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本編④ 回帰前、悪女が去った後
34 侯爵家の違和感
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狩猟会はとてもじゃないが続けられる状態ではなかった。
国王の閉会の言葉で終了、捜査に関わる一部の貴族以外は撤収するようにと指示が出された。
アルバートは捜査に関して意見言うことは許されず、撤収を命じられた。
帰りがけにシオンを引き連れ侯爵家へと戻った。
普段であれば、遠慮するシオンは黙ってアルバートについていった。アルバートの傷の具合も気になっていたようだ。
個人的に使用している敷地内の別館に案内した。普段彼はここで過ごしており、食事の時に本館で過ごす。
「アル」
侍女がお茶を用意し終えたところでシオンは口を開いた。
別館であれば侯爵が訪れることもなくシオンは友人として彼に接した。
「毒殺容疑に関してアルとアリーシャ様は以前も経験されている様子でした」
その言葉にアルバートは視線を逸らす。先ほど言った通りシオンの右目を見た状態では嘘はつけない。
「アル」
シオンはそのまま話を続ける。
「アリーシャ様は以前言っていました。私に首を斬られ、元の時間帯に蘇ったと。そして毒殺していない、呪詛していないのに処刑されたと」
その言葉を聞きアルバートはちらりと視線をシオンの方へ向ける。
「お前は、その話を信じるのか?」
「信じられませんが、私の右目をみて言ったのですよ。嘘じゃないでしょう」
自分の知らないところでアリーシャはシオンに回帰前のことを話していたと知らされ、シオンはふーっと大きくため息をついた。
そしてアルバートは自分の知っていることをシオンに話した。
いつかは彼に言う時が来るだろうとわかっていた。これが今なら仕方ないとも考えた。
彼が話す内容はアリーシャが覚えていない内容もある。
シオンにそれに対してゆっくりと頷いた。
◇ ◇ ◇
クロックベル侯爵家の本館には歴代当主、夫人の肖像画が並べられている回廊があった。
幼い頃アルバートはこの廊下を走り回るのが日課であった。
初代からはじまり父の前の世代まで進み、戻るの繰り返し。
「見てみなさい。アルバート」
父はアルバートに一人の女性の肖像画をみせた。美しい銀髪の麗人であった。どことなく陰りがあり、それが彼女の美しさを引き立てていたようにみえる。
「お前のおばあ様、アリア様だ」
父は祖母の記憶がない。生まれて間もなく彼女は命を落としたのだ。
乳母に育てられながらアリアの思い出を語られる。花姫として非常に優秀な女性であった。魅力的で誰もが彼女に惹かれていたが、不幸な事故により花姫辞退に追い込まれる。
彼女は精神的に弱っていき、それを支えたのが先代クロックベル侯爵であった。
彼は優れた花姫で、優れた魔力を持つアリアとの間に子を成すことで新しい花姫、妃を生み出すことを夢見た。
しかし生まれたのは男児であり、次の子を望もうにもアリアは産褥熱で亡くなってしまう。その時祖父は枕元で誓った。
彼女の血で新しい妃を生み出そう。
彼女は笑って、息を引き取ったという。
しかし、生まれたのは男児で祖父はがっかりした。父も自分のふがいなさを恥じ、肖像画で美しく映る母に恋焦がれた。そして同様の誓いを立てると母の口元が少し微笑んだようにみえた。
もしかすると父はこの時に歪んでしまったのかもしれない。
アルバートが生まれる前は女であることが望まれた。
生まれたアルバートは男児であり、祖父も父も落胆してしまった。
しかもアルバートにはアリア譲りの魔力があり、魔法使いの教師を立てると将来有望の魔法使いになれると評された。
それを聞き父は落胆していった。
「お前が女だったらよかったのに」
そうすればアリアの望みの通り花姫にできたというのに。
何度も聞かされたその言葉にアルバートは不快感を覚えた。現に母はそれに病んでしまった。長男を生んだというのに役に立たないと言われたような気がして、次の子を産もうにも母はその気力すら失われた。
歪んだ家庭に嫌気をさし、アルバートは魔法使いの師に相談して遠方の寄宿学校に通うことを希望した。
卒業後は父の家業を継ぐが、父の杜撰な管理に呆れて自分の時間を全て領地経営と事業にあてがった。
侯爵家敷地内の別館を自分の執務室と寝室として利用し始めた。
正直、歴代当主・夫人の肖像画が並ぶ回廊を通りたくなかった。
それでも長男で、跡取りだから一族の大事には関わらざるを得ない。
分家の者がアリーシャを連れてきて、父は彼女にのめり込んだ。何も聞かずに養女にして花姫にするというのだ。
改めてアリーシャの顔をみた。
アリーシャはアリアと同じ銀色の髪であった。
よく見れば似ていないのに、一瞬アリアが目の前にいるのではないかと錯覚を覚えた。
もしかすると父は彼女の中にアリアの面影をみているのではないか。
ただそれだけでアリーシャを花姫にしようとするのは軽率である。
何度も嗜めたが父は聞く様子がない。何とかしようと考えたら領地経営と事業で問題が起きたと連絡があり早急に対処することになった。
現侯爵の父に任せることだが、領民と従業員の生活に関わることで、自分が対処する必要あると判断した。
ついに花姫選定に送り出されたと聞き、旅立つ前のアルバートは父に忠告をした。
