1 / 166
1 プロローグ─運命の番─
しおりを挟む
「運命の番」
それを聞いて、人は何を思い浮かべるだろう。運命の人、というのはわかる。運命的に出会う人のことだ。小指に赤い糸が垂れて、それが繋がっている相手。一生に一度出会えるかという奇跡の確率。そうしたら「番」とはなんだろう。日本では太古より鳩が番を作ると言われる。鳩は一夫一妻制で、番になった雄と雌は一生添い遂げる。そうして子を産み、新しい命を育てるのだ。
「運命の番」
それは、第二の性を持つ世界で最も幸福な関係を示す。
男女、あるいはLGBTQの性以外に存在する第二の性。アルファ、ベータ、オメガの3つを有する人間たちの世界では、アルファは人口の3パーセントを占めるその世界の上位の人間。地位も名誉も富も全てを与えられた存在。この世の人間の7割を占めるベータは努力次第でその能力を伸ばすことも殺すこともできる一般人として位置づけられている。そしてオメガ。人口の0.5パーセントしかいない希少種。成長過程でその「異質」さが現れるようになる。3ヶ月に一度訪れる「発情期」のために、一週間から二週間ほど社会生活を送ることが不可能になる。発情期のときにはオメガの身体に強い性的興奮と倦怠感をもたらす。そのため、社会の中のオメガの位置付けは守られるべき庇護の存在として認識されていた。生物学的特徴としての過不足ゆえの生きにくさ。それを尊重し、アルファ、ベータ、オメガの3種類の人々が助け合う社会を作ることが現代社会の福祉的課題と言われている。
そんな中でも特にアルファとオメガの特異な両種の結びつきは社会問題にまで発展している。アルファに抑え切れないほどの性的興奮を呼び起こすのは、オメガの発情期に発されるフェロモンのみ。両者はお互いの存在に留意しながら社会生活を送っている。たびたびニュースになるのは、「抑制剤」と呼ばれるオメガの発情期のフェロモンを体外に放出するのを抑える薬が効かなかった際、その香りに当てられたアルファにオメガが襲われるという事件。その行為中熱にうなされたアルファとオメガの意識はなく、被害者・加害者の区別も容易ではなかった。自らの身を守れなかったオメガに批判の声は強まり、自殺してしまう者も少なくない。世の中はSNSが発達したことで、情報収集が容易くなった。その弊害、負の副産物としてネットの誰かがまるで裁判官のように、罪人の罪を裁こうとする動きがうかがえる。犯罪のなき社会へ、犯罪者は断じて重刑罰であるべきという風雲のさだめのように。社会は急速に過密になっては、あぶれた者を石打ちにして傷めつけていく。
その一方で、二つの性には「運命の番」と呼ばれる幸福なカタチが存在することも知られている。産まれた場所、年齢、性格、思考を越えて運命という強い糸で繋がっている者同士が出会えば、そのオメガのフェロモンに当てられた際アルファは性欲の暴走を起こさない状態になる。これを第二の性を研究する本では「性の鎮静化」と説明している。第二の性についての研究は日夜行われているが、まだまだ未解明なことも多く研究者はラボに詰め込まれる生活を余儀なくされている。
アルファがオメガのうなじを噛むことで「番」と呼ばれる究極の結びつきの関係性が生まれ、そのオメガはアルファに依存するようになる。番となったアルファとの行為でしか抑制剤を服用する以外で発情期を抑える術がなくなり、これは運命の番を求めるアルファの一方的な行為で行われることも少なくない。
そして一度番になったオメガはその番を解消されても一生そのアルファに依存してしまうという副反応を起こす。番になっている間はオメガの発情期が途絶えるので、世の中にはビジネス番と呼ばれる一種の相互関係を結ぶアルファとオメガも存在している。アルファは性欲を発散する相手を見つけ、オメガは発情期を止める術を得る。普通の社会生活を望むオメガがアルファに話を持ちかけることも多いが、個人契約のためいつ番を解消されるかわからない分、オメガはアルファにさらに依存的になる。実際の事件として、オメガがアルファから性的暴行や虐待を受けることも少なくない。
そのため、むやみやたらにあるいはオメガの許可なしにアルファがオメガのうなじを噛むことは法律で禁止されている。それを破った者は禁錮10年の重い罪に問われるのだ。しかし、多くは多額の釈放金を払って刑務所から出てしまうため、現在も様々な法改正が行われている途上にある。
それを聞いて、人は何を思い浮かべるだろう。運命の人、というのはわかる。運命的に出会う人のことだ。小指に赤い糸が垂れて、それが繋がっている相手。一生に一度出会えるかという奇跡の確率。そうしたら「番」とはなんだろう。日本では太古より鳩が番を作ると言われる。鳩は一夫一妻制で、番になった雄と雌は一生添い遂げる。そうして子を産み、新しい命を育てるのだ。
「運命の番」
それは、第二の性を持つ世界で最も幸福な関係を示す。
