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本編⑤ 呪いの真相
49 呪いの被害者の末路
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侯爵家に嫁いだアリアはすぐに妊娠した。祝いの為にアリアは自分の肖像画が欲しいとねだった。
アリアに心酔していたジョアンはこれに頷き、アリアの望みのまま画家を手配した。それは年若い女性であった。まだ十代の、妙に落ち着いた雰囲気の女性である。
ジョアンは女画家の若さに少し不安を覚えた。
「彼女でよかったのか? もっと有名な画家の方がよかったのではないか?」
アリアはくすりと笑った。
「彼女の腕は良いのです。それに男の画家だったら、あなたに変な疑いをかけられたくないもの」
「全く、そんなことはない」
ジョアンはおおいに喜びアリアの肖像画を一族代々の当主夫妻の並ぶ画廊に飾ることを誓った。
「容態はどうでしょうか。奥様」
「奥様なんて他人行儀な。私とあなたは共犯者、二人っきりの時はアリアと呼んでいいわ」
女画家はくすくすと笑った。
「ただでさえ足が自由じゃないのに、妊娠してからさらに自由がきかなくなったから憂鬱だわ。ねぇ、何かお話をしてくれない」
「それではアリア様と共同で作った呪いの大本、女神様についての話をいたしましょう」
「女神ティティスね」
呪いの女神、嫉妬深い妖精のティティス。その名を口にできない。
魔力があるものであればなおさら。無理に言おうとしても恐怖で口が震えてしまうのだ。
だが、ティティスの呪いに手をだしたアリアには特に恐怖心はなかった。
「女神ティティスは元もとこの国全土で信仰される女神でした。原初の神、妖精王の娘……この国は本当はティティス様のものでした」
しかし、ある日英雄が姿を現した。初代ガラテア国王アラヴィン。
今まで国の概念というものがなかった土地に国を作り、モリナを妻に迎えた。モリナは春の妖精の娘で花の加護を持ち、千里眼を持つ偉大な魔法使いでもあった。彼女は王を助け、国を繁栄に導いた。そして二人の子は2代目となり、二人の血脈は続くことになった。
ティティスは腹を立てました。
この国はティティスのものだったからだ。
それを春の妖精、自分の弟の血が支配者として残るのに強い怒りを覚えた。
ティティスは5代目の王の頃に姿を現し、王宮に様々な知恵を授けた。その中にいくつもの呪いを付与させて5代目の王の頃に血が途絶えようとしていた。
それに気づいたのがメデアの祭祀であった。メデアはティティス程表には出ないが、原初の神に名を連ねている。
ティティスの行いは人間に干渉しすぎているとメデアは祭祀を通し忠告した。
ティティスは全く話を聞こうとしない。仕方なくメデアは王宮の魔法使いと協力してティティスを瓶の中に幽閉した。ティティスの分身が決して入れないように厳重な呪文をかけて作られた祠に瓶を安置させた。
これによりガラテア王国は平和を取り戻した。
「というのがおとぎ話で聞いた内容だった」
アリアは歌うように口ずさんだ。普通はティティスの名は伏せられているが、アリアはそのまま何度も彼女の名を呼んだ。
「ええ、そうです。ティティスの分身がもし私だったらどうです?」
女画家はにこにこと微笑む。それにアリアはくすりと笑った。
「面白いわね。それならあなたはガラテア王国を亡ぼすの?」
「はい、亡ぼします。国王一家も全部まとめて」
「それはとても滑稽で楽しいことね」
アリアは笑い続けた。こんなに笑ったのは久々だ。彼女が言った言葉は王家に対する不敬にあたるだろう。だが、アリアにはどうでもよかった。
未だに続く不眠と不安、それにともなう頭痛の症状に苦しんでいる。これは王太子と、花姫の仕業である。
自慢だった足も奪われてアリアは彼らなど滅んでしまえと思った。
だから恐ろしいティティスの呪いも気にせず扱った。
「私にも見せて欲しいわ。滅びの瞬間を」
「ええ、一緒に見ましょう。アリア。私の可愛いアリア」
女画家は愛し気にアリアを呼び、そしてアリアの肖像画を描き続けた。その中に少しずつ呪いを付与させていきながら、一部の描写にアリアは手を貸して二人でくすくすと笑った。
はたからみれば女友人二人のたわいもないおしゃべりにみえただろう。
◇ ◇ ◇
