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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

第188話 『王室御用達』の看板と闇の因縁。③

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    再び馬車は王宮に向かってもらい、下ろして貰った後は、帰って貰った。

    午前中に案内された応接室に再び通され、待つ間に、ステータス画面を出して、職業をメインがパラディン、サブを勇者に変えておく。

    また、目的のいる居場所を確認するために、マップを呼び出した。

「〈マップ表示・オン〉、〈サーチ・魔族〉。」

再び、マップを出して王都全体が映るようにして探った。

(おや、午前中に調べた時とは移動しているな。)


    「待たせたな、オオガミよ。早速、これから頼むぞ。バランも一緒に行き、見届けを宜しく頼むぞ。」

部屋に一緒に入ってきた陛下が私と背後のバラン団長に告げる。

「はっ。しっかりと決着を見届けて参ります。オオガミ殿、宜しく頼む。」
「承知しました。ただし、相手は魔族です。団長殿も油断無いように。」
「承知している。しかし、魔族に憑依されるとは、とことんアイツは根性が曲がっていたのだな。私の指導力不足だ。オオガミ殿には、お手数をかける。」
「いえいえ、私とも因縁がある相手ですからね。ここでケリをつけますよ。さあ、行きましょう。」

陛下に挨拶して、バラン団長と共に部屋を出る。

    「オオガミ殿、それで奴は何処にいるのだ?」
「今、スラム街にいますね。多少移動してますが、把握していますので大丈夫ですよ。ただし、スラム街なので、馬車や馬では目立ってしまいますので、スラム街の手前で降りて、あと目的地までは歩いて行きましょう。」
「承知した。では、馬車の手配をしてくる。先に城の玄関口に行っていてくれ。」

そうバラン団長は言い残して、手配をしに先に行った。

    私は玄関口で待っていると、黒塗りの馬車が一台こちらに向かってくる。目の前で止まると、扉からバラン団長が顔を出して馬車に乗るように言う。

「オオガミ殿、乗ってくれ。そして具体的に何処に向かえば良いのだ?」

スラム街の手前にある、目印になる建物を告げるとバラン団長が馭者に伝え出発した。

    「バラン団長殿、目標のクルーガーですが、魔族に憑依されたことで、以前よりも戦闘力が強化されています。攻撃魔法がレベル三以下の物は全て無効にしますし、また肉体も強化されており、以前のクルーガーとは全く別物になっています。以前と同じに思っていると、思わぬ怪我を受けかねません。心してください。」
「承知した。」

    バラン団長と現地での、やり取りの打ち合わせをしている内に、お願いした様に、スラム街の入口の手前の通りに辿り着いた。
二人とも馬車から降りて、馭者にはここで待っていて貰うように告げると、スラム街に向けて歩き出した。

    まだ、日が高いにもかかわらず、スラム街は全体的に暗く陰っている様に感じる。
    この様子を見ると、いかに善政を敷いても、人が多い場所程それからこぼれてしまい、零れたこぼれた者同士が集まってスラム街が出来てしまうのを感じる。人口二万程のツールですら私が手を打つ前には人口の一割ほどの人がスラム街に沈んでいた。ましてや、ウェザリエ程の大都市だと、どれ程の人間がスラム街にいるのか、分からないのが現実だろう。そんな事を思いつつもマップに表示されている赤い光点に向けて着実に進んでいく。

    あと、建物三つ程の距離になったとき、一旦足を止める。

「オオガミ殿、どうしたのかな?こんな所で立ち止まって。」
「目的地が近いので、そろそろ戦いの準備をしようと思いまして。では、魔法で強化しますね。」

そう告げて自分と団長に魔法をかける。

「〈マルチロック〉〈ホーリーシールド〉〈マルチロック〉〈レジスト・ダーク〉〈マルチロック〉〈リフレクション〉。」
「え、この魔法は一体?」
「聖属性と時空間属性の魔法です。聖属性の防御魔法と放たれた魔法を一回だけ術者に反射する魔法をかけました。なので、魔法攻撃されても慌てないように。」
「なんと、そんな魔法聞いたこともない。魔法を跳ね返すなど。」
「これらは、私のオリジナル魔法なので、他言無用に願います。」
「・・・承知した。」
「恐らく、目標もそろそろ私が近づいている事に気が付いている可能性が有ります。魔法による奇襲に気を付けてください。では、行きましょう。」


    バラン団長に注意を喚起してから、再び目標に向け歩き始めた。

    目標まで後僅かと言う所で、〈気配察知〉〈魔力感知〉が目標を感知した。
剣を抜きつつ、目標に向かって走り出す。バラン団長も慌ててついてくる。

    目的の家屋の扉を開け、中に飛び込むと同時に魔法で攻撃される。
正面から闇色をした炎の玉が私に着弾する前に、体を被う光の膜に当たり、そのまま術者に跳ね返っていく。
その結果を見る事無く全身に『気』を纏い、剣で斬りつける。
ガヅン!鈍い衝突音がして闇色の膜に覆われる盾に止められる。
    盾を持つ相手を確認すると、以前よりもやつれて、骨と皮だけの顔になったクルーガーの顔があった。

「この波動は一体。お前、誰だ?」
「俺の事さえ、覚えていないのか?魔族に憑依されると、記憶も無くなるのか?それとも人格ごと喰われたか?」
「貴様、何故それを知っている。」