「彼女にはそれなりの支援をすることです。他の花姫よりも親身に様子を伺い助言をしていかなければなりません。それができないのであれば、良い教師、侍女をつけるようにし彼女の支えにしなければなりません」
国王の閉会の言葉で終了、捜査に関わる一部の貴族以外は撤収するようにと指示が出された。
アルバートは捜査に関して意見言うことは許されず、撤収を命じられた。
帰りがけにシオンを引き連れ侯爵家へと戻った。
普段であれば、遠慮するシオンは黙ってアルバートについていった。アルバートの傷の具合も気になっていたようだ。
個人的に使用している敷地内の別館に案内した。普段彼はここで過ごしており、食事の時に本館で過ごす。
「アル」
侍女がお茶を用意し終えたところでシオンは口を開いた。
別館であれば侯爵が訪れることもなくシオンは友人として彼に接した。
「毒殺容疑に関してアルとアリーシャ様は以前も経験されている様子でした」
その言葉にアルバートは視線を逸らす。先ほど言った通りシオンの右目を見た状態では嘘はつけない。
「アル」
シオンはそのまま話を続ける。
「アリーシャ様は以前言っていました。私に首を斬られ、元の時間帯に蘇ったと。そして毒殺していない、呪詛していないのに処刑されたと」
その言葉を聞きアルバートはちらりと視線をシオンの方へ向ける。
「お前は、その話を信じるのか?」
「信じられませんが、私の右目をみて言ったのですよ。嘘じゃないでしょう」
自分の知らないところでアリーシャはシオンに回帰前のことを話していたと知らされ、シオンはふーっと大きくため息をついた。
そしてアルバートは自分の知っていることをシオンに話した。
いつかは彼に言う時が来るだろうとわかっていた。これが今なら仕方ないとも考えた。
彼が話す内容はアリーシャが覚えていない内容もある。
シオンにそれに対してゆっくりと頷いた。
◇ ◇ ◇
クロックベル侯爵家の本館には歴代当主、夫人の肖像画が並べられている回廊があった。
幼い頃アルバートはこの廊下を走り回るのが日課であった。
初代からはじまり父の前の世代まで進み、戻るの繰り返し。
「見てみなさい。アルバート」
父はアルバートに一人の女性の肖像画をみせた。美しい銀髪の麗人であった。どことなく陰りがあり、それが彼女の美しさを引き立てていたようにみえる。
「お前のおばあ様、アリア様だ」
父は祖母の記憶がない。生まれて間もなく彼女は命を落としたのだ。
乳母に育てられながらアリアの思い出を語られる。花姫として非常に優秀な女性であった。魅力的で誰もが彼女に惹かれていたが、不幸な事故により花姫辞退に追い込まれる。
彼女は精神的に弱っていき、それを支えたのが先代クロックベル侯爵であった。
彼は優れた花姫で、優れた魔力を持つアリアとの間に子を成すことで新しい花姫、妃を生み出すことを夢見た。
しかし生まれたのは男児であり、次の子を望もうにもアリアは産褥熱で亡くなってしまう。その時祖父は枕元で誓った。
彼女の血で新しい妃を生み出そう。
彼女は笑って、息を引き取ったという。
しかし、生まれたのは男児で祖父はがっかりした。父も自分のふがいなさを恥じ、肖像画で美しく映る母に恋焦がれた。そして同様の誓いを立てると母の口元が少し微笑んだようにみえた。
もしかすると父はこの時に歪んでしまったのかもしれない。
アルバートが生まれる前は女であることが望まれた。
生まれたアルバートは男児であり、祖父も父も落胆してしまった。
しかもアルバートにはアリア譲りの魔力があり、魔法使いの教師を立てると将来有望の魔法使いになれると評された。
それを聞き父は落胆していった。
「お前が女だったらよかったのに」
そうすればアリアの望みの通り花姫にできたというのに。
何度も聞かされたその言葉にアルバートは不快感を覚えた。現に母はそれに病んでしまった。長男を生んだというのに役に立たないと言われたような気がして、次の子を産もうにも母はその気力すら失われた。
歪んだ家庭に嫌気をさし、アルバートは魔法使いの師に相談して遠方の寄宿学校に通うことを希望した。
卒業後は父の家業を継ぐが、父の杜撰な管理に呆れて自分の時間を全て領地経営と事業にあてがった。
侯爵家敷地内の別館を自分の執務室と寝室として利用し始めた。
正直、歴代当主・夫人の肖像画が並ぶ回廊を通りたくなかった。
それでも長男で、跡取りだから一族の大事には関わらざるを得ない。
分家の者がアリーシャを連れてきて、父は彼女にのめり込んだ。何も聞かずに養女にして花姫にするというのだ。
改めてアリーシャの顔をみた。
アリーシャはアリアと同じ銀色の髪であった。
よく見れば似ていないのに、一瞬アリアが目の前にいるのではないかと錯覚を覚えた。
もしかすると父は彼女の中にアリアの面影をみているのではないか。
ただそれだけでアリーシャを花姫にしようとするのは軽率である。
何度も嗜めたが父は聞く様子がない。何とかしようと考えたら領地経営と事業で問題が起きたと連絡があり早急に対処することになった。
現侯爵の父に任せることだが、領民と従業員の生活に関わることで、自分が対処する必要あると判断した。
ついに花姫選定に送り出されたと聞き、旅立つ前のアルバートは父に忠告をした。
「彼女にはそれなりの支援をすることです。他の花姫よりも親身に様子を伺い助言をしていかなければなりません。それができないのであれば、良い教師、侍女をつけるようにし彼女の支えにしなければなりません」
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