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6章 狩猟祭

11 波乱のはじまり

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 狩猟祭が終わったが、パーティーは延期となった。
 第三皇子の病状が安定するまでに行われるのはどうだろうかという意見が出たようである。
 パーティーは後日公城で行う予定となり、日にちが決まったら招待状を送る予定となった。
 参加者、応援者たちは各々公都や領地へと帰宅していった。得られた獲物は参加者や捧げられた女性が持ち帰ることになる。

「ごめんなさいね。ライラにすぐに星の石を贈呈したいところだけど」

 公妃の申し訳なさそうな声にライラは首を横に振った。
 今はお祝いどころでないだろう。
 ライラ自身も兄の容態が気になってしまう。

 例の金虎襲撃で負傷した者たちは公都の病院へと搬送されている。
 第三皇子の命は助かったものの、石化の解除が厄介で公都の治癒魔法使いたちが総出でとりかかることとなった。
 ライラの兄トラヴィスも病院に入院する予定となっている。石化は受けていないが、毒をうけていないか検査も行われると聞かされた。安全が確認できるのに2週間はかかるそうだ。

 公都へ戻った後、ライラは兄の容態が落ち着くまでは公都に滞在したいとクロードに願った。
 クロードも検査期間を聞きそのくらいであればと頷く。同時にジーヴル滞在のリーゼロッテ女史に冬の寒さに備えて例の薬を多めに用意できないか確認した。
 先に返事を届けてきたのはオズワルドであった。彼はシャフラの北天狐の隠れ里に接触し、湯の花を調達できたという。
 この材料を送っておくのでライにある程度の量を作ってもらうようにと指示がある。

「湯の花さえ手に入ればできるぞ」

 他の必要な材料は公都でも手に入るものだという。
 ライラの薬がなくなる心配はなさそうである。これが冬の近づく寒さにどれだけ効くか。
 熱を発症させれば、問答無用でライラをシャフラへ連れていく予定である。それまでは彼女の自由にさせておこう。
 公都別館に届けられたブライアン秘書官からの報告を確認して、できる仕事を片付けていた。
 ライラはベラ公立病院へと訪問していた。あそこにはライラの兄が入院してある。例の第三皇子も。
 アメリーと遭遇しないか心配であったが、彼女が訪問するのは面会時間外らしい。病院勤務者が不満をもらしているらしい。
 注意すべきなのだろうがアメリーをなかなか捕まえられないと病院から戻ったライラは落ち込んでいた。
 噂で聞く彼女に時間を割いても無駄のように思える。クロードは必要ないと断じた。

 彼女の同行については密かに探らせた。ライラの過去のこともあるし、帝都でのやらかしを聞いていたので兄とライラの心労にならないか注意を向けていた。

 最近の彼女は公都の生活を満喫しているようだ。
 複数の貴族令息や騎士とおでかけをしているという噂が届けられる。
 第三皇子の見舞いは舞台や買い物を楽しんだ後である。そのあとにすぐに夜のサロンへとでかける。

 第三皇子とトラヴィスがいなくなったことで奔放にふるまっているようだ。
 それだけなら良いのだが、あの女は夜のサロンで帝都での思い出語りをしているようだ。ライラが意地悪をした為に自分は公国へ嫁ぐことがなかったと涙ぐんでいたらしい。
 すでに経緯を知るクロードは報告を聞いてあきれた。これが、だまされる男がいるらしい。
 公都の騎士たちの嘆かわしいことである。

 自分の目の前でライラのことを悪く言った者は手あたり次第捕まえて決闘をしている。3回程決闘を終えたらクロードの見えるところで噂をたてる愚か者はいなくなったが、いないところでは噂は続いている。
 クロヴィスがライラの評判を修正してまわってくれているが、アメリーの口が閉じない限りは無駄なことだろう。

 いっそ、アメリーを捕まえて口を縫い付けてしまおうか。

 そう口にしながら立ち上がったが、クロヴィスとライラに止められてしまった。
 第三皇子には早く回復して一刻も早くアメリーを連れて帰ってほしいものだ。
 アビゲイル公女との婚約の件もあるのですぐには厳しいだろう。

 バートから公城からの手紙が届けられたと報告があった。手紙の差出人は大公からであった。
 手紙の内容をみてクロードは眉間に手をあてる。

 昨日、例のアメリーが大公へ挨拶をしに来たという。
 内容は第三皇子の迅速な救助と治療へのお礼らしい。

 あんなに公都を遊びまわってよくいうことだ。
 助けてくれたクロードにもお礼を言いたいとのことで改めて挨拶の場を望んでいるそうだ。
 時間をみると今すぐ出かける必要がある。

 クロードはしばらく考えた。
 彼女の奔放なふるまいはどうでもいい。
 ライラの悪評をたてるのだけは許せない。
 直に会って釘をさす機会であろう。
 クロードはアメリーの大公への挨拶の場に同席することとした。

