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第十二章 正しい貴族家のつきあい方。

第211話 広がる帝国の闇、大きくなれない反乱の芽。③

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    サウルの淹れてくれたコーヒーを飲むと、さすがと言うか、自分で淹れたコーヒーよりも遥かに薫りが立ち上がり、味も澄んだ味がして、コーヒーの旨味しか感じられない。
正に旨いとしか言えない味を出している。サウルの腕前までいくと、コーヒーも紅茶も変わらないのかも知れないな。そのように思えた。おかげで、メーガンさん達に対して、どうしたものかと焦っていた気持ちが、落ち着いたので、有りがたかったよ。

    さてと、気合いを入れ直した所で応接室に向かいましょうかね。

「お待たせ致しました。」

    ノックの後に部屋に入るとメーガンとマリガンの二人は立って迎えてくれた。二人の横を回り込み、対面のソファーに座り二人を見る。
マリガン君はやや落ち着かない様でソワソワしているが、メーガンは流石に将軍だっただけあり、落ち着いている。

    「さて、お待たせ致しました。回りくどく言うのも性に合いませんので、結論から言います。条件付きで支援しても良いとなりました。」

    私からの回答を聞いてマリガンは嬉しげにしているが、メーガンは未だに無表情だった。
そんなメーガンが聞き返して来た。

「して、その条件とはなんでしょう?」

    メーガンさんの刺すような視線を受けながらも、その視線を真っ向から見て答える。

「我々としても、それなりの金を支援する訳ですから、当然見返りを期待するのは当たり前な話です。」
「そうでしょうな。逆に無償の支援の方が後が怖いですな。」
「まあ、そうでしょうね。別に領土を割譲せよとか、何処かの港町を祖借地として寄越せとか、言うつもりは有りませんから、安心してください。」
「では何が条件ですか?」
「貴方です。メーガン殿。サウスラーニが独立した後、貴方にはウェザリアに仕官して貰います。」
「!」
「将軍閣下をウェザリアにですと?そんなことは出来る筈がない。」

    マリガンは顔を赤くして反論する。
意外にも、メーガンは静かに私を見つめているだけで、取り乱すこともなかった。私を見つめながら聞いてきた。

「伯爵様、理由を聞いても宜しいか?」
「勿論ですよ。まず大前提として私が貴方を大変気に入ったからです。貴方は戦略家としての力は十分あるし、実戦指揮も上手だ。神様からも是非とも味方にするよう言われてますしね。」

そう言い、ニコリと笑って見せる。

「そして、君達の行動には致命的なことに大義が足りないのですよ。」
「やはり、そう思いますか。」
「そう言う言葉を使うと言うことは、あなた自身も薄々理解していたのかな?」
「はい、我等がお仕えしていた、サウスラーニ王家は王位継承権を持つ者は全てクロイセン帝国に捕まり殺されました。また、有力だった諸侯や大臣達も皆滅ぼされました。これでは、短期間に勢力を纏め上げるだけの、御輿がいません。誰が中心に立ち上がっても、必ず後々不満が上がって、勢力として纏まらないでしょう。」
「流石にその若さで将軍となっただけはあり、先が分かっていらっしゃる。つまり、旧サウスラーニ王国は、以前と同じ王政国家として再建は出来ない訳ですよ。王政国家で再生するには、新しくその王となる者が周りの勢力を納得させるだけの、圧倒的な民の支持を得られるだけの何かがいるのです。膨大な財産であったり、血筋であったり、圧倒的な戦力であったりね。
    しかし、残念ながら、あなた方にはそれが無い。そうなると大義なき反乱となる。大義がないと言うことは、勢力としての正統性が無いわけだ。民からの支援は限定的な物になるだろうね。それでは、君達の勢力は大きく広がることはない。」

無情だが、現実をはっきりと伝える。

「・・・やはり、そう思いますか。」
「ああ、であれば今の小さい勢力で、駐屯しているクロイセン帝国の国軍を何とかしないといけないわけだ。違うかな?」
「・・・はい、伯爵様の言うとおりですね。しかし、我々にはそれは出来ない。力が足りないのです。」

    力無げに、そう呟くメーガン。

「そう。そして、仮に我々の支援のもと、クロイセン帝国を一時排除できたとしても、君達が新政権の中心となると、ほぼ間違いなく国内で内輪揉めになる。何故なら大きな勢力でない貴方達を回りが納得しないだろうからね。
    また、仮に一時的に収まっても、政治的、軍事的に少数派の貴方達では、どのみち長続きは出来ないでしょうね。
    そして、再び帝国に攻めらると、今度は抵抗もできずに再占領される事になる。民は今以上に搾取されますよ。今度はどこも支援の手は無くなるね。
また、ウチからの支援を受けた事がその時、余計に他からの反発を招く気がする。
    まあ、どうしても君自身が新王となってサウスラーニを復活させ王様として国を治めたいなら別だがね。ただそのつもりなら、ウチからは支援は出来ない。勝手にやってくれと言うしかないな。例え神様の言葉が有ってもね。王になりたいなら、これ位の事は独力で何とかしろと言いたいな。王様に成りたいのかな?」
「・・・いえ、私としてはそんな積もりはありません。私にはその様な器は有りませんから。」
「そんなに卑下しなくてもいいさ。王は無理でも、一国の大将軍の器はあるよ。
まあ、悪いようにはしないから、ウチに来なさい。別に君一人でなくても良いよ。仲間も纏めてめんどうみよう。」

言葉の最後には、スキル〈王威〉を発動させ、声に『気』をのせて言い切った。

    しかし、私からの無情なまでの状況分析に二人とも黙り混んでしまった。

    「・・・・そちらからの支援を受ければ、祖国は必ず解放できますか?」
「ああ、私自身が手を貸すよ。百パーセント、帝国を排除出来るよ。これでも使徒だからね。相応の力はあるんだよ。」
「・・・・済みません。一晩考えさせて貰って良いですか?」
「ええ、構いませんよ。三日ほど泊まっていただく積もりでしたから構いませんよ。確り考えて自分でも納得いく答えを導いてください。そして明日朝、お返事をください。」

そう告げ、席をたって応接室から出ていく。

(まあ、あの手応えと彼の性格を考えると、味方になるのは六割ってとこかな。)

内心でそんな事を思いつつ、部屋から離れていった。

    執務室に戻ると椅子にかけて、背もたれにもたれる。
天井を見上げると、先程の交渉について考えてしまう。彼等も分かっている事だろうが、面と向かってハッキリと言われると、理性ではなく、心情的に反発をしたくなるかもしれないな。でも、あのままでは、いずれ彼等を待っているのは破滅しか無いだろうし。あれだけの人材は三國志ゲームの関羽とか張遼クラスの能力値だろうから、ぜひ引き抜きたいね。そんな風に考えているなかで、あと三人密偵が残ってたなと、ふと思い出した。

    (いかんな。あれこれ有りすぎて、忘れてしまう所だったな。しかし、そもそも、密偵多すぎだよな。ウチのような小さい領地に。)

    天井を見ながら、そんな事を考えていると、扉をノックしてハミルトン隊長が思い詰めた表情で入ってきた。

    (あー、また面倒くさい話しかな?)

    そんな事を思わせる、表情であった。


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