33 / 162
33
しおりを挟む
「雛瀬先輩。今日もよろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
丁寧に僕のデスクまでやってきた金森さんに、そう伝える。彼女はぱっと笑顔になって、僕と別の島にあるデスクに向かっていった。時刻は午後2時。今日は午後23時までの勤務だから、頑張ろう。
_____________________
プルルルル、と受話器が鳴る。ワンコール鳴る前に出た。
「もしもし。ひだまり相談室の雛瀬です」
「……あのう」
「はい」
電話越しに女性と思しき声。なんとなく、高齢者な気がする。僕は、なるべく柔らかい声を出すように努めた。そして、はっきりと発音する。
「ちょっと困ったことが起きてるのよ。主人がね、いないの。お散歩に出かけたかと思ったんだけど、昨日から帰ってこないのよ」
「それは心配ですね……警察などに相談はされたんですか?」
すると、女性は「そうよ」と落ち着いて言った。
「わたし、心細くってかなわなくて……こうして電話をかけているの。あなたはどう思う? 主人は帰ってくると思う?」
僕はメモ帳の隅に、失踪と書いた。もしかしたら、ほんとうに事件や事故に巻き込まれているかもしれない。そう思って、詳細を聞くことにした。
「ご主人と連絡はついていますか?」
「いいえ。もう何度かけても繋がらないのよ」
「丸野さん! 何してるんだ!?」と、電話の向こうで男性の大きな声が。僕と話していた女性は「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝っている。なにかおかしいと思っていると、大きな声を出した男性が電話を代わったらしい。
「すみません。私、介護福祉士をしております太田と申します。患者さんが電話をかけてしまったみたいで……」
「はい。今の女性はご主人の話をされていましたが……大丈夫なんでしょうか」
不安になって聞いてみる。すると男性は、
「ああ。それはもう何年も前のことでして。ご主人、亡くなられたんですよ。その前から丸野さん……あなたに電話をかけた女性は認知症を患っていまして。今でも、たまに相談機関を調べて電話相談をしているみたいなんですが……おおごとになってしまうのでやめさせようとしているんです」
「うん。よろしくね」
丁寧に僕のデスクまでやってきた金森さんに、そう伝える。彼女はぱっと笑顔になって、僕と別の島にあるデスクに向かっていった。時刻は午後2時。今日は午後23時までの勤務だから、頑張ろう。
_____________________
プルルルル、と受話器が鳴る。ワンコール鳴る前に出た。
「もしもし。ひだまり相談室の雛瀬です」
「……あのう」
「はい」
電話越しに女性と思しき声。なんとなく、高齢者な気がする。僕は、なるべく柔らかい声を出すように努めた。そして、はっきりと発音する。
「ちょっと困ったことが起きてるのよ。主人がね、いないの。お散歩に出かけたかと思ったんだけど、昨日から帰ってこないのよ」
「それは心配ですね……警察などに相談はされたんですか?」
すると、女性は「そうよ」と落ち着いて言った。
「わたし、心細くってかなわなくて……こうして電話をかけているの。あなたはどう思う? 主人は帰ってくると思う?」
僕はメモ帳の隅に、失踪と書いた。もしかしたら、ほんとうに事件や事故に巻き込まれているかもしれない。そう思って、詳細を聞くことにした。
「ご主人と連絡はついていますか?」
「いいえ。もう何度かけても繋がらないのよ」
「丸野さん! 何してるんだ!?」と、電話の向こうで男性の大きな声が。僕と話していた女性は「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝っている。なにかおかしいと思っていると、大きな声を出した男性が電話を代わったらしい。
「すみません。私、介護福祉士をしております太田と申します。患者さんが電話をかけてしまったみたいで……」
「はい。今の女性はご主人の話をされていましたが……大丈夫なんでしょうか」
不安になって聞いてみる。すると男性は、
「ああ。それはもう何年も前のことでして。ご主人、亡くなられたんですよ。その前から丸野さん……あなたに電話をかけた女性は認知症を患っていまして。今でも、たまに相談機関を調べて電話相談をしているみたいなんですが……おおごとになってしまうのでやめさせようとしているんです」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる