ビジネス番契約ですが欠陥αに不器用に溺愛されて偽りΩは幸せです

子犬一 はぁて

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 ややピタッとしたサイズの小鳥遊のスウェットを着た岸本が髪を拭きながら歩いてくる。とてとてと子猫のように歩いてくる岸本を椅子に座るよう促して小鳥遊はコーヒーカップに口をつけた。ならうようにして岸本もカップを手に取る。香ばしい匂いが2人の間にたちこめる。岸本は角砂糖を2つと、ミルクポーションを1つ入れてスプーンで混ぜる。数分無言だったが、少し落ち着いたのか岸本はゆっくりと口を開いた。唇が微かに震えているのを小鳥遊は見逃さなかった。

「こんなふうじゃきっとすぐに会社にバレてクビにされますよね」

 赤い目元はシャワーを浴びている間に泣いたせいだろうか。弱々しく言葉を吐く岸本が急に心配になる。今にも辞めると言い出しそうだった。

「発情期を予測することはできないのか」

 オメガの知識に浅い小鳥遊はそう聞いてみる。ふるふると首を振って岸本が答えた。諦めたような目をしていた。

「だいたい3ヶ月に1回なんですけど……抑制剤は発情期前に飲んでも効果はないので発情した直後に飲まないといけないんです」

「そうか……そうなると今の状態だと厳しいかもな」

 岸本は目線をテーブルに落として震える声で言った。

「病院にお願いして1番強力な抑制剤を出してもらってるんです。飲めば5分もしないで効果が出るから……でも副作用が結構あって日中は眠くて仕方ないし、お腹の調子もあんまりよくなくて」

 そうだったのか。常に健康そうだと思っていたが副作用に悩んでいたなんて。部下の体調不良に気づけなかったのも自分の責任だと小鳥遊は捉えた。普段の岸本は明るく元気で、業務中に眠そうにしている素振りは見たことがないし、体調が悪そうな日を見たことは1度もなかった。隠すのが上手いのだ。彼の人生の歩みの過程で、隠すことが当たり前の努力だったのだろう。

 徹底されたアルファの仮面を被ってきた岸本に小鳥遊は少なからず同情した。この若者の未来を思うと可哀想に思えてくる。アルファの社会に溶け込むのは口で言うほど容易なことではない。ましてや岸本のように仕事ができると思われるとすぐに難しい仕事を振られるはずだ。そんな中、自分の体調と向き合って仕事に取り組むのは茨の道のように思える。そう。彼は茨の道を進んできた男だ。もうボロボロに傷ついている。これ以上傷ついて何になるというのだろう。小鳥遊には老婆心のようなものが芽生えていた。叶うことなら、できうる範囲でサポートしてやりたいと。
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