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第十三章 何でも準備中が一番楽しいのさ。

幕間69話 エルフ王女の冒険譚。⑥

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    模擬戦の後は、わたくしはショックでその後の事は良く覚えておらず、ただ先程の模擬戦の映像がひたすら繰り返し頭に思い浮かんでいる。

    (何故なの?何故精霊魔法が発動しなかったのかしら?分からない。それにその後も、いつの間にか間合いを詰められていたし。移動する姿なんて見えなかったわ。いつ移動したのかしら?分からない事だらけだわ。)

    「姫様!では宜しく頼みますよ。」
「え、何かしら?!」
「本当に大丈夫なのかな?」
「ええ、いつも通りなら、問題なく務めますのでご安心を。」

    マクレーン副団長が、何か慌ててフォローをしている。
それを呆れながら、聞いている伯爵様は苦笑いしながらマクレーン副団長の言葉を聞いている。

    「王女殿下。聞いておられなかった様なので、もう一度取り決めたことを言いますね。まず、護衛の件はそちらのお国の事情も有るので許可します。実際、私も近々暫く家を空ける事になるので、その間の護衛がいるのであれば、心強いですからね。
その為に屋敷にお部屋を用意します。侍女殿にも部屋を用意します。但し、この屋敷には、他にも住んでいる者がいるので、この屋敷においては身分は互いに気にしないで頂く。例えばこの国の第一王女が居たり、その従姉妹のリヒト公爵家の長女が居たり、教会の聖女殿がいたり、貴方達も知っているハイエルフがいたり、今はなき獣人族の王族の生き残りが居たりして、皆対等な立場で生活しているわけです。今の調和を身分を盾に壊すようなら、出ていってもらいます。ここはウェザリア王国です。例え同じ王族だとしても、時にはウェザリア王国の王女が公式な場においては優先されるのは当然です。その事に納得出来ないなら、お帰りください。和が乱れる元に成りますからね。承知いただけますかな?」
「勿論、承知じゃ。わたくしはハイエルフ様の護衛なのだから。当然じゃな。」
「続いて、エルフだからと言って特別扱いはしません。公式の場以外では、貴女の事を名前で呼び捨てにしますが宜しいな?」
「お待ち下さい。姫様を呼び捨てにとは、失礼でありましょう。」

マクレーン副団長が、呼び捨てるのは失礼であると言って、伯爵を窘める。

    「私は、言葉を飾るのが苦手なので、ハッキリと言いますが、人とは生まれの違いこそ有るが、人としての違いなど無いと思っておるのですよ。私に言わせれば王様であろうが、スラムの孤児であろうが、死ねば同じ命は一つしかもっていないのですよ。私もそう。死ねば残るのは只の肉の塊。死んでしまえば、王様であろうと孤児であろうが、同じです。エルフは違いましたか?」
「・・・いえ、同じですわ。」
「そう、同じなんですよ。命の価値に違いはない。生まれの違いで立場の違いは有るが、命その物には違いなんて無いのですよ。まぁ、話を戻しますが、私はね、私よりも弱い者に頭を下げるのが嫌なんですよ。なので、私に敬語を使わせたいなら、私に勝つか、私がそう扱うのが当然と思わせる何かを証明してもらわない限り、呼び捨てで扱わせてもらいます。私の事は、伯爵でも閣下でもショウでも、まぁ好きに呼んでください。気にしませんので、その辺は。自由にどうぞ。」
「分かりましたわ。わたくしに異存は有りません。」
「姫様!」
「マクレーン副団長。ここはフォレスター王国ではありませんのよ。この地の領主の決まりなら、それに従うのがスジでしょう。かえって、わたくしは楽ですわ。(笑)」
「と、本人が言うのだから、宜しいな、男爵?」
「・・・承知した。」
「生活を共にする以上、不満や言いたい事も出てくるだろう。溜め込まずに、直ぐに誰にでも良いから、相談するように。王女宜しいな?」
「分かったわ。遠慮は要らないと言うことね。」
「ええ、そうです。あと、最後にアイリスに対する貴女達の敬意を他の人にも強要しないこと。貴女達のその意識はエルフ、もっと詳しく言うと、フォレスター王国のエルフが独自に心に持っているものなので、他のヒトにそれを強要するのはスジ違いです。宜しいね。」
「承知ですわ。」
「それと私はね、私と立ち会って私に負けた相手とは、二度と立ち会いをする積りは無いので、覚えておいて下さいね。弱い相手と戦っても、私には何のメリットもありませんからね。私と立ち会って負けたと言うことは、死んだと言うことです。死人が再戦を望めるはずはありませんからね。理解しておいてください。」
「え、そんな。では再び模擬戦をしてもらうには、どうすればよろしいのかしら?」
「腕を上げることですね。一度戦って負けた腕前で又戦っても同じですからね。再戦してほしくば、明らかに腕前が上がったと、周りからみとめられる事です。」
「分かりましたわ。」
「・・・この屋敷でどう過ごすかは、貴女の自由ですが、ここにいる本分を忘れないように。」
「当然ですわ。わたくしはアイリス様の護衛の為にここに居るのですから。」
「アイリスの嫌がる事はしないで下さいね。あああと、彼女はここでは自由に生きているのですから。貴女の倫理を押し付けないように。では、今後は宜しく頼みます。」

    こうして、国からの予定通り、アイリス様の護衛にお側に付くことになった。
家主であり、アイリス様の保護者である伯爵には色々と思う所があるが、負けたわたくしには何も言う権利が無いので、何としても腕を上げて再び試合をしても良いと認められる様に護衛をしながら訓練をしなくてはと、胸に刻んだ瞬間でしたの。


 
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