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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

第175話 とあるパーティーのある長い一日。②

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    親方に届け物をした後、私の姿は町役場に来ている。行政長官の部屋の ソファーにハザル卿と対面で座り、話し合っている。

    「ハザル卿、スラムの住人の就職状況はどうですか?」
「はい、現状では凡そ八割の住人が職に就いて働いています。」
「あと、二割は何か理由でもありますか?」
「はい、残りの二割は病気や魔物との戦闘で四肢の何れかの欠損で働けない者達です。彼等をどうしたら良いかと思案の最中です。」
「私の方でも考えておくよ。これについてはまた後日話し合おう。」
「承知致しました。」
「次に町営の塩田の様子はどうなってるかな?」
「はい、伯爵から頂いた設計図を基に今塩田を造営中です。多分来月中には稼働出来るかと思われます。」
「製塩は指南書にある通りにやってください。そうすれば、苦味のない、甘塩が出来ます。岩塩から作る塩よりも安く出来るので今の塩より安く旨い塩を売り出せます。そうなれば、この町の一大産業になります。規模を拡大して雇用をもっと創出出来るので、慌てずに確実に頼みます。あと、町の南の農園はどうですか?」
「はい、農園は今、土作りが終わりやっと種を蒔き始めた所ですよ。これも伯爵のから頂いた農業指南書にある通り、小麦と大豆と牧草地の転作でしたか?がやり易いように区画整理してありますので、今の所問題はありません。
また、雇用でも女子供も積極的に雇うようしております。」
「賃金は適正に払っていますか?不当に安いとか無いでしょうね?」
「勿論です閣下。」
「商人や職人の移住はどんな様子ですか?」
「商人は予想通り増えてきているのですが、職人は中々増えていませんね。職人の育成を考えないといけないかと。まあ急には増やすのは難しいでしょうから、これは気長に見ていきましょう。町の規模が大きく成れば、自然と職人も集まって来るでしょうから。」
「分かった、有り難う。じゃあ、悪いが次にレオパルド卿を呼んで貰えるかな?」

ハザル卿が部屋を出ていき、レオパルド卿を連れて戻ってきた。

    「忙しい所、済まないね。さ、座ってくれ。ハザル卿も一緒に聞いてくれ。早速だが話し合おうか。」

    二人にソファーをすすめて、打ち合わせを始める。

「レオパルド卿、約一ヶ月経つが経費の収支状況はどうかな?」
「はい、今月の税収がまだなので、あくまで予測ですが、就労人口の増加と、冒険者ギルドと商業ギルドからの税収と公営の住宅建設などの公共投資、設備投資を考えると、正直今月については少々赤字になるかと思われます。」
「それは一時的なものかな?」
「はい、来月から各種税収が入りますので、現在の景気を考えますと、大幅な黒字を見込めます。大きな理由として、戸籍の作成が大きいですね。納税対象者がはっきりとして正確な金額予想が出来るので助かります。」
「以前渡した年末までの予算は余りそうかな?」
「はい、新しい大規模な事業でもやらない限り、不足することはないと思われます。」
「うん、順調だね。来年も塩田の拡大と農園の拡大、住宅建設を引き続き行う積もりだが、予算と経費のバランスを見て、赤字になりそうなら、早めに報告してくれ。」
「承知しました。」
「宜しくね。じゃあ、次にオルソン卿を呼んできてくれるかな。」
「承知しました。」

