【完結】アーデルハイトはお家へ帰る

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13 王都オリガの別邸

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 数日かけて王都オリガに到着したクラウスはぼんやりとした目を軽くこすり馬車の外を見た。汽車を乗り継ぎ、終点から馬車へと乗り換える。このまま王都の別邸へと一直線であった。
 はぁと深くため息をつく。今の時間帯は11時頃である。従者の話ではマリアはこの別邸の主人のようにふるまい許可なくお茶会を開いているという。
 クラウスは重い腰をあげ、立ち上がった。
 マリアは親戚のフォルテ子爵の娘であり、子爵の頼み事で妹のように扱うこととしていた。はじめは愛らしい少女であったが、自分が不在の間にここまで本性を表すとは思わなかった。
 マリアには強めに釘を刺しておかなければならない。

 馬車の扉を開いてもらい、別邸管理人のパトリックが迎えてくれた。彼もクリスの親戚で、ヨハンの従弟にあたる。
 ヨハンよりもおっとりとした性格で、増長したマリアを押さえられずについにクラウスへ助けを求めたのである。
「お帰りなさいませ。奥様は」
「説得途中で呼び出された」
 そういうとパトリックは恐縮した。
「それでレディ・マリアは?」
「黄薔薇の庭園の方へいらっしゃいます」
 クラウスは頭を抱えた。
 ローゼンバルト家はその名の通り薔薇を意味する。鉱山経営を始める前は薔薇の品種改良に力を注ぎ、王家に珍しい薔薇を献上する家門であった。先代王妃はクラウスの母が育てた薔薇を気に入っており王宮には彼女が植えた薔薇の園が置かれ未だに大事に管理されている。
 未だにローゼンバルト伯爵家は薔薇の研究の為の施設を設けており、今は黄色い薔薇の研究をさせていた。まだ名前がついていない新しい薔薇が完成したところであり近々王家に披露する予定だった。まだ世間に公表されてはならない薔薇であった。
 よりによってマリアはその薔薇が咲く一角で友人を招きお茶会を開いているというのだ。