アルバートは肖像画を処分した後、侯爵家中犯人捜しに奔走させられていた。騎士たちに命じて屋敷の外を出歩かせる。使用人たちも一か所に集め尋問することとなった。
それらの指示を出しながらアルバートは少しずつ父侯爵から人を引き離していった。
ようやく二人っきり(エヴァもいるのだが)となり、誰もいない状態でアルバートは侯爵の執務室に隠蔽の魔法と封鎖の魔法をかけた。
二人で侯爵を拘束し、侯爵は子の裏切りに顔を真っ赤にして非難した。
「この親不孝者。そうかアリア様の肖像画を盗んだのはお前だな。何故だ。お前にとって大事なおばあさまなのに」
ヒステリックに叫ぶ男の声にエヴァは耳がきんきんすると呻いた。
「盲点でした。こんなに近くにアリサ様の呪いにかかっていた人間がいたなんて」
気づくきっかけはいくらでもあったかもしれない。
幼い頃のアリアのような花姫になる娘を望み、母の精神を疲弊させた。何度忠告してもアリーシャを養女にして花姫として送りながら、満足な支援も行っていなかった。杜撰な領地管理、事業を行いアルバートがその尻ぬぐいで奔走し王都から離れてしまった。
元からこういう人だった。そう思いながらずっと見過ごしていた。
アリーシャという呪いの装置の完成に父も加担していたのだ。
父の意識を失わせエヴァに治療を任せた。呪いによってアリアを盲信し、アリアがそう望んでいると考えて動かされていた。彼の言動は全てアリア、母親への愛を求めてのものだったのだ。
「生まれた時から呪いを受けて育ってしまった。簡単には治療できない」
解析を終わらせたエヴァは厳しく言い放つ。
「無理に治療すれば精神は壊れて、一生廃人として過ごすことになるだろう」
その言葉を聞きアルバートは深くため息をついた。母はこの為に精神を追いやられてしまったのか。今はいない母に深く同情した。父に怒りをぶつけようにも、生まれた時から逃れようもない呪いを受けて育ってしまってどうにもできなかった。
どこに怒りを、恨みをぶつければいいのかわからない。
「治療をしてくれ」
このまま放置するわけにはいかない。呪いを受けた父はこの先きっと悪い方向へと進むだろう。
エヴァの治療が終わった頃、アルバートは父親を領地内に建てられた療養病院へと送った。一生そこで過ごすことになるだろう。
ここでアルバートは侯爵代理、国王の許可が下りる頃には侯爵となることが決まった。
アリアに心酔していたジョアンはこれに頷き、アリアの望みのまま画家を手配した。それは年若い女性であった。まだ十代の、妙に落ち着いた雰囲気の女性である。
ジョアンは女画家の若さに少し不安を覚えた。
「彼女でよかったのか? もっと有名な画家の方がよかったのではないか?」
アリアはくすりと笑った。
「彼女の腕は良いのです。それに男の画家だったら、あなたに変な疑いをかけられたくないもの」
「全く、そんなことはない」
ジョアンはおおいに喜びアリアの肖像画を一族代々の当主夫妻の並ぶ画廊に飾ることを誓った。
「容態はどうでしょうか。奥様」
「奥様なんて他人行儀な。私とあなたは共犯者、二人っきりの時はアリアと呼んでいいわ」
女画家はくすくすと笑った。
「ただでさえ足が自由じゃないのに、妊娠してからさらに自由がきかなくなったから憂鬱だわ。ねぇ、何かお話をしてくれない」
「それではアリア様と共同で作った呪いの大本、女神様についての話をいたしましょう」
「女神ティティスね」
呪いの女神、嫉妬深い妖精のティティス。その名を口にできない。
魔力があるものであればなおさら。無理に言おうとしても恐怖で口が震えてしまうのだ。
だが、ティティスの呪いに手をだしたアリアには特に恐怖心はなかった。
「女神ティティスは元もとこの国全土で信仰される女神でした。原初の神、妖精王の娘……この国は本当はティティス様のものでした」
しかし、ある日英雄が姿を現した。初代ガラテア国王アラヴィン。
今まで国の概念というものがなかった土地に国を作り、モリナを妻に迎えた。モリナは春の妖精の娘で花の加護を持ち、千里眼を持つ偉大な魔法使いでもあった。彼女は王を助け、国を繁栄に導いた。そして二人の子は2代目となり、二人の血脈は続くことになった。
ティティスは腹を立てました。
この国はティティスのものだったからだ。
それを春の妖精、自分の弟の血が支配者として残るのに強い怒りを覚えた。
ティティスは5代目の王の頃に姿を現し、王宮に様々な知恵を授けた。その中にいくつもの呪いを付与させて5代目の王の頃に血が途絶えようとしていた。
