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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

幕間46話 とある新人騎士達の狂想曲。⑧

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    俺の名前はアーサルト・オグマ。ツール伯爵家騎士団の騎士だ。六の月半ばで士官学校を卒業して、入団してからあっという間の三ヶ月だった。

    やっと手足の重りにも慣れてきたところだ。この話しは、そんな九の月の半ばにあった出来事だ。

    ツール伯爵家騎士団は新設の騎士団の為、人数は他の騎士団よりもまだ少ないが、全体的な実力は国軍を抜き、近衛騎士団に勝るとも劣らないものであると自負している。いや、自負出来るようにされたといった方が良いだろう。

    実際、小隊長クラスは確実に近衛騎士よりも強いと言えるし、下手すれば他の貴族家の騎士団
長並の力量であるし、先月に新規に選抜された百二十人程も、ライガ副団長の厳しい眼鏡に最低限叶った者達である。皆それなりの力量を持っている所を団長、副団長や小隊長達が毎日しごいているわけだ。しかも、更に強い存在がココには居るのだ。そんな猛者達が、おとなしく従う人がいる。

    オオガミ閣下だ。団長や副団長、小隊長達が全く歯が立たない程の別格。あの小隊長達が閣下の前では、借りてきた猫のように大人しくなる。
    初めて閣下を見て侮るのは、入りたての頃の新人騎士達だけであったが、それも三日と経たずに、皆顔を青くさせて小隊長達と同じ態度になった。しかも未だに全力の閣下を見たことはない。

    そんな、俺達にその閣下から指令が下った。町の商会から再び海賊の被害が増えてきたと町役場に対応を求める声が上がっているらしく、そこで残っていた近隣の大きい海賊団三ヵ所を早急に殲滅せよとのことだ。

    相変わらずの無茶振りだが、以前に比べるとこちらの人数が増えている分、マシかなと思えている時点で、俺もこの騎士団に染まってきていると言えるのかな。

    パーシモン商会の船三隻に騎士団百四十数名が分乗していく。
    まず団長が指示して向かった場所は、以前に潰した『赤鯱団』の次に規模の大きい『白鯨団』だ。ただ、赤鯱の時とは違い、今回は閣下はいない。つまり俺達だけで襲撃するわけだ。 閣下がいない分、味方の数は前回十五人だったのが百四十数名にふえた。
    敵について判っているのは、人数が百五十弱ほどいる事と、アジトの場所だけだ。

    しかし、閣下はどうやってこれらの情報を集めたのかな。団長は知っているみたいだが、詳しく話したがらない。そのくせ、閣下の言葉を疑う事は微塵もない。いつか、俺にも閣下の秘密を教えてもらいたいな。そうなれば、俺は閣下にとって、替えのきかない、存在になれると思うから。

    「若旦那!目標まで、あと五キロ。目標に動きなし。」

    船長のドレイクさんに、監視役の水夫から報告が入った。

    「団長さんよ。このまま接近するが良いんだな?」
「キャプテン、構わず進んでくれ。それと、キャプテンは、言われている通り海賊の保有している大型船を忘れずに持ち帰ってくれよ?閣下からも念押しされているからな。」
「うへぇ、自分のとこの騎士の安否よりも、海賊船の確保を気にするとはな。」
「ドレイク、口を慎め。閣下が我等より、お前の成果を気にするのは、我等なら任務を無傷でやれて当たり前との信頼が有るからだ。この意味分かるな?」
「俺達は、まだそこまでの信頼をもらってないと言うことか?」
「そうだ、キャプテン。閣下を失望させるなよ。それだけだ。」
「分かっているよ。家の商会がこんな短い時間で、商売が軌道に乗れたのは、閣下のお陰だと言うことは、言われずとも、心に刻んでいるさ。」

    二人がそんな話を交わしている内に、船はアジトに近づいていた。

    「若旦那!目標まであと二キロ。未だに敵の動きはありません。」
「進路そのまま。各員接岸準備をしろ!」
「騎士団も戦闘準備をしろ。各自、強化魔法をかけろ。」

    レナード団長から、戦闘準備の指示がでる。多分二番船や三番船も同じく指示が出されているだろう。

    「騎士団の者はよく聞け。閣下から、今回皆が無傷に任務を達成したら、一人金貨三枚の特別報酬がでる。」

騎士の間からオオーと歓声が上がる。

    「ただし、不覚を取って怪我をしたら、無しだそうだ。いいかぁ!怪我を受けることなく、海賊を殲滅せよ!閣下の命令である!」
『オオー!』

一斉に声が上がる。

    「若旦那!目標まであと一キロ。目標に人が慌ただしく動き始めました。」
「よーし、こっちに気付いたか。このまま前進。港に接岸し次第、渡し板を渡して下船準備をしろ。」
「騎士団各員、渡し板が渡されたら、速やかに下船の後に隊列を組め。」