「クラウス様!」

 主人の来訪にマリアは飛び跳ね、喜び駆けこんだ。お茶会を楽しんでいた3人の令嬢は急いで立ち上がり礼儀を示した。
「帰ってきてくださり嬉しいです」
 マリアはクラウスの胸に飛び込んで甘えてきた。クラウスは彼女の肩を押しだした。
「レディ・マリア、これはどういうことだ?」
「素敵な薔薇を是非お友達に見せたかったのでお茶会を開いてみました」
 全く悪びれもしない態度にクラウスははぁとため息をついた。居候始めた時は部屋を貸していたし、差しさわりのない場所であればお茶会を開くことも許可していた。しかし、お茶会を開く場合はクラウスかパトリックの許可が必要である。彼女はそれを押しのけ、一族にとって未公開のままにしなければならない薔薇の園でお茶会を開いたのだ。
「私もパトリックも許可は出していませんが」
「クラウス様は留守でしたし、そうなればこの屋敷で一番の責任者は私でしょう」
 責任者にした覚えはない。何を勝手なことを言っているのだ。
「一体居候のあなたが何故そう判断したかわかりません」
 理解できないクラウスの表情にマリアはくすくすと笑った。
「だって私がクラウス様の妻になるのだから問題ないでしょう。ちょっと順番が逆になっただけで」
 さぁっと血の気の引いた音がした。4人の令嬢もクラウスの表情の変化に気づき恐縮した。
「私の妻は別にいます」
 クラウスはようやく口にし、マリアは楽し気に笑った。
「でも、もう離婚されるじゃないですか。離縁状を残して家を出たのでしょう?」
「何故それをあなたが知っている」
 クラウスの声は一層冷ややかなものになる。そしてちらりと4人の令嬢の方をみた。パトリックから聞いた話ではどの令嬢も名のある貴族の娘であった。ここで騒ぎが噂に広まること困る。
「レディたち。申し訳ありませんが、お茶会はこれで終わりとさせていただきます。また、今回見た薔薇に関してはどうか他言無用に」
 後で念入りに彼らの家の主人に手紙を送っておこう。それでも薔薇のことを口外されれば仕方ない。国王・王妃に披露するまで未公開にしておきたかったが諦めるしかないだろう。
「パトリック、あちらのお嬢様がたをお送りしなさい」
 クラウスの言葉にパトリックは令嬢たちを案内した。
「え、帰っちゃうの?」
「マリア様、今日は素敵なお茶会をありがとうございました」
 令嬢たちはぎこちない笑顔で挨拶をしてそそくさと去っていった。マリアよりは余程空気の読める令嬢たちだ。
 令嬢たちが去った後にマリアは綺麗なティーカップを用意した。
「折角だし、一緒にお茶をしましょう」
 マリアはにこにこと笑いクラウスのお茶を淹れた。
「申し訳ないがあなたのお茶を飲む気にはなれない」
 クラウスはようやく本題へと入った。
「マリア、今すぐ荷物をまとめてフォルテ子爵家へ帰りなさい」
 突然の言葉にマリアは「は?」と首を傾げた。
「何を言っているのです? 私はここで準備しなきゃいけないのに」
「準備とは何の準備です?」
「もちろん、ローゼンバルト伯爵夫人になるための準備です」
 一切疑わない言葉にクラウスはため息をついた。
「何か勘違いしているようだが、私はあなたを妻にする気はない。私の妻はアーデルハイトだけであり、あなたはただの客、親戚の娘に過ぎない」
「そんなはずはないわっ!」
 マリアは大声で叫んだ。
「だってクラウス様は私のエスコートをしてくれたじゃない。国王夫妻にも紹介して」
「あれはあくまでその年のデビューを迎えた令嬢たちのお披露目です。私はあなたの父親に懇願されてエスコートをしたに過ぎない」
 デビューを迎えた令嬢たちのエスコートは婚約者がすることもある。だが、婚約者のいない多くは父や兄弟、親戚、もしくは家臣の若い男性にエスコートをしてもらうのである。
 クラウスのエスコートはあくまで後者である。
「嘘、だってお父様もみんな言っていたわ」
「何を?」
「私が伯爵夫人に相応しいと。アルフォスの山羊女よりもよっぽど向いていると……クラウス様も先代伯爵様に押し付けられて嫌気さしているから早く解放してあげなきゃと」
「勝手なことを言わないでください」
 実に不愉快な言葉にクラウスは嫌悪を隠せずにいた。
「何より私の妻を山羊女という侮辱は許せません。もう一度その言葉を口にすれば私は容赦しない」
 幼い頃にクラウスも言っていた酷い言葉だ。今となっては誰かがアデルを侮辱する言葉を許せない。
「な、何よ……クラウス様は私を妻に望んでいるから迎えてくれたのでしょう?」
 震える声が弱弱しく傍から見ればクラウスがマリアをいじめている図にみえるだろう。
「それはあなたの父に懇願されたからです。王都の屋敷がないあなたのご実家から、あなたが社交界デビューしよき婚約者に出会えるように力を貸して欲しいと言われたからです」
 クラウスが聞いた内容とマリアの言葉は随分と異なるようだ。もしかするとマリアの言葉の方が本当だったのかもしれない。
「その為に部屋をいくつか貸しました。不便がないように手配はしたつもりです。ですがあくまで客人として迎えたにすぎず、あなたを妻に望んだわけでもなく、あなたに屋敷の権限を渡した覚えもありません。これ以上私の屋敷で好き勝手に振る舞うのはやめていただきましょう」
 ある程度のところまでは許容していたが、クラウスが不在後に勝手なことが増え、クラウスの家人をも脅かす始末。
 フォルテ子爵の名を借りて貴族侮辱罪をチラつかせいう通りにさせてきたのはやりすぎである。
「馬車を手配しております。明日のうちにフォルテ子爵家へお帰りください」
 荷物は後日送り届けるからさっさと出て行って欲しい。
「でも」
「明日以降もまだ家にいれば不法侵入で訴えますよ」
 マリアの涙声を遮りクラウスはそう言い放ち薔薇園を出た。執務室に入ると色々な書類がある。ある程度はパトリックが処理してくれただろうが、自分のサインが必要なものを急ぎとりかかる。脇に重なっている書類をみるとそれはマリアが自由にしてきた費用であった。内容はマリアの好みでの改装である。マリアに貸した部屋であれば多めにみるが、それ以外の部屋も改装されていた。よりによって夫人の部屋、アデルの部屋へ勝手に入り、壁紙の注文をしたという。その時に注意した侍女はマリアの不興を買い体罰を受け辞めさせられたという。クラウスが幼い頃から知るベテラン侍女であったというのに。
 早々に退去させるべきである。
 クラウスはフォルテ子爵家へ急ぎ手紙を書いた。親戚の男で、一応クラウスが父の葬式の際は助けてもらった為マリアのデビューについてはいくらか手を貸そうと考えていた。しかし、ここまで伯爵家王都別邸で好き勝手にされるなどたまったものではない。

