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第 九章 町政と商会の始動そして海賊退治。

幕間28話 ある頭領の決断。②

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    この翌日に、ツールに向かい、アノ伯爵様と会うことになる。



    「十年以上ぶりだな。この町に来るのも。心なしか、町の皆の顔が明るいな。」

行き交う人々の笑い顔や走り回っている子供達の笑い声を聞きながらそう思う。

    行き交う人に領主の館の場所を聞き歩いてむかった。
十五分程も歩いたら、目の前に真新しい新築の屋敷が目に入ってきた。こんな新しい屋敷があったかなと造形は子供の頃に見た来賓用の屋敷だったが、当時でも結構古い屋敷だったのを覚えている。赴任してからの短い時間に、立て替えたのかなとか思いつつ門にいる守衛に名前と伯爵様への面会を申し込む。
暫くして若い執事が俺を迎えに来た。
執事に連れられて三階にある伯爵様の執務室に案内された。俺が入っていくと、奥の執務机から立ち上がって、ソファーに座るように勧めてくれた。執事にお茶を頼むとオレの対面に座った。

「初めまして、私がツール伯爵のショウイチ・オオガミだ。何か私に会いたいとの事だが、何用かな?まずは、お名前から伺おうか。」

俺の正面に座る男の顔と姿を見ると、体つきはがっしりしているが、顔つきは美少年と言っても文句は出ない程、整った顔をしている。とても報告にあった人物とは思えなかった。

「初めまして。俺はドレイク・パーシモンと言います。貴方には『義賊団』の頭領と言えば、お分かり頂けると思います。」
「・・・ああ、貴方が『義賊団』の頭領ですか。先日の海賊達からお名前は聞いてましたよ。何やら特定の相手だけ襲う海賊なのか分からない者達だと。」
「あいつらは、そんな風に言ってましたか。俺達自身は義賊と名乗っていますがね、襲われる側からすれば海賊と同じなのでしょうね。」

    そんな話を始めた時に先程の執事がお盆にティーセットを持って入ってきた。会話を中断して様子を見ていると、見事な手つきでお茶を淹れている。俺と伯爵の前にカップを置いて一礼して出ていった。
   
    カップを取り、一口飲むと良い香りが漂う。アノ若さでこの旨さを出せるとは、たいした腕前だ。

「今の執事、年の割には旨いお茶を淹れますな。」
「ええ、厳しい師匠がいますからね。以前より腕を上げて来た様ですねぇ。将来が楽しみですよ。」
「ふふふ、失礼だが、伯爵様はとても十五歳とは思えない器量ですな。」
「煽てても何も出ませんよ。所詮十五の小僧ですから。そろそろ、本題に入りませんか、頭領?」
「そうですな。貴方相手に追従ついしょうは意味が無いようですからな。」

    どうやら、見た目とは違ってこの伯爵は現役の商人と同じ位手強そうだ。全力でいくぞ。
  
    「伯爵様には回りくどい言い方よりも、率直に話した方が良さそうなので、結論から言います。うちの『義賊団』丸ごと雇いませんか?」
「やはりそうですか。では、判断の為に幾つか質問させて貰います。」
「何なりと、どうぞ。」
「まず、何故海賊擬きなことをする様になったのですか?」