男女、あるいはLGBTQの性以外に存在する第二の性。アルファ、ベータ、オメガの3つを有する人間たちの世界では、アルファは人口の3パーセントを占めるその世界の上位の人間。地位も名誉も富も全てを与えられた存在。この世の人間の7割を占めるベータは努力次第でその能力を伸ばすことも殺すこともできる一般人として位置づけられている。そしてオメガ。人口の0.5パーセントしかいない希少種。成長過程でその「異質」さが現れるようになる。3ヶ月に一度訪れる「発情期」のために、一週間から二週間ほど社会生活を送ることが不可能になる。発情期のときにはオメガの身体に強い性的興奮と倦怠感をもたらす。そのため、社会の中のオメガの位置付けは守られるべき庇護の存在として認識されていた。生物学的特徴としての過不足ゆえの生きにくさ。それを尊重し、アルファ、ベータ、オメガの3種類の人々が助け合う社会を作ることが現代社会の福祉的課題と言われている。
そんな中でも特にアルファとオメガの特異な両種の結びつきは社会問題にまで発展している。アルファに抑え切れないほどの性的興奮を呼び起こすのは、オメガの発情期に発されるフェロモンのみ。両者はお互いの存在に留意しながら社会生活を送っている。たびたびニュースになるのは、「抑制剤」と呼ばれるオメガの発情期のフェロモンを体外に放出するのを抑える薬が効かなかった際、その香りに当てられたアルファにオメガが襲われるという事件。その行為中熱にうなされたアルファとオメガの意識はなく、被害者・加害者の区別も容易ではなかった。自らの身を守れなかったオメガに批判の声は強まり、自殺してしまう者も少なくない。世の中はSNSが発達したことで、情報収集が容易くなった。その弊害、負の副産物としてネットの誰かがまるで裁判官のように、罪人の罪を裁こうとする動きがうかがえる。犯罪のなき社会へ、犯罪者は断じて重刑罰であるべきという風雲のさだめのように。社会は急速に過密になっては、あぶれた者を石打ちにして傷めつけていく。
その一方で、二つの性には「運命の番」と呼ばれる幸福なカタチが存在することも知られている。産まれた場所、年齢、性格、思考を越えて運命という強い糸で繋がっている者同士が出会えば、そのオメガのフェロモンに当てられた際アルファは性欲の暴走を起こさない状態になる。これを第二の性を研究する本では「性の鎮静化」と説明している。第二の性についての研究は日夜行われているが、まだまだ未解明なことも多く研究者はラボに詰め込まれる生活を余儀なくされている。
アルファがオメガのうなじを噛むことで「番」と呼ばれる究極の結びつきの関係性が生まれ、そのオメガはアルファに依存するようになる。番となったアルファとの行為でしか抑制剤を服用する以外で発情期を抑える術がなくなり、これは運命の番を求めるアルファの一方的な行為で行われることも少なくない。
そして一度番になったオメガはその番を解消されても一生そのアルファに依存してしまうという副反応を起こす。番になっている間はオメガの発情期が途絶えるので、世の中にはビジネス番と呼ばれる一種の相互関係を結ぶアルファとオメガも存在している。アルファは性欲を発散する相手を見つけ、オメガは発情期を止める術を得る。普通の社会生活を望むオメガがアルファに話を持ちかけることも多いが、個人契約のためいつ番を解消されるかわからない分、オメガはアルファにさらに依存的になる。実際の事件として、オメガがアルファから性的暴行や虐待を受けることも少なくない。
そのため、むやみやたらにあるいはオメガの許可なしにアルファがオメガのうなじを噛むことは法律で禁止されている。それを破った者は禁錮10年の重い罪に問われるのだ。しかし、多くは多額の釈放金を払って刑務所から出てしまうため、現在も様々な法改正が行われている途上にある。
22
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
君の番として映りたい【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全9話/オメガバース/休業中の俳優アルファ×ライター業で性別を隠すオメガ/受視点/
『水曜日の最初の上映回。左右から見たら中央あたり、前後で見たら後ろあたり。同じ座席にあのアルファは座っている』
ライター業をしている山吹は、家の近くのミニシアターで上映料が安い曜日に、最初の上映を観る習慣がある。ある時から、同じ人物が同じ回を、同じような席で見ている事に気がつく。
その人物は、俳優業をしている村雨だった。
山吹は昔から村雨のファンであり、だからこそ声を掛けるつもりはなかった。
だが、とある日。村雨の忘れ物を届けたことをきっかけに、休業中である彼と気晴らしに外出をする習慣がはじまってしまう。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
金曜日の少年~「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく~
大波小波
BL
貧しい家庭に育ち、さらに第二性がオメガである御影 駿(みかげ しゅん)は、スクールカーストの底辺にいた。
そんな駿は、思いきって憧れの生徒会書記・篠崎(しのざき)にラブレターを書く。
だが、ちょっとした行き違いで、その手紙は生徒会長・天宮司 伊織(てんぐうじ いおり)の手に渡ってしまった。
駿に興味を持った伊織は、彼を新しい玩具にしようと、従者『金曜日の少年』に任命するが、そのことによってお互いは少しずつ変わってゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる