115 / 572
第 六章 貴族稼業の準備そして・・・・。
幕間20話 とある女神官の行軍記。
しおりを挟む
この話は、リーラ平原の会戦と後に言われる戦いに勝利して、捕虜を引き連れてマールの街から王都に帰還している最中の話である。
マールの街を出発して二日目、明日には王都に到着する。
私ことシーラ・ウィンドフィールドは、あの戦いの後、どうしてもオオガミ様にお訊きしたいことがあり我慢ができなくて、遂に質問してしまいました。
「オオガミ様、一つ質問にお答え頂けないでしょうか?」
「ああ、いいよ。なんだいシーラ。改まって質問とは?」
「はい、お訊きしますね。以前、ご自分は『勇者 』でも『英雄』でもないと仰いましたよね?」
「ああ、その通りだね。」
「先日の帝国との戦いを見させて頂きましたが、あれ程のお働きを示しても『勇者』や『英雄』ではないとまだ言われますか?」
私の突然の質問の内容に兄も興味を持ったのか、会話に耳を傾けています。オオガミ様がどうお答えするのか待っていると。暫く考えてから言われました。
「・・・・そうだね。ご期待にそえないが、俺はやはり『勇者』でも『英雄』でもないよ。」
「何故ですか?過去に『勇者』『英雄』と言われた方でも、あれ程の戦果は上げられていません。十分呼ばれる資格は、あると思いますが?」
「じゃあ、逆に質問するね。この世の中に『勇者』『英雄』って言う『職業』は、あるのかい?」
「いえ、ありません。唯一、始祖王様が『勇者』ではないかと周りから言われたそうですが、ご本人はイエスともノーとも言われなかったそうです。
それ以外はクラスで『勇者』『英雄』を聞いたことはありませんわ。」
「だろうね。だから俺は『勇者』でも『英雄』でもなくて、ただの冒険者の『魔法剣士』なんだよ。いいかい?『勇者』『英雄』なんて、自分から言うやつは、きっと詐欺師だよ。(笑)そうだろう?だってそんな『職業』無いのだからね。」
(なんか、オオガミ様は『勇者』や『英雄』という存在を嫌っているみたいですね。何故でしょうか?)
「では、『勇者』や『英雄』とは、何だとお考えですか。教えて頂けますか?」
少し躊躇いながら、答えてくれた。
「・・・『勇者』と『英雄』か。そうだね。民衆の為の生け贄だね。」
「そんな!何でそんな事を言われるのですか?」
「誰も初めから『勇者』や『英雄』ではないよ。そう言われるまでに、それぞれの信条に従って戦い抜いた結果そう言われる様になるよね?」
「ええ、そうですね。」
「彼ら自身は、そう呼ばれるために戦い抜いたわけではない。そして、『勇者』だ『英雄』だと、その人間を称賛する民衆の心の底には何があるのかな?
確かに純粋な称賛もあるだろう。しかし、煽てて自分の為に利用しようとする者もいるだろう。いざという時は、無償で助けて貰おう、楽して守って貰おうと思っている者もいるだろうね。」
「えっ、そんな方ばかりでは無いです。皆さん純粋に称賛の気持ちでいますよ。」
「さすが、助祭殿だね。心根が真っ直ぐでらっしゃる。貴方はそのままでいなさい。但し、同時に人間は二つの心、まあ元々は一つの物なんだけどね。それを持っている生命体だという事も覚えておきなさい。」
「他人の為に何かして上げよう。我が身を懸けて行動する。弱者を助けたい。そういった正しい友愛または仁と言われる心もあれば。
また、人より旨い物を食いたい。綺麗な服を着たい。自分では戦いたくない。誰かに助けて貰いたい。楽して生活したい。そういった負の心もある。
実はそれは、『欲』という人間だからこそ持っている物の表と裏なんだよ。最初は称賛の気持ちかもしれないが、その内にその事に慣れてしまい。『勇者』なんだから、『英雄』なんだから、自分達を助けるのが当たり前。私達は弱者なんだから私達の為に戦うのは『勇者』『英雄』なら当然だと思うようになる。いえ、思いたいのだな。
何故なら、自分は死にたくない。怖い思いに会いたくない。戦いたくない。という『欲』が出てきて、そう思う様になるのさ。残念だがそれが『欲』を持つ人間という存在だからだ。確かにあなたのように、心根が真っ直ぐで強い人もいる。しかしそれだけじゃないのですよ人は。」
「また逆に何故、正しい心の行いが大勢から尊ばれるか分かりますか?」
「いえ、何故でしょう?」
「それはね、ほとんどの人が、自分にはそれが出来ない事だと何処かで分かっているからですよ。だからこそ称賛する。でも、いずれそれが続いていくと、やることが当たり前になる。
俺はね、知り合いや友人が殺されたり悲しむ顔を見るのは嫌なのでね。その為なら頑張りもするけど、知らない人のために命をかけるほど、酔狂じゃないのでね。だから『勇者』でも『英雄』でもないし、成りたくもない。これで分かってくれたかな?」
どうやら私は思い違いをしていたようです。神様から『使徒』様と言われて、オオガミ様を神様と同じに感じていたようです。
いくら『使徒』様であっても、この世界で生きる人間なんだと今言われてやっと悟りました。好き嫌いの感情もある普通の男の方なのだと。
人からの思い込んだ期待など、この方には迷惑でしかないと。
これからは、本人が言われる、冒険者オオガミ様の従者として、そのお気持ちを大事にしてあげたいです。
マールの街を出発して二日目、明日には王都に到着する。
私ことシーラ・ウィンドフィールドは、あの戦いの後、どうしてもオオガミ様にお訊きしたいことがあり我慢ができなくて、遂に質問してしまいました。
「オオガミ様、一つ質問にお答え頂けないでしょうか?」
「ああ、いいよ。なんだいシーラ。改まって質問とは?」
「はい、お訊きしますね。以前、ご自分は『勇者 』でも『英雄』でもないと仰いましたよね?」
「ああ、その通りだね。」
「先日の帝国との戦いを見させて頂きましたが、あれ程のお働きを示しても『勇者』や『英雄』ではないとまだ言われますか?」
私の突然の質問の内容に兄も興味を持ったのか、会話に耳を傾けています。オオガミ様がどうお答えするのか待っていると。暫く考えてから言われました。
「・・・・そうだね。ご期待にそえないが、俺はやはり『勇者』でも『英雄』でもないよ。」
「何故ですか?過去に『勇者』『英雄』と言われた方でも、あれ程の戦果は上げられていません。十分呼ばれる資格は、あると思いますが?」
「じゃあ、逆に質問するね。この世の中に『勇者』『英雄』って言う『職業』は、あるのかい?」
「いえ、ありません。唯一、始祖王様が『勇者』ではないかと周りから言われたそうですが、ご本人はイエスともノーとも言われなかったそうです。
それ以外はクラスで『勇者』『英雄』を聞いたことはありませんわ。」
「だろうね。だから俺は『勇者』でも『英雄』でもなくて、ただの冒険者の『魔法剣士』なんだよ。いいかい?『勇者』『英雄』なんて、自分から言うやつは、きっと詐欺師だよ。(笑)そうだろう?だってそんな『職業』無いのだからね。」
(なんか、オオガミ様は『勇者』や『英雄』という存在を嫌っているみたいですね。何故でしょうか?)
