ひら、ひらり。

はぁて

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126 相良先生へ

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 僕はベッドの中で目を覚ました。いつもあるはずの温もりがない。セミダブルのベッドの半分には僕が。そしてもう半分には相良さんの姿はなかった。シーツに手のひらをはわせる。冷たい。相良さんは、かなり前にいなくなってしまったらしい。

 ベッドの脇に置かれた丸テーブル。白くて、台が砂浜みたいなデザインをしている。その上に、白いメモが置いてあった。

『急な仕事で出ていかなきゃならなくなった。支払いは済ませてあるから、帰っても大丈夫だよ。忘れ物はしないように。あと、家に着いたら連絡して』

 慌てて書いたのか、文字は走り書き。でも、相良さんの字は綺麗で。なんていうか、ぱきっとした印象。あれ、裏面にも何か書いてある。ぺらりと捲って文字を確認した。

『李子くん。好きだよ』

 こっちの文字は、小さくて丁寧だ。慎重に書いたのかな。僕の胸はぱあぁっと華やぐ。僕はどきどきと高鳴る胸に手を置いた。嬉しい。嬉しい。相良さんに大切にされている。そのことが、夢みたいで。僕は昨日の夜に起きた悲しいことなんか忘れてしまいそうになった。でも、「ちはや」という3文字は僕を簡単に現実に引き戻してくる。やっぱり……気になる。相良さんに問いただすのは勇気がいるし……面倒くさいやつだと思われたくない。どうしよう……。

 僕はベッドの中で30分考え込んで結論を出した。とりあえず、今はちはやという言葉を忘れよう。人の名前じゃないかもしれないし。ペットとかの名前かもしれない。もしかしたら、相良さんが好きなアニメのキャラクターの名前かもしれない。それを間違えて口に出してしまったんだ。昨日はとても疲れていたみたいだから。うん、きっとそう。僕は心のもやを振り払うようにしてベッドから抜け出す。そうして、身なりを正して職場に向かう。ホテルの外、海から見える朝焼けは綺麗で。僕はそれを相良さんと一緒に見れたらどんなに嬉しいだろうと思った。
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