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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

幕間49話 とある行政長官の行政日誌。③

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    私の名前はハザル・フォン・ダラス騎士爵です。現在はツール伯爵領(一町五村)で行政長官と言う、役職を拝命しています。
    この話は、八の月の終り頃から九の月の頭にかけてあった出来事です。

    「ハザル卿、ちょっと教えて欲しい事があるのだけど?」
「教えて欲しいとは、何事でしょうか、閣下?」
「うん、実はツールの港の管理運営とかは、誰がどうやっているのかなと?」
「え、港についてですか?何でまた、お気になされたのですか?」
「ああ、八の月の報告書に港からの税収の記載が何処にも無かったからね。港の扱いはどうなっていたのかと思ってね。それで聞いたのさ。」
「成る程。その件は申し訳ありませんが、私も知りませんでした。そうですね、税収の事ですからレオパルド卿を呼びますね。」 

    町役場の旧代官の執務室、現在の行政長官の執務室から出ていき、一階下の二階にある財務部の部長室へと向かう。

    扉をノックしてから入ると、財政部長のレオパルド卿が椅子に座り、書類をチェックしている最中だった。部屋に入ってきた私を見て何事かと聞いてきた。

    「おや、ハザル卿。如何しましたか?」
「実は今、私の執務室に閣下がいらして、ツールの港の管理運営や税収について今どういう事になっているのかと、ご下問が有ってね。私の所にも報告や情報が上がってきていない事なのでね。卿が何か知らないかと思って、呼びに来たわけさ。」
「ああ、港の事ですか。・・・・うん、丁度良い。私からもお話したい事があります。ちょっと待ってください。」

    そう言うと、引き出しからファイルを二冊取り出して手に持つと、さあ行きましょうと言って、私の執務室に向かった。

    部屋に戻ると、ソファーに三人で座り、レオパルド卿から話始めた。

    「閣下、ハザル卿から伺いました。ツールの港の現状についてですね?」
「ああ、収支報告にも、運営報告にも、何も記載が無いから、どうなっているのかと思ってね。何か知っているのかい?」

    閣下が、助かったという感じで明るくレオパルド卿に答える。
その言葉に対して、レオパルド卿は深刻な顔つきで話始めた。

「閣下はご存知無かった様なので、私からまず現状の説明からさせて頂きます。ツールの町の港については、外洋船向けの港と町の南を流れるイミル大河を使った輸送船用の河港の二つがあります。この二つの港の管理運営及び港湾労働者の派遣管理を一手に担っているのが、『ツール港湾組合』という組合組織です。そして、結論から申しますと、この組織からは現状税収はありません。」
「え、無いって?そんな筈は無いだろう。海運やイミル大河を使った川船による輸送とかも行われているのに、何故税収無しなの?」
「はい、こちらの資料をご覧下さい。こちらは赤字のため税金が払えないと報告してきた組合に対して、提出させた収支内容の報告書です。」

    用意していたファイルの一冊を閣下に開いて差し出す。

    「・・・ほお、えらく人件費が突出しているね。これが赤字の元かな。」
「はい、閣下の仰る通りです。人件費が異常に高くついています。私が試算した数字と比べると、約二・五倍は高い計算になります。そして、こちらもご覧下さい。」

    閣下の目の前にもう一冊のファイルを開いて差し出す。

    「こちらは、商業ギルド、冒険者ギルドを通して集めた、港湾労働者達の労働賃金の統計での数字です。ほぼ、私の試算した数字と同じでした。」

    その言葉を聞いた途端に閣下は冷たくニヤリと笑いながら言う。

    「まだ、この町には馬鹿者がいるみたいだな。分かったよ。ご苦労様。よく気がついて調べてくれたね。有難うレオパルド卿。助かったよ。・・・よし、決めた。二つの港は伯爵家直轄事業とする。」
「町営ではなくですか?」

    私が恐る恐る聞くと、閣下ははっきりと言う。

「町営とするには、ここは利権が多すぎる。また勘違いする者が出ても困るからね。直轄事業にして監視するよ。」
「判りました。それで我々はこの件に対してはどのように対応すれば宜しいでしょうか?」

    閣下は少し考えてから、私とレオパルド卿を見ながらいう。

「証拠を集めてから、一気に捕まえるから、それまで他言無用で頼むよ。どこから漏れるか分からないからね。」
「分かりました。」
「承知しました。」
「二人とも。オルソン卿にも話を通しておきたいから、一緒に来てくれ。」

    そう言うと、立ち上がり部屋を出ていく。

    二階にある、司法警察部の部長室に向かいオルソン卿を訪ねた。

「失礼するよ。」

    ノックの後、閣下がそう言いながら部屋に入って行く。

「おや、皆さん揃ってどうしました?何か大事でもありましたか?」

    書類を見ていたオルソン卿が、部屋に入ってきた私達三人を見て立ち上がりながら言う。

「ああ、オルソン卿、確かに大事だ。」
「・・・分かりました。まずは皆さん、おかけ下さい。」

    その言葉で四人各自ソファーに座る。

「閣下、それで大事とは一体何でしょうか?」
「うん、この町の悪は一度一掃したと思っていたんだけどね。なかなかどうして。悪党は消えない様でね。人件費を水増しして、その分を着服している輩がいる事が判ってね。業務上背任、横領、脱税と言った所か。しかも個人でなくて、組織ごとの疑いもある。」
「なんですと!一体何処のどいつらがその様な悪事を働いているのですか?」
「ツール港湾組合という組織だ。だが、まだ推測の段階だ。これから調査して、動かぬ証拠を見つけてから一掃する。そこで、オルソン卿には、いざ逮捕の時には、手を貸して欲しいのだ。」
「成る程。承知しました。逮捕以外でお手伝い出来ることはありますか?」
「いや、それほど時間はかけないが、逮捕の時までは他言無用で頼むよ。どこから漏れるか分からないからね。」
「承知しました。閣下の準備が整いましたら、お声をかけて下さい。」
「うん、その時は頼むよ。」

    その時は、それで一旦解散した。いくら閣下でも、詳しく調べあげて、しかも証拠を見つけるなんて、そう簡単には出来ないと思っていました。
    しかし、閣下に対しては甘い認識だったことを二日後に思い知らされる事となるのでした。


 
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