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第十二章 正しい貴族家のつきあい方。

幕間52話 エルフの国での一悶着。

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    ここは、『フォレスター王国』。エルフが治める森の中のエルフの国である。

    場所はウェザリアの西に南北に連なる中央山脈を更に西に越えたイザール大森林地帯にあるらしい。
    らしいと言うのは、その詳しい場所は知られておらず、謎の国とされていた。
    基本、外の国々とは不干渉の国である。何故ならば、この国の成り立ちが、変わっているからだ。
    
    この国は、ここ東大陸において今は亡きハイエルフ達が守っていた世界樹を、さらに外敵から守る為に建国された国。その為、この国の戦士は、強大な精霊魔法を使い、剣や槍に長けて、弓矢も使える万能戦士なのだ。

    だが、今から二百年程前に、魔族が率いる魔物の軍勢に、守護していたハイエルフの村を襲われて、世界樹を切り倒されてしまい、ハイエルフ達も全滅に近い被害を被る事件があった。その時から現在まで、その事件が原因で国の中に国王の罪を追及する一団が現れる。その者達は、生き残っているハイエルフを保護して、その者を王位に就けなくば、世界樹の再生は叶わないという樹教という教えを信じているグループだ。勢力としては、少ないので大事にはなっていないが、ここ最近になって、信者が増えつつある状況だ。

    そのフォレスター王国に向かって、今中央山脈を西に越えて向かう二人のエルフがいる。一人はリリアス・アル・マクレーン男爵と副官のカーン・オールドオークだ。

    「副団長、結局陛下にはどう報告されるのですか?」
「・・・正直に報告するしかあるまい。ただの人間が相手なら別だが、相手が創神アマテル様の使徒でしかも勇者が相手では、下手をすれば国を滅ぼされるわ。」
「えっ!そこまでの力があるのですか勇者とは?」
「お前は確か二百歳程だったな。若いから知らないだろうが、ハイエルフの村が襲われた少し後の時期に、今のウェザリア王国があった場所は、旧帝国の辺境地域だったのだ。まあ、色々原因が有って、あの地域の各都市が帝国に対して反乱し独立したのだ。丁度その時、帝国本国も内乱で動きが取れないでいたのだ。」

カーンに向けて、淡々と昔話を始める。

「その後は?」
「うむ、その当時今の王都ウェザリエの太守家でお家騒動が起こってな。太守夫妻は相手側の刺客に殺されてしまったのだ。その後残された一人娘が太守を継いだが、今度は他の街から攻められるようになった。この時、ウェザリエの軍の指揮を執っていたのが、のちに女太守と結婚して、太守となったセイイチ    カンザキ    フォン     ウェザリアだ。」
「ああ、彼らの言う始祖王ですね?」
「そうだ。彼一人で、五千や一万の軍勢を倒し、みるみる内に辺境地域を併合して、王位を宣言して今のウェザリア王国を建国したのだ。」
「でも副団長。それって誇張された話ではないのですか?」
「いや、カーンよ。彼が結婚した当時、ウェザリアはお家騒動の為に兵力が千名も揃えられなかったそうだ。それに、我らの知らない魔法を色々使い、その威力も規模も凄まじいものだったそうだ。当時は、彼が一人いれば、相手が何万いても勝つといわれていたよ。だから、帝国も国内が治まってもウェザリアへは、手を出さなかったのだ。勝てないと分かっていたからな。向こうからは帝国へ攻めてくることはしないと始祖王は言っていたらしいな。帝国が手を出し始めたのは、始祖王が死んでからだな。」
「じゃあその始祖王が勇者だったと言うのですね。」
「それがハッキリしないのだ。」
「え、どう言うことですか?」
「周りから、勇者かと聞かれる度に無言で答えなかったそうだ。だが、あの余りにも桁外れの戦闘力は伝説の勇者のものとしか考えられないのだよ。」
「はぁ、それが先日のツール伯爵と同じだと?」
「お前も彼を〈鑑定〉したのなら、分かるだろう。そして、彼の周囲を飛び回る精霊の呟きをお前も聞いたはずだ。」
「まぁ、聞きましたが、この世の中に勇者なんていう、お伽噺話の存在が本当にいるなんて、中々には信じられなくて。陛下にはあの勇者の事も報告しますので?」
「ああ、せざるを得んだろう。実際ハイエルフ様を保護しているのだからな。はぁー、どう報告したものか。・・・」
「そうですよねぇ。・・・」

