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のーむ

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ストーリー

雪山の竜騎士

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 切り裂く風に刺されながら、ゆっくりと息を吐く。
聞こえるのは風と、私の息。
そして、私を乗せて雪山の上を飛ぶ竜の呼吸のみ。

 私はドラコ公国の竜騎士だ。
下にいる竜の名はベルク。
私の愛竜だ。
親友と言ってもいい。
私が10歳の時に、捨てられて弱っていたベルクを見つけたのだ。

 あれからもう20年も経ってしまった。    
妻よりも長い間一緒にいる。
娘もベルクが大好きだ。

 そんな私の姫を闘わせたくはなかったが、戦争となっては仕方がない。
私は、元々田舎でベルクや妻と共に農園を経営していたのだが、妻を、娘を、ベルクを殺されるわけには行かないからだ。
それならば竜騎士として国を守ろうと言う訳だ。


 そんなことを考えていると、敵の竜騎士を見つけた。
偵察した甲斐があった。
上官から偵察しろと言われた時は何故こんな雪の中行かねばいけないのかと思ったが、撃墜スコアを稼げるかもしれない。
上官には感謝しないといけないな。

 いや、よく考えなくても昼とは言えここは上空3マイルだ。
凍え死にそうだ。
もう二度とやりたいとは思わない。
ベルクもこんな寒いところなんか飛んで可哀想だ。
やはり上官は恨むとしよう。

 改めて敵の竜騎士を見ると、1騎しかいない。
相手も偵察中だったようだ。
単騎で偵察とは舐められたものだ。
こちらも単騎なので何も言えないのだが。


 さて、相手もこちらに気が付いたようでこちらに向かってきた。
見覚えのある竜が飛んでいる。
純白の美しく、気品に満ち溢れた竜。
しかも、Tシャツ一枚のガタイの良い男が乗っている。
『雪男』だ。
敵国のエースとして私達竜騎士部隊でも有名で、どんな時でも「竜好き」と書かれたダサいTシャツ一枚で現れる。
どうでもいいことだが、私の同僚も何人も殺されている。


 私は、戦前彼に一度だけ会ったことがある。
娘に急かされて竜の品評会に参加した時、彼の「ハク」と言う名前の純白の竜が全ての項目で満点を叩き出したのだ。
どうやら10年連続の優勝らしい。
私のベルクは鱗の色が全体的に茶色だったため、そこを減点され3位だった。
しかし、彼は私のベルクを絶賛してくれた。
「もし色の項目が無ければあなたのベルクさんが優勝だ。世界で一番愛され、幸せな竜だ。」などと言い、ベルクを可愛がってくれたのだ。
かなり印象に残っている。
彼も私のことに気が付いたようだ。


 しかし、これは戦争である。
もう竜の品評会も開催されていないし、求められるのは強い竜と竜騎士だ。
もう戦うしかないと、覚悟を決める。
雪男も同じ顔をしている。
戦う男の顔だ。
昨日も娘から「生きて帰ってきて」と書かれた葉書が送られてきた。
死ぬ訳にはいかない。

すれ違い、旋回し、剣を交える。
ベルクの口から炎が吹き出し、それをハクが避ける。
無我夢中で剣を振るう。
火花と炎が飛び交い、竜の尾が鞭のようにしなる。
いきなりベルクがハクの下に潜り込んだ。
真上にハクの腹が見える。
ここしかない。
私はベルクの背中に立ち上がり、剣を思いっきり振るった。
柔らかい感触がする。
そして、ハクの純白の鱗が赤く染め上がる。
落ちそうになりながらもベルクの背中にまたがった
その瞬間、雪男と目が合った。




 雪男、『ベルク・ハクロード』は満足そうに微笑んで、雪の中に消えて行った。
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