やはり、ここは聞いてくるよな。

「・・・そうですね。伯爵様には聞いて貰った方が良いですね。始めに言いますが、俺達も好んで海賊の真似事をしている訳ではないのですよ。俺の家は十年程前はこのツールで一番の貿易、運輸を扱う『パーシモン商会』を営んでいました。俺が言うのも何ですが、何隻も船を持って結構大きな商会でした。そこに先代の代官が横領で捕まった後に、赴任して来たのが先の代官のアシリー・アクダイクンだったのです。
    この町は昔から港町の為か闇商人や闇ギルドがいついてましてね。歴代の代官を手懐けようとして働きかけて来ました。勿論、そんな事には屈しないまともな代官もおりましたが、中には闇ギルドに殺される者も居たそうです。そして新任のアシリーも初めは真面目に仕事をしていたらしいのですが、何時しかから、闇ギルド達に手懐けられていたのです。その当時は王宮でも貴族派が台頭してきて、外には注意を向けられなかったようで、アシリーが不正を始めても気付く事は無かったのです。勿論アイツもバレる報告はしなかったようですが。その中でウチの『パーシモン商会』は、真面目に商いをしていたためか、伯爵様が潰した商会達と闇ギルドには邪魔な存在だったらしいのです。    
    そこで、禁制品の密輸、密売の犯罪の濡れ衣をかけて、当時の『パーシモン商会』の会頭だった俺の親父、カーチス・パーシモンを逮捕したのです。
勿論、親父は身に覚えがないのですから、身の潔白を主張したのですが、既に代官は闇ギルド達に手懐けられていて、始めから罪に落とす積もりだったのでしょう。
    親父も途中で嵌められたことに気付いて、面会に行った時に町をすぐに出ろと、俺はどうあっても助からないから、家族と商会の皆と船乗り達を連れて、船で町を離れろと。でないとお前達も始末されるからと。その三日後、急に裁判が開かれ死刑の判決が言い渡されて、即日死刑の執行がされました。俺達はその前の日に逃げ出していたので何とか捕まらずに済みましたがね。その後は商会が昔から船の一時停泊所に使っていた、沖合いの小島に移りそこで暮らすことになったわけです。勿論、小島ですから作物がとれる訳でもなく、そこで武装商船として独自に商いをしたり、海賊や親父を嵌めた商会の船を襲って、荷を奪い糧を得てきたわけです。
    やっている事は罪でしょうが、そもそも俺達をこんな立場に落とした奴らが、のうのうと商売をしている事の方がおかしいでしょう?違いますか?・・・すみません少し興奮してしまいました。生き残る為と仲間達を食わせるために、海賊まがいの事をしているわけです。」
「・・・成る程ね。事情は分かったよ。つまり君もあのバカ代官の被害者なんだねぇ。なら、今までの事については罪を問わないこととする。但し、関係者以外は襲うことは無かったんだよね?」
「勿論だ。こんな身にはなったが、これでもまだ俺は『パーシモン商会』の会頭の積もりだ。濡れ衣を被せた奴らと、元々の敵の海賊以外に真っ当な人達を襲うことは親父の名誉に掛けてしていねぇよ。そんな事をしたら母ちゃんに殴られるよ。」
「ハハお前でも、母親には勝てないか。いいだろう。信じるよ。」
「おいおい、そんな事で信じるのか?」
「話していても、お前さんには不快な感じはしないしな。言っている事にも嘘は感じられない。ならば信じるしかないだろう、フフフ。」
「ここに来る前に色々と伯爵様、あんたの噂を聞いてきたが、噂通りだな。」
「どんな風に言われているんだい、私は?」
「いや、怒らねぇでくれよ。この町じゃ、伯爵様は変わり者の貴族だって言われてるぜ。」
「ふ、変わり者か。まあ、確かにそうだからな。
私はね、好きで伯爵になったわけではないんだよ。元々冒険者でね。この前の帝国との戦闘でちょっとだけ勝ちに貢献したものだから、貴族にされちまっただけだ。お陰で、私の自由は無くなったよ。言ってみれば、身なりの良い国の奴隷みたいなものさ。俺にはどこにも自由はない。貴族なんかより平民の方がよっぽど自由さ。」
「おいおい、貴族のあんたがそんな事を言って良いのかい?」
「身分は貴族になったが、俺は俺だ。変わりようもないし変わるつもりもないさ。元々貴族は嫌いだったしな。」
「噂に違わず、変わり者なんだな。正直驚いたよ。」
「話が大分外れたな。次の質問だ。何故この時期に訪ねてきた?」
「それなんだが、正直十年こんな暮らしを何とか続けたが、そろそろ厳しくなってきていたんだよ。今はまだ良いが、年と共に船乗り達も年を取る。新しく船乗りになる者は少ない。どう考えても先細りだ。
そんな時に伯爵様、あんたがこの町にきた。そしてあのアシリーや闇ギルド、そして親父を嵌めた商会の奴ら全てをあっという間に始末してくれた。ある意味あんたは俺達の恩人だ。あんたなら、話を聞いてくれる。俺達も前の様に真っ当な生活が送れる。着いてきてくれた仲間にも安心な生活を送らせる事が出来る。そう思って今日会いにきた。あんたの元で真っ当な暮らしをさせてもらえないだろうか?」
「・・・そうか納得したよ。いいだろう。纏めて雇うとしよう。そうすると、雇用形態は二つある。一つは私の立ち上げた商会の『エチゴヤ』の一員となるか、または私設の海軍として伯爵家に仕えるかだ。つまり、傭兵だな。まあ、どちらもやる仕事は周辺航路の安全確保つまり海賊退治と、さっき言った『エチゴヤ』の商船の護衛だな。勿論、自分達の持ち舟を使って商売を個人的にするのも構わないよ。たたし軍務優先だし商業ギルドに登録してキチンと納税をするならね。特権はないが他の商会と差別もしない。その後はお前さんの商才だな。どうする?」
「私設の海軍として雇ってくれ。『パーシモン商会』の看板は残さねぇと、母ちゃんに殺されるんでな。」
「分かった。雇用条件として平の水夫は月銀貨五十枚、幹部は月金貨一枚、船長は月金貨三枚だ。お前さんは、月金貨五枚でどうだ。あと町への居住権と商業ギルドへの紹介状。後ちと中古だが新造同然の船を一隻に最後に色々と家を買ったり借りたりしないといけないだろうから、支度金として金貨三百枚渡す。どうかな?」

    伯爵様の条件を聞いていると、余りの良い条件にポカンとしてしまった。そして思わず呟いたよ。

「あんた気前が良すぎだな。」
「役に立たないなら、解雇するだけだ。俺はね、お前さん達なら役に立つと思うから投資をするんだ。商売と同じさ。」

    その言葉を聞いて嬉しくなった。つまり投資するに値する物件だと評価されたわけだ。

「いいねぇ。そういう、はっきりとした所は好きだぜ。」

この後、契約のための細々した部分を詰めて、雇用契約を交わした。

だが、俺はこのオオガミ伯爵と言う人をまだ甘く見ていたようだ。変わり者なんてまだまだ甘い表現だったと、思い知らされることとなるからだ。


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