ビジネス番契約ですが欠陥αに不器用に溺愛されて偽りΩは幸せです

子犬一 はぁて

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「岸本さん、でしたっけ?」

 話し合いを終えて綿貫がまだぼーっとしている岸本に声をかける。はっとして岸本は振り返った。目をぱしぱしと瞬かせている。

「はい」

「さっきの抑制剤ありがとうございました。おかげで落ち着きました」

   ぺこりと丁寧にお辞儀をする綿貫を岸本は曖昧な様子で頷く。

「あ、えっと……」

 自分がオメガだということを表すようなことをしてしまったのかと思うと頭が痛む。しかし緊急時だったため今更後悔しても遅い。

「大丈夫です。僕は口が堅い方ですから誰にも言いません」

 大きな目元を緩ませながら綿貫が言うのを小鳥遊はなんとなく聞いていた。守と雰囲気が似ている。つい守ってしまいたくなるようなそんな可憐さがある。儚くて、いつ消えてしまうかわからない。

「それでは仕事の話は終わりましたし、我々の話をしましょうか」

 姿勢を正して天海が言うのを小鳥遊は黙って聞いていた。これが岸本との契約の終わりなのだろうと思って軽く目を閉じた。意外にも早かったな、とそんなことを思いながら耳だけはしっかりと音を拾う。今1番聞きたくない言葉たちだった。

「入室した際に岸本さんは発情しましたね。そして私は本来ならあなたを襲っているところでした。しかし性的興奮は覚えなかった。つまり私の体には性の鎮静化が起きていたんです。それが何を意味するのかわかりますか?」

 岸本が唾を飲み込む音が聞こえてきそうだった。岸本の目が見開かれている。

 知らないわけがないだろう。岸本。認めろ。認めてはやく楽になれ。俺なんかと偽りの番になんかならなくていい。ビジネスの番はもう終わりにしよう。

「運命の番──あなたと俺が?」

 天海は軽く笑った。少し照れ臭そうに頭をかいて。

「そうらしい。でもそれは私たちだけじゃなかったようだ。あなた方2人も運命の番なのでしょう」

 小鳥遊と綿貫の視線が交わる。しかしそれは一瞬のことで小鳥遊は目を逸らした。

「小鳥遊さん、そうなんですか?」

 期待と喜びに満ちた目で綿貫が小鳥遊を見つめる。たしかに胸の鼓動は速くなったが性的興奮は覚えなかった。もともとオメガには耐性があるといっても岸本のように我慢がきかない相手もいる。しかし小鳥遊は綿貫に対してはそれほど好意を持てなかった。それは守と雰囲気が似ていたからかもしれない。
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