    下船準備をしつつ、『白鯨団』のアジトの桟橋に到着する、水夫達が手際よく渡し板を渡して、下船の準備を整える。

    「団長さん。下船準備完了だ。」
「よし、騎士団下船せよ!」

    俺達は、その号令のままに港に降り立った。各小隊毎に隊列を組んで他の船からも騎士団員が降りてくるのを待っている。
その間にも、海賊達は迎え撃つために、集まってきている。船から騎士団全てが降り立つと、レナード団長が海賊達に向けて前に立った。
    団長が前に出てきた為か、海賊達の中から、一際ゴツい体の男が出て来て、叫んできた。

    「お前らは何者だ?ここを『白鯨団』のアジトだと分かって来たのか?」
「我等はツール伯爵家騎士団。そう言えばこちらの要件は分かるだろう?命が惜しいなら、武器を捨てて大人しく降伏しろ。それ以外はお前達を殲滅する。」
「降伏しても、結局奴隷落ちか、縛り首だろ。なら、お前達を殺して国外に逃げれば助かるさ。野郎共判っているな。全員殺っちまえ!」

    『白鯨団』のリーダーは剣を抜いて手下達に号令する。        

    「騎士団抜剣。迎い撃て!」
『おお~!』

    人数は互いに互角。俺もこっちに挑んでくる海賊を迎え撃つ。海賊の 振り下ろす剣がやたらとゆっくりで、避けることが楽である。入団直後に暫く指導してくれたブルーノさんの早さに比べたら、それこそスローモーションと言える程の遅さだ。
攻撃を一回避けた後に、攻撃してくれと言わんばかりの、相手の体勢の隙をついて、胸を一刺しした。手応えで、相手が死んだことを確信すると次の相手を探す。既に相手の三分の一は倒されていて、海賊達に手こずっているのは、先月入団した者達だった。

    「あっ!」

    海賊と戦っている騎士の一人の後ろから、海賊が切りつけようとしていた。
危ないと思った瞬間に切りつけようとしていた海賊に火弾が着弾して、騎士を助けた。
俺はその火弾に撃たれた海賊に斬りかかり、一回は受け止められたが、次の打ち込みで倒した。
回りを警戒して見ると、既に半分が倒されていた。

    形勢が不利と分かった海賊リーダーは前線に出て来て、戦闘に参加してきた。また、海賊の内何人かが、桟橋に停めてあった小舟に乗って逃げようと走り出した。逃げた先の小舟が〈ファイアボール〉の攻撃で一気に燃え上がり爆散した。
    どうやらスティンガーの魔法みたいだな。アイツの魔法もここ最近になって、以前より明らかに威力が上がっているみたいだ。閣下から魔法講義を受けて『自然の理』とかいう、科学を勉強し出してから、アイツも強くなったな。
結局、逃げられなかった海賊達は、剣を抜いてスティンガーのいる魔法使い達の方に向かっていくが、辿り着くまでに魔法を連弾でくらい、全てが倒された。

「おおっと!」

    考え事をしていたら、横から体がデカイ海賊が襲い掛かってきた。俺は以前にも似たタイプを相手に試合をした事がある。元国軍に居たグレゴールさんだ。
    その時は相手の体格が大きいことで、力では負けることが、判っていたのについ、盾で止められた剣を力押ししたところを押し返されて仰向けに倒されて、負けた事がある。同じてつは踏まないぞ。

    その海賊の体格は良くて、見てわかる程に力はあるが、閣下が言っていた速さと技は感じられなかった。当たれば痛いだろうが、それが当たる怖さは感じなかった。

    相手の剣筋をしっかり見切り、力が入りすぎて、体が流れてしまった相手の隙をつき、右腕に斬りつける。痛みに剣を落としてしまった海賊の喉を切り裂き、とどめに心臓をついて倒した。

    やはり、閣下の言われる通りだ。力だけの相手は怖くはない。俺がその海賊を倒した頃には、白鯨団のほぼ全てを倒していた。

    最後の一人をグレゴールさんが倒すと自然と勝鬨が上がった。島中に残敵がいないかと、海賊が溜め込んでいるお宝を探すために、団員は二人ずつで探索を始めた。

    俺も新規に採用された、アレクセイさんと一緒になって、探索していると、大きな家の中で三人の女性を見つけた。話を聞くと、最近料理等のために拐われてきた人達のようだ。
    三人を連れて団長の所に戻ると既に宝の場所は発見しており、今回収をしに行っているらしい。
俺が団長に事情を話し、三人を引き合わせる。

    「安心しなさい。我等はツール伯爵家騎士団です。あなた方を保護してツールまでお連れします。今後の身の振り方は、ツール伯爵閣下が皆さんと相談して決めてくださいます。安心しなさい。」

    三人は泣きながら、有難うと何回も礼を言ってくる。
その後、残敵がいないことを確認したら、エアリスさんが精霊魔法で大きな穴を掘り、そこに死体を集めて、団長が〈ピュリフィケーション〉で浄化してから魔法で再び埋め直した。

    無事にお宝は回収されて、団員は一人も怪我をせずに、ツールへ帰った。こうして白鯨団を潰したが、残り二つある。また近日中に討伐に行くことになるだろう。

    ツールに向かって帰る船の上で、カイリーとスティンガーと話ながら、今まで以上に閣下の強さと存在が飛んでもないと実感しあった。


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