    こんな会話をしながら、大森林に入っていく。

    数日後。ここはフォレスター王国の王都ユグルの謁見の間。足下の赤い絨毯の先の玉座にパッと見は三十台の壮年の男に見えるが、実年齢が五百六十四歳のこの国の王である、オイゲン・ユグル・フォン・フォレスター七世が苦い顔をして、目の前で片膝を着いて、畏まる二人を見ている。

    「マクレーン男爵よ。お主の報告では、ハイエルフ様のアイリス様はその勇者と共に新たな世界樹を育て上げるように創神アマテル様から命を受けているから、我らの保護は受けられないと申したと言うのか?」
「はっ!アイリス様はその様に言われておりました。」
「・・・・」
「マクレーン男爵よ。そもそもその勇者は本物なのか?相手がそう言っているだけでは?」

    宰相のナジュ・フォン・ナシメイラがリリアスに問い質す。

「宰相閣下。間違いはありません。私もカーンも彼を〈鑑定〉して確かめましたから。しかも勇者だけではなく、パラディンなる初めて聞く職業にもついておりました。」
「何?二つの職業にだと。真か?」

驚き、聞き返す宰相。

「これも間違いありません。〈鑑定〉の魔法をかけたおり、彼は特に抵抗もせず某かの防御魔法を唱えることもなく、我々の魔法を受け入れておりましたから。それに、彼は我等エルフの持つ魔力の三倍近い魔力を持ってもおりましたし、何より驚いたのが、人間族のクセに何故か精霊視のスキルも持っておりました。下手に手を出したら、問答無用で魔法で消されます。実際、彼の噂を集めたら、我々の知らない魔法を操り、一人で大軍を倒したそうです。」
「何?ではお主はウェザリアの始祖王と同じと申すか。」

    オイゲン王は信じられない様子で、確認をする。

    「職業を二つ持つことを考えると、始祖王以上かもしれません。」
「うーん、ナジュよ、どうしたものかな?」
「陛下、考えようによっては、その者にアイリス様をお任せした方が良いやも知れませぬな。」
「なに、どういう事だ?」
「はっ、マクレーン男爵の申す通りなら、こちらから強引な手出しをするのは悪手ですな。それだけの戦闘力を持つ者なら、そのまま任せて置けば勝手にアイリス様をお守りくださるでしょう。樹教者達のグループが手を出せば、始末してくれるでしょう。我々では、彼らに法的手段を取れませんが、その者なら、外敵からアイリス様を守る為に、躊躇いはしないでしょうから。但し、我が国のエルフが全て加担していると思われるのは不味いですから、使者をやって、正直に国内の事情を伝えれば、納得してくれるものと思われます。」
「うーん、国内事情を話すのか。敵対する訳にもいかないか・・・分かった。疲れている所にすまぬが、再び赴き説明に行ってくれるか?マクレーン男爵よ。」
「はっ、主命とあらば、お任せください。」
「うむ、では今日明日休み、明後日出発せよ。それまでに書状を書いておくから、持って行くようにな。」
「はっ!」

    マクレーンは、頭を下げて拝命する。その時、マクレーンの背後から突然に声が響く。

「お父様、その任務にわたくしも同行いたします。」
「うん?ディートリンデか。何を言う。ならんぞ。お前は我が娘。このような事で人間族の国家に行かせる訳にはいかん。」
「お父様、この様なと申されましたが、そもそも父上の失策でハイエルフ様達は今の目に会っております。娘の私がハイエルフ様のお側にお仕えして、少しでも誠意を見せるのは当たり前のことです。違いますか?
それに、私はこれでも聖樹魔導団の副団長を務めております。腕にはそれなりの自信があります。ハイエルフ様を身近でお守りすれば、樹教者達に対しても、十分な言い訳になるかとおもいますが?」
「ううむ・・・。樹教者達への言い訳か。確かに断られたからと言って、放っているわけではないと言えるか・・・。あい分かった。だが、一人ではいかん。何人か従者を連れていけ。」
「有難うございます。では、従者として、専属メイドのアリーシャを連れていきます。彼女なら、武芸も並み以上ですから。」
「うむ。後、必ず定期的に連絡を寄越すようにな。特にその勇者の人となりや能力を知らせるようにな?」
「分かりましたわ。お父様。」
「ふぅ、ナジュよ。知られずに樹教者たちの様子を調べてくれるか?」
「はい、ハイエルフ様に対してどう動くのか、監視しておきましょう。」
「うむ、頼む。」

    こうして、二日後にマクレーン男爵と副官のカーン、国王オイゲンの娘のディートリンデと専属メイドのアリーシャの四人がツールに向けて出発することとなる。

それぞれが、それぞれの思惑を持って。


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