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第 八章 領主就任と町の掃除。

第128話 異名「雷光」と拡大する悪意。

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    「マスター、オオガミさんをお連れしました。」
「おはいり。」

受付嬢がノックの後に入室許可を得ると扉を開けて中に招き入れる。

「ご苦労さん。あんた、私と彼にお茶を持ってきておくれ。」
「分かりました。失礼します。」

受付嬢は丁寧に挨拶をして、扉から出ていった。

    「よく来なすったね。私がツール冒険者ギルドのマスターのリリィさね。Aランク冒険者で『真理の剣』のリーダーのオオガミ君。それともこの町の新しい領主様の『雷光』のツール伯爵様かい?」
「その、『雷光』てのは、なんだい?マスター?」
「おや、知らないのかい?今王都やリヒトの冒険者ギルドで知らない方が少ない位に広まっているアンタの異名さ。ザラ将軍を一騎討ちで倒した所を見た国軍の兵士達が言い出したらしいねぇ。今じゃ冒険者で知らない者は少ないよ。まあアンタがそうだとは普通見ただけでは気付かないだろうがね(笑)。」

ケタケタと面白げに笑うマスターを見て、私は顔をしかめながらいう。

「まあ、言いたい奴には言わしとくさ。今日は領主と冒険者の両方だ。前の代官のバカのせいで、いまだに後始末でバタバタしているが、挨拶にきたよ。冒険者ギルドに希望することは、普通に運営して魔物の素材や薬の素材を安定して町に供給してくれ。あと、質問なんだが、下で依頼を見てきたが、何故か他の町より薬草採取の依頼が多いようだが、何か理由でもあるのかい?」
「ああ、あれね。」

マスターは渋い顔をしながら答える。

「あれはね、薬草採取は低ランクの主な仕事なのはわかるだろ?その低ランクの冒険者が一つでもランクが上がると、皆直ぐにゴブリンや害獣退治に手を出すのさ。そして怪我をしてはポーションに頼るもんだから、薬草の供給が増えないどころか減っているのに、薬の需要が増えていて、しかも、この前のクロイセン帝国との戦いで、軍がポーションを買い占めたもんだから、在庫も無い状態なんだよ。
薬師も錬金術師も人数は少ないからね。生産数を上げることもそうそう出来ない。そう言った理由さね。」
「なるほど。出来ることはないか私も考えてみよう。」
「ああ、頼めるかい?」
「約束は出来ないがな。とにかく今は行政組織を建て直さないと、何もできんよ。うん、参考になった。また、状況を聞きに来るよ。次の予定があるのでね、お茶も飲まずに行くが済まないね。」
「分かってるさ。あの馬鹿代官の後始末で忙しいんだろ。頑張りなよ。ああ、今度来る時は酒の一本でももってきな。」

立ち上がり、帰りを告げてマスターの部屋から出る。
  
    階段の途中でお茶を乗せたお盆を持って、階段を登ってくる受付嬢に会う。

「あぁ済まないね。急ぎで帰るから、そのお茶は君が飲んでおいてくれ。では。」

    挨拶だけして、ギルドから出て馭者に次の行き先を告げて馬車に乗り込む。

    私が馬車に乗った頃、ギルドマスターの部屋では、お茶を持ってきた受付嬢がマスターと話していた。

「マスター、先程のお客様はAランク冒険者のようでしたが、何者ですか?」
「おや、感付いたかい。ありゃ、一種の化け物さね。あれが噂の『雷光』だよ。覚えておきな。」
「ええ?!あんなに若い人がですか?」
「確かに年齢は経験となって強さに繋がりやすいがね。たまにいるんだよ。そんな事が全く関係ない人間がね。知っているかい?あの『雷光』は冒険者になってまだ四ヶ月程だよ。信じられるかい?ハハハ。」
「四ヶ月ですか?普通ならまだGランクですよね。」
「つまり、普通じゃないってこった。いいかい?アイツからの用件は最優先で私に伝えるんだよ。いいね?サブマス。」
「承知しました、マスター。」

    教会に向かう馬車の中で、アイリスに精霊魔法について聞いた。
    以前、図書館で〈コピー〉して呼んだ精霊魔法の魔法書はどうやら、人間が使えない精霊魔法をこうだろうと勝手に解釈して書いた物で、話を聞くとかなり違っていることが分かった。まず、属性魔法と異なり精霊魔法は召喚魔法に近く、召喚した精霊に魔力を与えて魔法を発動させる。また属性魔法の様に、精霊達それぞれは、属性があり、一つの精霊はその属性以外は使えない。水の精霊に火の魔法は使えないということだ。なので個人や種族で扱える属性が決まっている。例えばドワーフなら土と火とか、エルフなら風と水と緑とか。そして魔法スキルが高いほど、高位の精霊を呼び出せるそうだ。精霊が高位になる程大きな魔法が使えるのだ。過去には精霊王を呼び出した者もいたそうだ。そんな精霊魔法の解説を聞いている内に、教会についた。

(ピロ~ン♪メールが届きました。ユーガッタメール!)

