モルフォ

星埜まひろ

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「モルフォ」

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「毎朝毎朝君も熱心に祈るね」
神父は女神像の前で
膝をついて祈っている少女に声をかけた
「神父様!いつからそこに?」
少女は神父に声をかけられると
祈るのをやめ神父を見た
「いや、今来たところだよ
もう今日のお祈りは終わったのかい?」
神父はそばにあった椅子に
腰をかけ微笑んだ
「ええ、今から帰るところなの
神父様、また明日。」
彼女はそう言うと教会の扉を開けた。

夕焼け空が染まる町。
同じ顔をした2人の少女が
細い道を歩いていた
二人の名前はひらりとひかり。
彼女たちは町でも有名な双子だった。
「ねえ、ひらり
私たちずっとこの町にいるのかな」
ひかりはセーラー服の
スカートの丈の長さを気にしながら
姉のひらりにそう問いかけた
「ひかりは、この町にいたくないの?」
不安げにひらりは問い返す
「だって、せっかく
東京まで行ける鉄道が
通ってるのよ?
その鉄道以外何も無いこの町に
いたってつまらないじゃない」
ひかりはまるで自分の
好奇心を表すかのように
軽やかにステップをした
「私は、ずっとこの町で
ひかりと一緒にいたいけどなあ…」
ひらりは静かに思いを言葉にした
そんなひらりに見向きもせず
ひかりは足を進める
「ひらりは昔からそうよね
別に東京に行ったって私たちは
一緒よ、そうでしょ?」
ひかりはひらりに
振り向きもせずそう言い、
1人で歩いていった
「ひかりはきっと
私から離れてくもの…」
そう呟き妹の歩いた道を
1人、歩いた。


「ひらり、ひらり!」
あくる朝ひかりは
いつにも増した勢いで
ひらりに話しかけてきた
「どうしたのそんな勢いで」
まだ頭も働いていなかったが
あくびをしながら
ひらりはコーヒーを入れる準備をした
「あたし!東京行くから!」
ひらりのコーヒーメーカーの
スイッチを入れる手が止まる。
「またこの前の話の続き?
私たちまだ16だし
学校はどうするのよ」
「高校ならやめるの!
住み込みのアルバイトの
募集があってね!そこ
あたし受かったのよ!」
まるでクリスマスに
サンタさんに会えたかのような
笑顔でひかりは話し続ける
「母さんと父さんの許可は得たわ!
来週の夜行列車で出発するの!
すごいでしょ?夢みたい!」
そう言うといつものように
ひらりの言葉も聞かずひかりは
自分の部屋へと戻っていった


「行かないで」
二段ベッドの上から彼女は
夜、呟いた
「え?」
寝ぼけ眼で上を見上げる
「私を置いて、どうして行くのよ」
顔が見えないが震えた声が
上から聞こえてくる
「何も、たかが2年じゃないの」
「毎日一緒だったのよ
これからもそうだと思ってた
この町で私とひかりでいつか
二人暮らしをして…」
ひらりはそこで言葉を飲んだ
「一緒って言ったじゃない、ひかり」
聞こえるか聞こえないかの声で
ひらりは飲み込んだ言葉を発した
「ずっと一緒よ、ひらり
でもあたしこの町にはいたくない
新しいことがしたいの
そこで一緒にいましょうよ」
そう答えてもひらりは返事をしなかった

ひかりが出発する夜になった
夜中となると東京行きでも
駅に人は誰もいなかった
「お母さんとお父さん、ひらりが
いれば心配ないって大事な娘の
見送りにも来ないなんて
ホントサイテーよね」
大きな荷物を持ったひかりは
黒い鉄道を待ちながら頬を膨らませた
「仕方ないじゃない
こんな夜中なんだし
それより忘れ物はないの?」
ひらりは、ひかりの顔を
見れなかった
「もう、大丈夫よ
子供じゃないんだから」
ひかりは屈託のない笑顔で
ひらりに笑いかけた
鉄道の光が見え始めた
「あ!来たわ!」
ひかりは目を輝かせた
「ねえ、ひかり」
ひかりが振り向こうと
したその瞬間
列車は嫌な音を立て
ひらりは駅から家までの道を
1人で歩いた


教会の扉を開けると
外は少し雨が降っているようだった
「お祈りなんて子供じみた真似よね」
傘を持っていなかったので
少女は雨に濡れながら歩いた
「待てなかったわけじゃないのよ
あの時ね、あなたはきっと
待ってくれないと思ったの
いつだって私がそばにいないと
飛んでいってしまう子だったもの」
誰に言うでもなく歩きながら
彼女は話し始めた
「でも今は違うの。あなたは
絶対にそこにいてくれるでしょう
だから早く私も連れてってくださいって
毎日そう祈ってるのよ」
彼女はふと足を止め空を見上げる
「待っててね、ひかり
今日こそあなたの元へ行くわ」
彼女は再び足を進め
駅へと歩いていった。
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