回った。
テント村を一通り確認して、その日は屋敷に戻った。

    弱者は、何時でも現れるし、救われない人は、数えきれない程いると改めて思った。統治者は、それを忘れてはいけないのだと、改めて思い知らされた一日になった。

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