 ◇◇◇

 どうして私が出ていかなければならないの。

 マリア・フォルテは憤慨した。荷物をまとめるよう言われてもそうする気力が起きない。
 自分はれっきとした貴族の令嬢である。
 アルフォス山脈の田舎の山羊女などよりもずっと伯爵夫人、クラウスの妻に相応しいだろう。
 父がそう言っていた。友人たちもマリアをほめそやしそう言っている。
 はじめてクラウスに出会った時、マリアは胸ときめかした。この男が自分の夫になるのだと心弾んだ。
 クラウスは噂の通り見目麗しかった。多くの令嬢が彼の妻、恋人の座を狙っていると聞いても納得してしまうほどに。
 父はクラウスが子供の頃から何かと世話をしていたからクラウスも父を無下にできないはずだ。
 きっと強く押しだせば彼もマリアを受け入れてくれるはずだ。
 デビューで彼がエスコートしてくれて誰からも羨ましい眼差しを受けマリアは優越感に浸った。
 悔しいでしょう。でも私は伯爵夫人になるもの。この人の妻になるのは私。
 はじめの妻の座は山羊女に奪われたが、それでも彼と夫婦になることはまんざらでもなかった。
 確かに山羊女は離縁状を置いて出ていった。クラウス様はそれを急いで受け取って離婚手続きをしてくれているのだと思っていた。
 それなのにクラウスは山羊女と別れる予定はなく、マリアを屋敷から追い出そうとする。

 こんなはずじゃなかったのに。

 このまま黙って出ていくわけにはいかなかった。マリアは引き出しから鍵を取り出した。屋敷の改装命令を下した時にクラウスの寝室の隣、夫人部屋の鍵を拝借し合鍵を作らせた。
 クラウスの部屋と夫人の部屋は中で繋がっている扉が存在している。
 あらかじめ買収していた侍女を使いクラウスが寝る前に呑む酒のグラスに媚薬を塗っておいた。これを飲めばたちまち理性を失い女をみれば手を出してしまう。
 最終手段でとっておいた方法である。今行うべきことだとマリアは侍女が指示通り動いたのを確認して夜中にクラウスの部屋へと向かった。
 きぃっと扉を開くとクラウスは寝台で横になっていた。サイドテーブルの上には開けられた酒瓶に呑み書けの酒が入っている。
 しっかりと薬が効いてくる頃合いだろう。
「何をしている。マリア」
 クラウスは寝台から起き上がりマリアを見つめた。寝間着姿のクラウスに胸がきゅんとなりマリアは頬を赤く染めた。
「クラウス様、私……明日は屋敷を出ていくので最後に挨拶へ参りました」
「そんなことは今必要なことかい? 挨拶は明日でいいから帰りなさい」
 そっけない言葉の中に焦りがある。マリアの姿をみて体が熱くなってきているはずだ。
「クラウス様、どうか最後に思い出をいただけませんか?」
 うるうると潤んだ瞳でクラウスの近くまでやってきて寝間着をはだけさせる。煽情的な下着が見え、その下にはマリアの若い女の白い体が瑞々しく現れた。
 体が動かないクラウスを見つめながらマリアは彼の体を抱き寄せた。
「お願いです。クラウス様……どうか私と」
「いやです」
 はっきとした言葉、同時にクラウスはマリアの腕を掴み引きはがした。
「これ以上私を侮辱するのはやめてくれないか?」
 マリアは気づけばクラウスから押し出され床にぺたっと尻もちをついた。クラウスは冷たい表情でマリアを見下ろした。
「どうしてっ! 何でなの?」
 薬は確かに効いていたはずだ。
「何でとはこちらが聞きたいです。若いの女性が、妻帯者の男の寝室に入ってくるなど……娼婦でもこんな愚かなことはしない」
 明らかな侮蔑の言葉にマリアは顔を真っ赤にした。
「おかしいじゃないの。私の体をみて欲情しないなんて変よ!」
「いい加減にしろ。私はお前の体に全く興味もない。わかったなら早く自分の部屋へ帰りなさい」
 もはや丁寧な口調に疲れてしまった。クラウスはくだけた言葉でマリアを窘めた。
 今起きたことは黙っていてやると言わんばかりの態度にマリアは歯ぎしりした。
 薬は飲んでいたはず。飲んでいなかったのか。
 頭の中で必死に考え、ふふっと不敵に笑った。
「ここで私が叫んだらどうなるでしょう。私の侍女が駆けつけたらあなたは私を部屋に引き込んだと言われて、父から責任とらされることでしょう」
 どちらにせよマリアを受け入れるほかないのだとマリアは勝ち誇っていた。マリアと対照的にクラウスは静かであった。
 ついに観念したのだ。
 マリアはにやりと笑った。
「大人しく部屋に帰るか、私を暗殺しようとして断罪されるかどちらかを選べ」
 逆に選択肢を与えられマリアは口をあんぐりと開ける。
「暗殺なんて大げさな」
「大げさか……私に薬を盛ろうとして、夜に主人の部屋を訪れて。そう疑われても仕方ないと思うけど」
 証拠はいくつかある。
 クラウスは買収された侍女があらいざらい話したことをマリアに伝えた。
 
