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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

第173話 散髪しないと前も見えません。でも・・・。

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    今、ツールの町は建築ラッシュである。国軍の兵舎や厩舎等の施設は王都から来て貰ったドワーフの大工職人達が急速に作り上げている。
また、孤児院やスラムの住人向けの家や一般向けの 家を伯爵家で資金を出して拡張した町の西側に建築中である。
その為の建材の木材や石材を冒険者へ依頼を出したり、商業ギルドに発注したりしている。

    木材は町の北にある、『魔の森』から切り出している。石材は町の西にある岩山から切り出してきている。また最近では伐採した魔の森の先に見つけた岩山からも、石材を切り出してきている。

    当然一人では魔物に襲われかねないので、護衛の依頼も増えたりして、冒険者ギルドも商業ギルドも好景気に沸いているのだ。

    当然、景気の良い話を聞き付けて、周辺から冒険者や商人が町に集まりだし次第に人口が増えてきている。また、周辺の農村から、家を継げない次男、三男が職を求めて集まってもきた。

    意外な事に、先日の商会の取り潰しにより、それまでの大商会同士での価格協定等が無くなり、ある意味自由市場となったためか、これまた周辺の町から、商売で身を立てようと若い商人達も集まってきた。私がこの町に来てから、そろそろ二ヶ月になろうとしている。

    私の商会『エチゴヤ』も無事に開業した。特に食材の事業が盛況だ。中でも一番のヒット商品はクッキーである。なんと販売開始から二週間経つが、今だに行列が絶えない人気ぶりだ。
あまりの人気のため、最初の内は店を開けて二時間しない内に売り切れていた。予想外に売り切れが続くので、思いきって生産量を増やすことを会頭のビルさんと話し合い決定する。料理スキルを持っている人を中心に職人を増員していく事にした。

    またマヨネーズやケチャップの方は、初めは物珍しく見られるだけだったが、クッキーを販売する店の隣に軽食のカフェを開き、クッキーは勿論、マヨネーズやケチャップを使った料理をカフェで出す様にしたら、カフェが大ウケ。
各種パスタ料理やハンバーグ、オムレツに肉料理や魚料理に野菜サラダにマヨネーズやケチャップやオオガミ特製ドレッシングをかけた小皿をつけた定食を出してみたが、旨いと評判がたって、それにつれてマヨネーズやケチャップも単体でも次第に売れるようになった。
    煮物やスープの味付けにケチャップを使った料理を提供しても旨いと評判になった。今後はさらに各種ピザを提供できるように、今ピザ釜を作っているところだ。うまく出来たら屋敷にも釜を作って、ピザが食べられるようにしたいな。
    また、早い時期にお米を探さないと、オムライスやチャーハンが食べたいからね。やっぱ米がないとレパートリーが少なくなってしまうからね。まあ、お客というより私がたべたいのだ。

    次に手動式水汲みポンプの製作もやっと、試作品が出来上がり、動作確認をしても問題ないという事で、王都にいる営業所長のポールに量産に入るように伝えて貰った。ある程度ストックができたらいよいよ販売を始める段取りだ。

    また、来週には町の人を招いて私の顔見せのパーティーを開く事となっている。
手筈はサウル、ガトー、クラリスらが会場や料理の準備を、招待客の選考や招待状送付をハザル卿を筆頭に役場の人たちが準備を進めている。

    やはり、パーティーという事で、ソニア、セイラ、シーラの許嫁ズは勿論、アイリスとアルメイダも楽しみにしている。
しかし、アイリスとアルメイダはパーティーというよりも、そこに出される料理に関心と期待が向いているようだ。まだ、食い気の方が勝っているみたいだね。

    そういう私は、ホストとして、招待客をもてなさないといけないが、日本式の宴会ならしたことはあるが、パーティー等と言うものとは生憎縁が無かったので、当日の事を考えると胃が痛くなってくるよ。
    そんな皆が忙しくしているときに、私は何をしているかと言うと、こちらに転生してから伸びっぱなしだった髪の毛を散髪してもらっている。以前王都にいるときサウルに頼んだままだったが、パーティーも近いことだし髪も伸び放題なので、思いきってお願いした。

    只今私は、ドレスルームの一角にある、三面鏡の前に座っております。首回りから白いシーツが巻かれています。意外にもこの世界にも既に散髪用のハサミがあるようだ。サウルが懐からマイハサミと櫛を取り出して構えた。

「旦那様、お髪おぐしを整えさせていただきます。」
「うん、頼むね。」

    最初は正直にこの世界の散髪事情がわからなかったので、大丈夫なのか心配はあったが、今のサウルの手つきを見るに、見事なハサミさばきで心配は杞憂に終わった。

    目の前の三面鏡の中の自分を見ると、この体でこの地に転生した時は眉毛にかかる長さだったが、今では伸びて目が隠れる程伸びていた。
今更ながらに、鏡の中の自分を見ると、違和感がある。普段は自分の顔を見る機会はさほどないためか、余計に違和感を感じる。鏡の中の私は、どちらかと言うと女顔で、男らしさよりも綺麗なという言葉が似合う顔である。中身が元アラフォーのおじさんの私には、どうしても違和感を感じる。
整形で顔を変えた人の気持ちってこんななのかなと考えながら、サウルの作業が終わるのを待つ。どうやら長髪にして、後ろ髪は伸ばすらしい。前髪は目にかからない長さに切られ、顔つきもあり、遠目では女と思われても仕方ない様に私には見えたが、やりきった満足感に浸るサウルの顔を見ると何も言えなくなった。

「旦那様、お待たせ致しました。いかがでしょうか?」
「うーん、なんか余計に女顔になったような気がするのだが?」
「いえいえ、大変お似合いでございますよ。」
「そうかい?ありがとう、サウル。また頼むね。」

    その後、昼食の時に許嫁ズの三人にはお似合いですわと誉めてもらえたが、アルメイダからは、こう言われる。

「ショウ兄ちゃん、お姉ちゃんになったの?」

と言われた時は、アルメイダだけが正直者だなと思ったよ。



   
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