そう言って、レオパルド卿は立ち上がり、部屋を出ていった。

    暫くして、レオパルド卿がオルソン卿を連れて入って来た。

「二人とも座ってくれ。」

席をすすめ、座るのを待って話しかける。

「オルソン卿、町の治安状況はどうなっている?」
「はっ、闇ギルドが消滅したためか、今の住民による犯罪はほぼありません。」
「ほぼ?」
「まあ、酔っぱらい同士の喧嘩は中々無くなりませんので。ただ、町に新しく来た者による傷害事件は軽微ですが増えました。そこで閣下の許可を頂きたいのですが、衛兵の増員をお願いしたいのですが。」
「確か今五十人だったね。何人欲しいの?」
「はい、もう五十人をお願いしたいのですが。」
「増やすのは構わないが、レオパルド卿予算的にはどうなんだい?」
「現状の賃金でなら、もう五十人増やしても大丈夫かと。」
「そうか。なら許可する。ただし、衛兵の組織を整備してくれ。衛兵になりたての奴に司法権を渡すのは無茶だからね。小隊編成して、隊長にのみ司法警察としての権限を与える。ないとは思いたいが、下っぱが個人的な感情で罪を着せるなんて事になったら堪らないからね。この町の衛兵の権限は他よりも大きいから、雇う時にも縁故でなく、あくまでも個人の資質で選んでくれよ。責任重大だぞ?」
「はっ、承知しました。その他には商会から、海賊の被害の報告がまた増えてきました。閣下の方で対処頂けませんか?」
「分かった。残っている大きい所を潰してしまおう。任してくれて良いよ。」
「はっ、有り難うございます。自分からは当座、以上であります。」
「わかった。では済まないが、アルトリンゲン君を呼んできてくれるかな。」
「承知しました。」

今度はオルソン卿が、アルトリンゲンを呼びに部屋を出ていく。

    再びオルソン卿がアルトリンゲン君を連れて部屋に戻ってきた。

「閣下お呼びとのことで、参りました。」
「忙しい所悪いね。まあ、二人とも座ってくれ。」

二人がソファーに座るのを見てから話しかけた。

「アルトリンゲン君。新しい体制になって約一月になるが、新体制になってから何かしらの問題が出ていませんか?」
「いえ、大きな問題はありませんが、強いて言えば人口の増加によって戸籍の作成が遅れ気味になっている所です。今は何とか回せていますが、このまま人口が増加すると今の担当者の人数では業務に支障が出る事が予想されます。」
「今分かっている所の人口数は幾つなのかな?」
「はい、この一ヶ月で二万三千人ほどに増えました。」
「ほう、一月で三千人増えてますか。それは仕事が回らなくなりますね。レオパルド卿と相談して少しずつ人員を雇ってください。他に領民から何か苦情や申し出とかありますか?」
「はあ、実は幾つかあるのですが、お叱りを受けるかもしれませんが、民政部の受付を女性にして欲しいと申し出がありました。」
「ええ?今までは男性のみだったのですか?」
「あ、はい。以前は行政に受付など無かったので、女性の職員を雇う事は無かったのです。なので今は当番制で受付を担当しています。」
「分かりました。受付担当者として、女性職員を雇うことを許可します。受付をしていた男性職員は手の足りない所に回してください。他には?」
「人口が増えたことで、飲み屋や風俗の店を増やして欲しいとの陳情もあります。どう扱ったものかと、困っております。ご判断をお願いしたいのですが?」
「飲み屋は今のままの商業ギルドへの登録のみで構いませんが、風俗の店については、役場への許可申請を必要とします。許可には店の場所や業務内容や風俗嬢の労働状態、経営者の身の潔白を審査して、クリアした所のみ許可します。なるべく場所は同一の地区に集めてください。衛兵の巡回や取り締まりがしやすいように考えてください。いいですね?」
「承知しました。そのように取り計らいます。」
「他には?」
「いえ、取り敢えずありません。」
「では、以前にも言いましたが、各部署の連絡をしっかりとり、情報は互いに共有して下さい。」

私がそう言って念を押すと、四人は皆静かに頷いた。それを確認してからハザル卿に話し掛ける。

    「ハザル卿、総括すると今のところは順調と言えるのかな?」
「はい、一部を除けば順調と言えるでしょう。」
「分かりました。詳しい数字や状況は来月頭に報告書を提出してください。」
「「「「承知しました。」」」」

    昼時になったので、屋敷に戻ることにした。やはり任せられる形にして良かった。餅屋は餅屋ってね。やっぱ素人が現場に口を出さない方が上手く行くな。
そんな事を考えながら、屋敷に向けて歩いていた。


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