 あの裏切り者。
 
 マリアは舌打ちした。
「証拠はそれだけじゃない。私と妻の仲を引き裂こうと暗躍していたらしいな」
「な、何のことかしら」
「伯爵領の屋敷で妻の手紙を盗んだ侍女がいた。私へあてられた手紙が何十通も部屋に保存していて、尋問すれば雇い主はフォルテ子爵家だというじゃないか。しかも、屋敷の侍女らに妻の悪評を広めて妻を孤立化させた。お前の父親からの指示の手紙も差し押さえてある」
 クラウスの瞳は冷ややかで恐ろしい。はじめてこの屋敷に訪れた時は愛想が良かったが、今はそれが仮面のように外れている。これが本来の彼の素顔かもしれない。
「そんな、父がそんなことをしていたなんて何かの間違いでは」
 どっどっと早く打つ心臓の音を押さえながらマリアは素知らぬふりをする。伯爵領の屋敷で雇った侍女はマリアも知っている。彼女から情報を送ってもらうこともあったからだ。アデルが離縁状を置いて出ていったという情報もすぐ知らされ両手を叩いて喜んだものだ。
「ここまですぐにその場の演技ができるのは大したものだ。女優になった方がいいのでは?」
 皮肉の言葉にマリアはきっと睨みつけた。女優など乞食のような仕事ではないか。マリアの中には職業への差別心も含まれていた。
「マリア、私がまだ寛大であるうちに部屋へ帰りなさい」
 マリアとフォルテ子爵の今後の行動次第ではこの件は公にしないでおく。クラウスはそう口にした。
「何よ。あんな山羊女より私の方があなたに相応しいわ!」
 悔し気に叫ぶマリアをクラウスは相変わらず冷たく見下ろした。
「だって私の血は大おばあ様まで辿れば元はローゼンバルト伯爵家の血筋よ。両親とも貴族だし、幼い頃から令嬢だった。あんな拾われて付け焼刃のように身に着けた程度で本質は田舎の山羊女よりもよっぽど」
「マリア、私の妻を山羊女と呼べば容赦しないと言わなかったか?」
 呆れたような言葉とともにクラウスはマリアの顎を捕えた。
「はっきりと言わないとわからないようだ。私はあなたのことなど好きではない。むしろ嫌悪している。こんな話の通じない女と一緒になるくらいなら独身を貫いた方がましだ」
 はじめて会った時は嫌悪感などなかった。しかし、改めて彼女の本性を見て呆れてしまう。アデルを何度も侮辱する言葉を言われて苛立ちが抑えられなくなる。
 このまま彼女をここに置くと暴力を振るいそうになる。
 さすがにそうならないよう理性は持ち合わせていたつもりであるが限界がある。
 クラウスは鈴を鳴らしパトリックを呼んだ。
「部屋へ連れていけ。私を襲おうとしたのだ。出られないように鍵をかけておけ」
 それだけ伝えるとパトリックは頷いた。パトリックとマリアの二人きりだとまた騒がれそうだから別の侍女も呼ぶ。何か起こそうとするだろうと侍女長も寝ずに控えてくれていた。
「行きましょう。レディ・マリア」
 侍女長に引っ張られる形でマリアはクラウスの部屋から出ていった。
 翌朝には無理やり馬車に詰め込み、フォルテ子爵家へと送り届けた。
 後で子爵から苦情が来たが、マリアが屋敷で起こした騒動とアデルの手紙を盗んだ侍女の証拠の品を提示し裁判を起こす覚悟であると伝えると静かになった。
 しばらくするとまた何をするかわからない。クラウスはヨハンに調べさせていたフォルテ子爵の身の回りの件を利用して資料と弁護士の手配料を数名に送った。フォルテ子爵は表向き人格者であるが裏では詐欺まがいのことをしている。彼に騙され財産を没収された下級貴族はおり、恨みを抱いている。しばらくは裁判沙汰に追われて身動きが取れないだろう。
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