ひら、ひらり。

はぁて

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「おすわりは……ちゃんとできてるね」

 相良さんがkneelと言う前におすわりをしておく。僕はいつの間にかこの姿勢になることに躊躇いがなくなっていた。僕のおすわりは上手じゃないかもしれないけど……精一杯、限界まで脚を開いてお尻を床につける。

「おいで」

 手を招かれ、相良さんの足元に向かう。相良さんはソファから立ち上がって僕の肩を撫でた。よしよしと撫でてくれていた手が、ふと消える。相良さんは無言で僕の横をすり抜けて、リビングを出ていってしまう。僕は立ち上がって追いかけようとした。その瞬間。

「猫はそういうとき、どうするの?」

 薄めた目が僕と合う。静かな怒気をはらんだそれにあてられ、僕はすぐさま四つん這いになった。とたとたと慣れない姿勢で相良さんの足元に向かう。相良さんは僕が着いてきたことを確認すると、キッチンに入っていった。夕食の準備のときにはなかったものが、そこにはある。

 キッチンの大理石の台の上に置いてあったのは、猫用フード皿。薄ピンクのそれの中には、透明な液体が入っている。

「っ」

 相良さんが唐突に僕の両脇に腕を差し込んだ。僕は驚いて手足が縮む。とさ、とキッチンの台の上に下ろされる。

「まずは水分補給しないとね。飲んで」

 僕は頭を下げて、おしりを上げる格好で皿に顔を近づけていく。じっくりと、見られている。本物の猫のように四足になって体を屈めた。ぴちゃぴちゃと舌先を使って液体を舐める。

「っ!?」

 なにこれ。アルコール? ぴりりと舌先に電流が走ったみたいだった。僕は縋るように相良さんを見上げる。しかし、彼は沈黙したまま長い人差し指で皿を示すだけ。僕はおずおずとアルコールと思しき透明な液体を口に含んだ。最初のうちは問題なかったが、だんだんと頭の奥が痺れてきた。これきっと、アルコール度数高いやつだ。普通の酒飲みレベルの僕なんかが飲んで無事でいられるはずがない。皿に残った液体は半分くらいだ。半分もよく頑張ったって褒めて欲しい。そう思ってもう一度相良さんを見上げるとーー。

「飼い主のあげたものは飲み干さないと、ね」

 ぞっとするような冷たい視線を浴びて、身体がかたかたと震え始める。大丈夫。ちゃんと飲み干せば許してくれる。だから、飲め。飲むんだ。食後でお腹がいっぱいだから、胃の中に液体が入る場所なんてないけど。
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