ひら、ひらり。

はぁて

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「雛瀬せんぱーい!」

 ぱたぱたぱた。金森さんの足音。フロアの隅のカフェで休んでいた僕に駆け寄ってきてくれる。18時。7月の夕焼けは夏の色をしている。ほのぼのとしていて、眩しいさに思わず薄目になる。このビルからは夕焼けがよく見えた。

 金森さんだけは、入社して以来だんだんと距離を詰めてきてくれる。職場でこういう人に出会うのは初めてだ。なんとなく、妹みたいな感じで見てしまう。僕はひとりっ子だったから、兄弟や姉妹がいたらこんなふうに見えるのかな。そう思って。

「このあいだ鎌倉行ったので、そのお土産です。良かったら食べてください」

 僕の手のひらに渡してきてくれたのは、形の可愛らしいマカロンだった。黄色と、ピンクと水色。水色ってどんな味がするんだろう。そう思って尋ねてみる。

「水色って何味?」

「何味だと思いますか?」

 逆に聞かれてしまった。僕はうーん、と考え込んでから

「ソーダ味」

 と答えた。内心そうだったらいいなと思って。僕は飲み物の中で1番ソーダが好きだから。夏祭りでよく飲む瓶のやつ。小さい頃から中のビー玉を眺めるのが大好きだった。金森さんは「惜しいです」と笑って答えを教えてくれた。

「ライム味でした」

「大人の味だね」

 しげしげと水色のマカロンを眺める。見れば見るほど海の色みたいで綺麗だ。

「ちなみに、黄色いのは柚でピンクのはラズベリーです。私はラズベリーが1番美味しかったです」

 頬に手を当ててはにかむ金森さん。きっと、男性陣はこういう仕草にメロメロになってしまうんだろうな。
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