ビジネス番契約ですが欠陥αに不器用に溺愛されて偽りΩは幸せです

子犬一 はぁて

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「ごちそうさま」

 そう言い残して小鳥遊は洗い物に取り組む。調理は岸本が、洗い物は小鳥遊がやるのが常だった。岸本はゆっくりと味わうように食事をしている。小鳥遊は慣れない洗い物に苦戦しながら家事を進める。このぬるっとした泡の感触が苦手と岸本に伝えると、ビニール手袋を買って装着してきた。配慮をしてくれたらしい。小鳥遊はもくもくと食器を洗っていく。食洗機を買ってもいいと思っているのだが、倹約家の岸本に止められている。全然手洗いで大丈夫ですよ、と頑なに食洗機を断るのだ。仕方なしに小鳥遊は付き合ってやる。

 その後ろ姿を眺めながら、こんな日常がいつまで続くのだろうかと考える。俺はもう31歳でこれから新しい番を見つけることは気持ち的にもなかった。しかし、岸本はどうだろう。まだ23歳の若者はずっとこのままでいいと思うのだろうか。今後俺の地位を揺るがすくらい昇進していって、俺以上に優秀で親切なアルファに出会うこともあるだろう。そんなときに俺との契約は岸本の未来を邪魔をする鎖でしかない。岸本が番の解消を申し出てきたらすぐにそれを承諾しよう。それが俺と岸本の幸せに繋がるのなら、それで構わない。

 ただ今はこの変わり者の若者との共同生活を楽しみたいと心の底で思う。守と別れて以来ここまで俺に近づく男はいなかった。こんな俺を恐れず真っ直ぐ目を見て話してくれる。それだけで張り詰めた空気が和らぐのは、岸本が持つ生まれ持っての明るさのせいだろうか。いいや、違うな。きっと岸本がアルファの仮面を被りここまで生き抜いてきた過程のやさしさゆえだろう。

 シャワーを浴び終えると岸本はすぐにソファに横になってテレビを見始める。それを小鳥遊はダイニングテーブルに腰掛けて社内報を読みながら見つめていた。なんの強制力もないこの関係がひどく心地いい。数ヶ月もこうしているとこの生活に慣れてしまう。美味い晩飯と家事の全てを行ってくれる忠犬のような男に頼りきっているのは重々承知している。それでいてたまにちょっかいを出されることにも不思議と嫌な気はしない。何事にも積極的で底なしの明るさを持つ岸本と俺とではまるで違う。性格も思考も全て。そんな太陽みたいな岸本に甘えてしまうのは、いい歳をした自分は許されないものだろうか。
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