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第 六章 貴族稼業の準備そして・・・・。

幕間20話 とある女神官の行軍記。

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    この話は、リーラ平原の会戦と後に言われる戦いに勝利して、捕虜を引き連れてマールの街から王都に帰還している最中の話である。

    マールの街を出発して二日目、明日には王都に到着する。
    私ことシーラ・ウィンドフィールドは、あの戦いの後、どうしてもオオガミ様にお訊きしたいことがあり我慢ができなくて、遂に質問してしまいました。

    「オオガミ様、一つ質問にお答え頂けないでしょうか?」
「ああ、いいよ。なんだいシーラ。改まって質問とは?」
「はい、お訊きしますね。以前、ご自分は『勇者 』でも『英雄』でもないと仰いましたよね?」
「ああ、その通りだね。」
「先日の帝国との戦いを見させて頂きましたが、あれ程のお働きを示しても『勇者』や『英雄』ではないとまだ言われますか?」

    私の突然の質問の内容に兄も興味を持ったのか、会話に耳を傾けています。オオガミ様がどうお答えするのか待っていると。暫く考えてから言われました。

    「・・・・そうだね。ご期待にそえないが、俺はやはり『勇者』でも『英雄』でもないよ。」
「何故ですか?過去に『勇者』『英雄』と言われた方でも、あれ程の戦果は上げられていません。十分呼ばれる資格は、あると思いますが?」
「じゃあ、逆に質問するね。この世の中に『勇者』『英雄』って言う『職業クラス』は、あるのかい?」
「いえ、ありません。唯一、始祖王様が『勇者』ではないかと周りから言われたそうですが、ご本人はイエスともノーとも言われなかったそうです。
それ以外はクラスで『勇者』『英雄』を聞いたことはありませんわ。」
「だろうね。だから俺は『勇者』でも『英雄』でもなくて、ただの冒険者の『魔法剣士』なんだよ。いいかい?『勇者』『英雄』なんて、自分から言うやつは、きっと詐欺師だよ。(笑)そうだろう?だってそんな『職業』無いのだからね。」

    (なんか、オオガミ様は『勇者』や『英雄』という存在を嫌っているみたいですね。何故でしょうか?)

    「では、『勇者』や『英雄』とは、何だとお考えですか。教えて頂けますか?」

    少し躊躇いながら、答えてくれた。
「・・・『勇者』と『英雄』か。そうだね。民衆の為の生け贄だね。」
「そんな!何でそんな事を言われるのですか?」
「誰も初めから『勇者』や『英雄』ではないよ。そう言われるまでに、それぞれの信条に従って戦い抜いた結果そう言われる様になるよね?」
「ええ、そうですね。」
「彼ら自身は、そう呼ばれるために戦い抜いたわけではない。そして、『勇者』だ『英雄』だと、その人間を称賛する民衆の心の底には何があるのかな?
    確かに純粋な称賛もあるだろう。しかし、煽てて自分の為に利用しようとする者もいるだろう。いざという時は、無償で助けて貰おう、楽して守って貰おうと思っている者もいるだろうね。」
「えっ、そんな方ばかりでは無いです。皆さん純粋に称賛の気持ちでいますよ。」
「さすが、助祭殿だね。心根が真っ直ぐでらっしゃる。貴方はそのままでいなさい。但し、同時に人間は二つの心、まあ元々は一つの物なんだけどね。それを持っている生命体だという事も覚えておきなさい。」

    「他人の為に何かして上げよう。我が身を懸けて行動する。弱者を助けたい。そういった正しい友愛または仁と言われる心もあれば。
また、人より旨い物を食いたい。綺麗な服を着たい。自分では戦いたくない。誰かに助けて貰いたい。楽して生活したい。そういった負の心もある。
    実はそれは、『欲』という人間だからこそ持っている物の表と裏なんだよ。最初は称賛の気持ちかもしれないが、その内にその事に慣れてしまい。『勇者』なんだから、『英雄』なんだから、自分達を助けるのが当たり前。私達は弱者なんだから私達の為に戦うのは『勇者』『英雄』なら当然だと思うようになる。いえ、思いたいのだな。
    何故なら、自分は死にたくない。怖い思いに会いたくない。戦いたくない。という『欲』が出てきて、そう思う様になるのさ。残念だがそれが『欲』を持つ人間という存在だからだ。確かにあなたのように、心根が真っ直ぐで強い人もいる。しかしそれだけじゃないのですよ人は。」

    「また逆に何故、正しい心の行いが大勢から尊ばれるか分かりますか?」
「いえ、何故でしょう?」
「それはね、ほとんどの人が、自分にはそれが出来ない事だと何処かで分かっているからですよ。だからこそ称賛する。でも、いずれそれが続いていくと、やることが当たり前になる。

    俺はね、知り合いや友人が殺されたり悲しむ顔を見るのは嫌なのでね。その為なら頑張りもするけど、知らない人のために命をかけるほど、酔狂じゃないのでね。だから『勇者』でも『英雄』でもないし、成りたくもない。これで分かってくれたかな?」

    どうやら私は思い違いをしていたようです。神様から『使徒』様と言われて、オオガミ様を神様と同じに感じていたようです。
    いくら『使徒』様であっても、この世界で生きる人間なんだと今言われてやっと悟りました。好き嫌いの感情もある普通の男の方なのだと。
人からの思い込んだ期待など、この方には迷惑でしかないと。

    これからは、本人が言われる、冒険者オオガミ様の従者として、そのお気持ちを大事にしてあげたいです。



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