闇の底から響くような、不気味な声をさせて聞いてくる。

「さて、何者かな。分からぬまま消滅しろ!〈バニッシュ〉!」

至近距離で白銀色の十文字がクルーガーだった者にぶち当たる。

「グギャー!熱い、これは聖属性の魔法だと。貴様何者だ?」

叫びながら、後ろに飛び退くクルーガー。

「逃がさん。〈バニッシュ〉〈バニッシュ〉〈バニッシュ〉!」
「ガーッ!い、痛い。何故避けられない?!クソッ。」

クルーガーにダメージは与えているが、まだまだ致命傷まではいかず、反撃をしてきた。

「ガー!」
「〈ホーリーオーラ〉〈フォースフィールド〉」

私の体を銀色の膜が覆った次に七色に輝く光の膜が覆う。
    以前の立合いの時とは違う鋭い動きのクルーガーが、闇のオーラを纏いつつ、手に持つ片手剣で斬りつけてくる。斜めに斬り落としてくるその剣筋を見極めて、右に回り込み、それを避ける。
避けながら、剣に『気』を纏わせ、技を放つ。

    「〈阿修羅斬〉!」

    一瞬の間に四回の斬撃を放つ。斬撃の始めの一つは剣で防御されたが、残りの三つの斬撃を避ける事は出来なかった。

「ぎゃー!痛い、何故痛い?!痛みは感じない筈なのに。クソッ!」

形勢が不利と分かって逃げようとするクルーガー。

「逃がさんと言ったろう。〈舜歩〉!」

クルーガーの逃げる方向に回り込むと同時に『気』を纏った斬撃を正面から浴びせる。

    「ウギャー!!」

    クルーガーだった体が黒く変色したかと思ったら、体の輪郭がぼやけた瞬間、砂のように体が崩れていく。そしてその体から、黒い煙の塊が分離して、砂のように崩れていく体から離れていこうとする。

「逃がさんと言っただろ!〈飛燕弾〉!」

白色の『気』の光弾が、高速で黒い煙の塊にぶち当たって黒い部分を侵食していく。

「グワーッ!!オノレ!ミチズレダ、シネ!」

    黒い煙の塊から闇色をした槍の様な光が放たれたが、私ではなく違う方向に飛んでいく。そちらを見ると、入り口でこちらを見ていたバラン団長に向かっていく。

「バランッ!!」

魔法が自分に来るとは思っていなかった様で、盾で防ごうとする。

「バカメ、タテナドデフセゲルカ。オレハココデショウメツスルガ、オマエモミチヅレダ!ギャハハハハ!ナニィ?ヴギャー!!」

    バラン団長に向かって飛んでいった闇色の光の槍が当たると思われた瞬間、光の膜に跳ね返されて、黒い煙の塊に当たる。
それが、本当の止めだった様で、黒い煙は空気に溶け込む様に消えていった。

(ピロ~ン♪、〈身体レベル〉が上がりました。『武技の極み』により。『職業・パラディン・勇者』が上がりました。〈剣技(神刀流)〉が上がりました。〈操気術〉が上がりました。〈気配察知〉が上がりました。『魔導の極み』により、〈魔力感知〉、〈聖属性〉が上がりました。新しい呪文を覚えました。)

何か色々上がったな。後で確認するか。

    マップで改めて確認しても、何処にも反応は無かった。


    「何が起こったんだ?」
防御姿勢から戻ったバラン団長は呆然としながらそう呟いて私に聞いてきた。

「魔族が最後の力を振り絞って、団長殿を道連れにする為に魔法を放った様だが、事前にかけてあった、反射の魔法で、魔族に跳ね返したと言った所ですね。まあ、無事で良かったですよ。一瞬ヒヤリとしましたからね。さて、一帯を浄化しますかね。〈マップ表示・オン〉〈サーチ・瘴気に汚染されている場所〉。」
マップ画面に赤く塗られた部分が映っていた。

    (おや、結構広い範囲で汚染されているね。スラム街の三分の二はあるかな?これだと、放っておけば新しい魔族が産まれていたかもしれないな。きっちり、浄化しましょうか。)

「〈マルチロック〉表示赤、〈サンクチュアリ〉!」

    呪文を唱えた途端に、昼間だと言うのに、辺り一帯を白銀の光が立ち昇っていく。周辺のあちらこちらから、人々の驚きの声が上がっているのが聞こえてくる。

「オオガミ殿、この光は?」
「ああ、驚かした様ですみません。瘴気で汚染されていた場所を浄化する魔法の光ですよ。じきに消えますから、安心して下さい。」
「・・・オオガミ殿、貴方は何者だ?」
「私ですか?私は冒険者でツール伯爵のショウイチ・オオガミですよ。」

そう言い返すと、確認することを諦めたのか、サッパリとした裏のない顔付きで告げた。

「では、仕事も終わったと言うことなら、城に報告に戻ろうか、オオガミ殿。」
「ええ、帰りましょう。」

念のため、もう一度、マップとサーチで確認してから、馬車を止めてある場所に二人して戻っていく。

(魔族か。思った以上に強かったな。もっと修練しないと危ないな。)

歩きながら、私はそっと心に誓った。

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