それに気づいたのがメデアの祭祀であった。メデアはティティス程表には出ないが、原初の神に名を連ねている。
ティティスの行いは人間に干渉しすぎているとメデアは祭祀を通し忠告した。
ティティスは全く話を聞こうとしない。仕方なくメデアは王宮の魔法使いと協力してティティスを瓶の中に幽閉した。ティティスの分身が決して入れないように厳重な呪文をかけて作られた祠に瓶を安置させた。
これによりガラテア王国は平和を取り戻した。
「というのがおとぎ話で聞いた内容だった」
アリアは歌うように口ずさんだ。普通はティティスの名は伏せられているが、アリアはそのまま何度も彼女の名を呼んだ。
「ええ、そうです。ティティスの分身がもし私だったらどうです?」
女画家はにこにこと微笑む。それにアリアはくすりと笑った。
「面白いわね。それならあなたはガラテア王国を亡ぼすの?」
「はい、亡ぼします。国王一家も全部まとめて」
「それはとても滑稽で楽しいことね」
アリアは笑い続けた。こんなに笑ったのは久々だ。彼女が言った言葉は王家に対する不敬にあたるだろう。だが、アリアにはどうでもよかった。
未だに続く不眠と不安、それにともなう頭痛の症状に苦しんでいる。これは王太子と、花姫の仕業である。
自慢だった足も奪われてアリアは彼らなど滅んでしまえと思った。
だから恐ろしいティティスの呪いも気にせず扱った。
「私にも見せて欲しいわ。滅びの瞬間を」
「ええ、一緒に見ましょう。アリア。私の可愛いアリア」
女画家は愛し気にアリアを呼び、そしてアリアの肖像画を描き続けた。その中に少しずつ呪いを付与させていきながら、一部の描写にアリアは手を貸して二人でくすくすと笑った。
はたからみれば女友人二人のたわいもないおしゃべりにみえただろう。
◇ ◇ ◇
アルバートは肖像画を処分した後、侯爵家中犯人捜しに奔走させられていた。騎士たちに命じて屋敷の外を出歩かせる。使用人たちも一か所に集め尋問することとなった。
それらの指示を出しながらアルバートは少しずつ父侯爵から人を引き離していった。
ようやく二人っきり(エヴァもいるのだが)となり、誰もいない状態でアルバートは侯爵の執務室に隠蔽の魔法と封鎖の魔法をかけた。
二人で侯爵を拘束し、侯爵は子の裏切りに顔を真っ赤にして非難した。
「この親不孝者。そうかアリア様の肖像画を盗んだのはお前だな。何故だ。お前にとって大事なおばあさまなのに」
ヒステリックに叫ぶ男の声にエヴァは耳がきんきんすると呻いた。
「盲点でした。こんなに近くにアリサ様の呪いにかかっていた人間がいたなんて」
気づくきっかけはいくらでもあったかもしれない。
幼い頃のアリアのような花姫になる娘を望み、母の精神を疲弊させた。何度忠告してもアリーシャを養女にして花姫として送りながら、満足な支援も行っていなかった。杜撰な領地管理、事業を行いアルバートがその尻ぬぐいで奔走し王都から離れてしまった。
元からこういう人だった。そう思いながらずっと見過ごしていた。
アリーシャという呪いの装置の完成に父も加担していたのだ。
父の意識を失わせエヴァに治療を任せた。呪いによってアリアを盲信し、アリアがそう望んでいると考えて動かされていた。彼の言動は全てアリア、母親への愛を求めてのものだったのだ。
「生まれた時から呪いを受けて育ってしまった。簡単には治療できない」
解析を終わらせたエヴァは厳しく言い放つ。
「無理に治療すれば精神は壊れて、一生廃人として過ごすことになるだろう」
その言葉を聞きアルバートは深くため息をついた。母はこの為に精神を追いやられてしまったのか。今はいない母に深く同情した。父に怒りをぶつけようにも、生まれた時から逃れようもない呪いを受けて育ってしまってどうにもできなかった。
どこに怒りを、恨みをぶつければいいのかわからない。
「治療をしてくれ」
このまま放置するわけにはいかない。呪いを受けた父はこの先きっと悪い方向へと進むだろう。
エヴァの治療が終わった頃、アルバートは父親を領地内に建てられた療養病院へと送った。一生そこで過ごすことになるだろう。
ここでアルバートは侯爵代理、国王の許可が下りる頃には侯爵となることが決まった。
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