「でかけるのか?」

 かごにいっぱいの薬草を摘んでいたライがどろだらけで帰宅していた。公都別館にも薬草が生えている場所があるらしく、朝から薬草収集に精をだしていたようだ。
 ブランシュもライラの為というのを理解しているようで手伝いをするようになっていた。ライの頭の上に薬草摘みをやりとげた表情のブランシュが休んでいた。
 ここ最近ブランシュはライにもよくなつくようになっており、ライラがでかけている間はライとリリーが交代で面倒をみるようになった。
 今日はリリーがライラのお供をしているようだ。まだ病院であろう。

「少し公城まで」

 クロードは簡単にだけ伝え、馬に乗り公城へと向かった。
 既にアメリーが到着したところでクロードは応接室へと向かった。

 ◆◆◆

「お兄様、くれぐれもご自愛ください」
「まさか、お前に言われるとはな」

 トラヴィスは面目ないと苦笑いした。
 顔色はだいぶよくなっていた。実は首筋の傷の中に金虎の毒が混じっていたようで治療に時間がかかっていた。
 もう解毒されており、数日あれば退院可能だという。
 ライラは兄の看病を終えて、病室を出た。リリーに時間を確認するとすっかり夕方になっていた。
 面会時間が終わりかけているとライラは少し慌てる。

「アルベル夫人」

 看護師から声をかけられた。
 何かあったのだろうかとライラは首をかしげる。

「カイル殿下より伝言を賜りました。トラヴィス様のことで迷惑をかけたことと、今までの非礼を詫びたいとのことです」
「まぁ、でももう面会時間が」
「大丈夫ですよ。ノース夫人はいつも面会時間を超えて訪問しているので、可愛いものですよ」

 ライラは悩んだ。
 一応相手は母国の皇子である。ここで断れば礼を欠くように思えた。
 ほんの数分程度時間をいただければという看護師の言葉にようやく頷いた。

 リリーもついてこようとするが、看護師の言葉によると皇子としての矜持もあり、できれば詫びの場はライラだけ来てほしいという。

 矜持、というのは反省しているのかしら。

 相手が皇子であるため口にはしないが、リリーの表情で何を言いたいかわかる。
 第三皇子カイルの思うところも理解できなくないライラは応じることとした。

「ですが、奥様。面会時間外に皇子と二人っきりというのも問題があるのでは」

 リリーもアメリーが触れ回る噂を知っていた。
 ここで、皇子と二人っきりで会ったと知られれれば何と噂がたてられることだろう。

「大丈夫よ。殿下の病室のすぐ外には騎士が二人待機しているし、数分程度であれば特に何か起きるわけないわ」

 だから病院前の喫茶店で待っていてほしいとライラはリリーを先に病院の外へと送った。
 看護師の案内の元、ライラは皇子の病室へと訪れる。
 今も皇子の病室には二人の騎士が見張りとして待機していた。

「私もすぐ近くで待っておりますので帰るころに声をかけてください。時間外の出入り口へ案内します」

 ライラは看護師にお礼を言い、騎士の指示に従った。

「殿下、アルベル夫人です」

 騎士の声でしばらくしてから病室の扉が開く。皇子の声は聞こえなかったが、小さかったのだろう。
 ライラはそう考え病室へ入り、扉が閉ざされる。

「第三皇子カイル殿下、ライラ・アルベルが参りました」

 挨拶口上をするが皇子からの返事はない。おかしいなとライラが顔をあげると悲鳴をあげた。

「殿下っ!」

 ライラは急いで皇子のもとへと駆け付ける。無我夢中で寝台に備え付けられたシーツで皇子の首筋へとあてる。
 兄のトラヴィスの怪我と同じ位置だと思った。
 皇子の首筋に切り傷があり、そこから大量の血が流れていた。彼の首元は血で真っ赤であった。
 ドレスが汚れることも構わずライラは皇子の首筋の圧迫止血を開始する。脈は弱くなっているが、まだ残っている。

 外の騎士へ声をかけ応援を頼んだ。
 扉が乱暴に開かれて、騎士たちの怒る声が響いた。

「アルベル夫人! 何ということを」

 騎士たちの視線は憎悪が含まれていた。ライラはそんなことを構わずに応援を頼む。
 騎士の一人がライラを突き飛ばし、皇子の応急処置を代わる。音に駆け付けた看護師やそのほかのスタッフたちが悲鳴をあげて治療を開始した。

 床に転がったライラは勢いで口の中が切れたのを感じた。じんわりと鉄の味がする。
 身を起こす前に騎士がライラの身を拘束した。

「ライラ・アルベル! 第三皇子カイル殿下の暗殺容疑で捕縛する」

 突然の言葉にライラはめまいを覚えた。自分が今どういう状況に陥っているのか確認する。
 彼女は今、カイルを手にかけた現行犯で捕らえられてしまったのだ。
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