「では、『勇者』や『英雄』とは、何だとお考えですか。教えて頂けますか?」
少し躊躇いながら、答えてくれた。
「・・・『勇者』と『英雄』か。そうだね。民衆の為の生け贄だね。」
「そんな!何でそんな事を言われるのですか?」
「誰も初めから『勇者』や『英雄』ではないよ。そう言われるまでに、それぞれの信条に従って戦い抜いた結果そう言われる様になるよね?」
「ええ、そうですね。」
「彼ら自身は、そう呼ばれるために戦い抜いたわけではない。そして、『勇者』だ『英雄』だと、その人間を称賛する民衆の心の底には何があるのかな?
確かに純粋な称賛もあるだろう。しかし、煽てて自分の為に利用しようとする者もいるだろう。いざという時は、無償で助けて貰おう、楽して守って貰おうと思っている者もいるだろうね。」
「えっ、そんな方ばかりでは無いです。皆さん純粋に称賛の気持ちでいますよ。」
「さすが、助祭殿だね。心根が真っ直ぐでらっしゃる。貴方はそのままでいなさい。但し、同時に人間は二つの心、まあ元々は一つの物なんだけどね。それを持っている生命体だという事も覚えておきなさい。」
「他人の為に何かして上げよう。我が身を懸けて行動する。弱者を助けたい。そういった正しい友愛または仁と言われる心もあれば。
また、人より旨い物を食いたい。綺麗な服を着たい。自分では戦いたくない。誰かに助けて貰いたい。楽して生活したい。そういった負の心もある。
実はそれは、『欲』という人間だからこそ持っている物の表と裏なんだよ。最初は称賛の気持ちかもしれないが、その内にその事に慣れてしまい。『勇者』なんだから、『英雄』なんだから、自分達を助けるのが当たり前。私達は弱者なんだから私達の為に戦うのは『勇者』『英雄』なら当然だと思うようになる。いえ、思いたいのだな。
何故なら、自分は死にたくない。怖い思いに会いたくない。戦いたくない。という『欲』が出てきて、そう思う様になるのさ。残念だがそれが『欲』を持つ人間という存在だからだ。確かにあなたのように、心根が真っ直ぐで強い人もいる。しかしそれだけじゃないのですよ人は。」
「また逆に何故、正しい心の行いが大勢から尊ばれるか分かりますか?」
「いえ、何故でしょう?」
「それはね、ほとんどの人が、自分にはそれが出来ない事だと何処かで分かっているからですよ。だからこそ称賛する。でも、いずれそれが続いていくと、やることが当たり前になる。
俺はね、知り合いや友人が殺されたり悲しむ顔を見るのは嫌なのでね。その為なら頑張りもするけど、知らない人のために命をかけるほど、酔狂じゃないのでね。だから『勇者』でも『英雄』でもないし、成りたくもない。これで分かってくれたかな?」
どうやら私は思い違いをしていたようです。神様から『使徒』様と言われて、オオガミ様を神様と同じに感じていたようです。
いくら『使徒』様であっても、この世界で生きる人間なんだと今言われてやっと悟りました。好き嫌いの感情もある普通の男の方なのだと。
人からの思い込んだ期待など、この方には迷惑でしかないと。
これからは、本人が言われる、冒険者オオガミ様の従者として、そのお気持ちを大事にしてあげたいです。
10
お気に入りに追加
3,637
あなたにおすすめの小説
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
【完結】転移魔王の、人間国崩壊プラン! 魔王召喚されて現れた大正生まれ104歳のババアの、堕落した冒険者を作るダンジョンに抜かりがない!
udonlevel2
ファンタジー
勇者に魔王様を殺され劣勢の魔族軍!ついに魔王召喚をするが現れたのは100歳を超えるババア!?
若返りスキルを使いサイドカー乗り回し、キャンピングカーを乗り回し!
経験値欲しさに冒険者を襲う!!
「殺られる前に殺りな!」「勇者の金を奪うんだよ!」と作り出される町は正に理想郷!?
戦争を生き抜いてきた魔王ババア……今正に絶頂期を迎える!
他サイトにも掲載中です。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる