メジロとチワ

ariya

文字の大きさ
上 下
6 / 6

6 メジロとチワ

しおりを挟む
 機部佐平がメジロになった後、山寺でちより姫の世話を焼きながら軟禁生活をしていた。

 六蜜の上層部、おそらく湯縞家で協議されちより姫とメジロの処遇が決まった。
 ちより姫は本来、珂縞家唯一の生き残り、正当な後継者として保護する必要があるが、姫として保護すると様々な問題が発生する。
 富貴嶋家を背景にした黒井家の現当主、永登がちより姫の身柄引き渡しを求めるだろう。場合によっては黒井との戦が始まる。
 今回の件で精神的に視力を失い、不安定になったちより姫はそれに耐えられるかわからない。

 ちより姫のことはこのまま身投げ自殺をしたものとしておいた方がいい。
 その結果、チワと呼ばれる盲目の少女として六蜜が現在任されている茶屋で預かることになる。さすがに姫が茶屋で見世物の芸人になっているなど思わないだろう。

 そしてメジロについてであるが、本邦の大賀の里の忍びで信用がない。
 しかし、命令違反でちより姫を湯縞領に運んだこと、メジロの存在がちより姫の精神を安定させることを考えると処分できない。
 監視下のもとチワの世話人、護衛として傍にいるようにと命令を下された。

 チワはメジロの正体を知らない。
 本物のメジロ、才川芽二郎はもうこの世にいないということも知らない。

 知ってしまったら彼女の精神は崩壊してしまうかもしれない。
 秘密は明かさないことと厳命された。

 目付は六蜜、今はお六という名であるが、彼女が行うことになる。そして六平太も茶屋で様子を観察することになった。
 もし、メジロに不審な点があれば処分する。

 そう判断された。

 メジロはいつかチワにばれるんじゃないかと心配になった。
 幸い芽二郎の母は本邦の生まれで訛りもそこまで酷くなかったようだ。
 話し方に関しても父の小姓になる前は幼馴染として距離が近く言葉もくだけていたようだ。

 チワとメジロの思い出を知らないことに関しては、黒井に嬲り殺されかけたときに記憶を欠損してしまったということにしている。
 チワの存在だけ何とか思い出し、彼女を追いかけたというシナリオとなった。

 チワはメジロの記憶障害を信じて、時々思い出話をするときは詳し目に語り掛けてくれる。
 その時の彼女の表情はとても好きである。
 だけど、彼女の紡ぐ思い出には自分はいない。
 当然のこととはいえ、それが苦しい。

 メジロは五年間、チワをだまし続け、チワの為のメジロを演じ続けている。

 苦しいが、実はいうと嫌ではなかった。
 むしろ彼女の傍にいられて喜びさえする。
 正直、殺されると思っていた。殺されなかったとしても、湯縞に飼い殺しにされ彼女の傍にいることはできないと思っていた。
 きっと自分は本物のメジロ、才川芽二郎に呪われるだろう。

 湯茶本舗の建物に入ると、まだ片付けていない厨の状況をみて深くため息をついた。
 明日の下ごしらえもしないといけない。
 片付けながら、メジロは明日の準備も同時にしていた。

「メジロ」

 チワはひょこっと顔を出して来た。

「まだ寝ていないのか?」

 何だかチワはいつもより不機嫌そうにみえる。

「もう、メジロはいつも夜遅くまで外にいるなって言っているのに」

 チワは夜遅くに帰ってきたことに怒っていた。

「すっごく心配したんだよ」
「そうか。それは悪かった」

 そうだよとじとっと睨んでくる。目は朧気で見えないはずだが、メジロのいる場所へ焦点をあてようとする。

「ご飯、冷めちゃったよ」
「大丈夫だ。食べられるから」

 団子汁の団子は少し水を吸ってふやけてしまったようだ。それでも食べられなくない。
 メジロは残りの汁をすすいだ。

 チワはじっとメジロの傍を離れない。今日はやけに近い。
 やっぱり故郷の噂話を聞いて不安なのだろう。

「今日会った人は、珂縞領の人?」
「いや、仕事で知り合った奴だ」

 また嘘をつく。珂縞の状況を知っている者で、チワの旧知。
 だが、チワが知る必要はない。

「メジロ」

 チワはぽすっとメジロの肩に身を寄りかかった。
 ああ、何て無防備にしているんだ。
 そう思うがメジロはチワのこの行為を嬉しく感じていた。

「メジロ、無理しないでね」
「無理はしていない」
「うん、ありがとう」

 チワは静かにそう呟きそのまま眠りについてしまった。食事を済ませたメジロはチワの体を抱き上げて、彼女の部屋へと運び込む。布団の中に入れてぽすぽすと胸を叩いてやる。

 ああ、愛しい。

 メジロはそう思いながらチワの寝顔を眺める。

 俺はきっとこの子の為なら何でもするだろう。俺の愛しいお姫様。

 決して表には出さない感情をチワは深くかみしめていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

捨てられたお姫様

みるみる
ファンタジー
ナステカ王国に双子のお姫様が産まれたました。 ところが、悪い魔女が双子のお姫様のうちの一人に、「死ぬまで自分やまわりの人が不幸になる‥」という呪いをかけてしまったのです。 呪いのせいか、国に次々と災いが降りかかり、とうとう王妃様まで病に伏してしまいました。 王様と国の重鎮達は、呪われたお姫様を殺そうとしますが‥‥‥。 自分が実はお姫様なのだという事や、悪い魔女の呪いを受けている事を知らない、捨て子のリナと、 不器用で落ちこぼれながらも、正義感が強い魔法使いの男が、共に試練を乗り越えて成長していくお話です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...