    おおっと、ビックリしたな。

「〈ステータスオープン〉。」

早速、神様メールを開く。  

(オオガミ君へ、許嫁三人と妹分二人連れて祈りに来てくれ。    神より。)

急になんだろうね。取り敢えず皆連れていこうかね。

    教会に入ると、シーラがお掃除をしていた。私の姿を見て、笑みを浮かべ尋ねてきた。

「ショウ様、司祭様に面会ですか?」
「ああ、頼めるかな?」
「暫くお待ち下さい。」

    「お待たせいたしました、使徒様。当教会の司祭のフロイスでございます。」
「フロイス殿、確かに私は使徒ですが同時にこの町の住人なんですから。王都の司祭長殿にもお願いしましたが、普通に応対してくださいね。」
「承知しました。では、どのようにお呼びすればよろしいので?」
「オオガミでも伯爵でも領主でも好きに呼んでください。」
「承知しました、オオガミ様。それで、どのようなご用でしょうか?」
「確か町の孤児院は教会の管理なのですよね?」
「はい、現在十人程面倒を見ております。」
「成る程、何人まで増やせますか?」
「そうですね、後せいぜい一人か二人と言ったところですね。孤児院の建物の大きさもありますが、面倒を見て世話をしてくださる人達へのお礼もままならない程です。現状これ以上の人数は無理としか言えません。私の力不足であります。」
「なるほど、では資金は私が伯爵家として補助しますから、主に未亡人の寡婦を二~三人雇ってください。建物は将来大きい物を用意しますので、出来るだけ助けて下さい。偽善でしょうが、何もしないよりは、やるだけましですから。」
「有難うございます。オオガミ様、偽善と今言われましたが、それでもやり続ければ、それは紛れもない善となりましょう。ご助力有難うございます。」
「そう言って頂けると助かります。あとシーラなんですが、基本私付きの神官ということで、私の事での用事がないときには教会のお手伝いに使って下さい。あと、シーラを通じて色々ご連絡をすると思います。ご協力お願いします。」
「承知しました。」
「では、お祈りをさせてもらって帰りますね。」

    司祭様に案内され、神像の前に片膝をついて手を合わせるが、アルメイダがどうしたら良いのか分からない様なので、手を合わせて『神様、有難う。』そう思ってお祈りをすれば良いと教える。改めてお祈りをすれば、いつもの様に、一面真っ白い部屋にいる。

    「久しぶりじゃのオオガミ君や。」
「お久しぶりです。神様。」
「にゃ、ここはどこにゃ。真っ白いにゃ。」
「おお、可愛いのぉ。白虎の加護を受けし幼子おさなごよ。」
「お爺ちゃんは誰にゃ?ショウ兄ちゃんと同じでポカポカして気持ち良いにゃ。」
「そうよな、ある意味オオガミ君のお爺ちゃんだよ。」
「お爺ちゃんなのかにゃ。よろしくなのにゃ。アルメイダなのにゃ。」
「おお、良い子じゃのう。どれ、良い物を与えよう。ショウ兄ちゃんと仲良くな?」
「アルはショウ兄ちゃんが大好きなのにゃ。ショウ兄ちゃんはアルを守ってくれてご飯をくれるにゃ。大きくなったら今度はアルがショウ兄ちゃんを守るにゃ。」
「そうか、頑張りなさい。ワシはいつでも見ておるからの。」

神様はアルメイダの頭の上に掌を乗せて撫でて微笑んでいる。
それから、顔つきを真剣なものに変えて私を見た。

    「オオガミ君、不味いことになってきているぞ。」
「何がでしょうか?」
「魔族が少しずつだが増えてきているようだ。この前のクロイセン帝国だけでなく、他の国にも現れて来はじめていることが判かった。憑依されたのは、クロイセン帝国の者の他はまだいないようだが、状況を見ていると、いつ憑依された者が増えていてもおかしくない状況だ。君のいるウェザリア王国にも現れているぞ。身の回りに注意してくれ。いつでも戦えるようにな。従者の者達もそのつもりでな。」

一旦言葉を切り、アイリスを見て話始める。

    「次に世界樹の娘よ。遠くない未来に、再び世界樹は復活するだろう。オオガミと一緒に守り育てていくのだ。世界樹は地上の瘴気を吸い上げ、魔力に変えて大気に放つ力がある。世界樹が復活して、大樹となれば増えている瘴気をへらし、魔族の出現も減らす事になるからの。だから当然魔族からも狙われるだろう。頑張って欲しい。」

再び私を見て話す。

「そしてオオガミにはこの種を与えよう。世界樹の種だ。お主のインベントリィにしまっておくが良い。地脈の集まる場所に植えると良い。詳しい場所は世界樹の娘に聞きなさい。
    残念だが運命と時の経過は神であっても干渉することができないのじゃ。だが、その中で生きる君たちなら、自分たちが生き残る道を作り出せるのじゃ。ワシは応援しかできないが、オオガミ君、頑張ってくれ。いつもお主を見ておるぞ。」

そう、神様は話すと私達は元の礼拝所に戻っていた。

    どうやら、私や神の予想以上にこの大陸は混沌となり始めているみたいだ。

(私の幸運はどこにゃ。)

    心の中で、軽くボケずにはいられなかった。

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