風に還る時には傍に―白き狼の戦士は盲目の主君に身を捧げる―

子犬一 はぁて

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暗殺者(2)

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「白狼。何が起きた!? そなたは無事かっ」

 フュンが部屋の隅に手を付き、ふらふらと頭を揺らしている。白狼は驚かせないように、そっとフュンに近づいた。早くここから立ち去らなくてはならない。この男の言うようにフュンの首に賞金がかけられているのならば、ここではもう暮らせない。早くここから逃げなければならなかった。白狼はフュンの肩に静かに手を載せる。ぴく、とフュンが白狼のことを見上げた。その視線はふらふらと彷徨っている。

「いいか。よく聞け。お前の首には賞金かかけられている。今、お前のことを襲った奴が自害した。もうこの屋敷にはいられない。今すぐにここから逃げる。俺がお前をおぶって行くから、今はただ俺の言う通りにしてくれ」

 白狼の緊迫した空気を感じ取ったのか、フュンは口を閉ざしてこくり、と小さく頷く。白狼は背中に大剣を背負うと、フュンの使っている白杖を持ち、フュンを背負いあげた。フュンがぎゅ、と白狼の肩に腕を回す。

「走るから、俺の首から手を離すな」

「わかった。でも、一体どこへ逃げるのだ」

「俺に考えがある。今は説明している暇はない。とりあえず、一言だけ言っておく」

 フュンは白狼の背中にしがみつきながらその言葉を聞いた。

「お前のことは必ず俺が守ってやる。だから、心配するな」

「……うん。わかった」

 力強い白狼の言葉に全てを預けることにした。この先の未来がどうなったとしても、きっと白狼が助けてくれるに違いない。そう信じて、フュンは走る白狼の背中へしがみつき続けた。

 白狼の吐く息の音を聞いていた。どれくらい走っているのだろうか。耳を澄ますと、人の声がそこかしこで聞こえる。ということは、ここは王都の下町か。下町には下りたことがないから、やけに人の声や馬の声がうるさくて耳を塞ぎたくなった。でも、おぶってくれている白狼の邪魔はしたくない。

 気づけば人の声が聞こえない場所へ着いていた。白狼の走る速度が少し落ちたのを感じて、フュンは白狼に心配げに声をかける。

「白狼。走り続けて疲れていないか? 少し休まないか?」

「いや。ダメだ。まだここは目的地じゃない。馬の足で追われたら、半日で追いつかれてしまう」

「しかし、そなたはわたしをおぶっているし、大剣も背負っているし重かろう?」

 すると白狼がくっくっと喉を震わせた。

「心配するな。お前は鳥の羽のように軽いから、気にしなくていい」

「……白狼。わかった。でも無理はするな」

「ああ。わかってる。もうひと走りするぞ」

 フュンの瞼の裏には、光が少ししか入ってこない。頬に浴びる暖かな日差しを感じる。今は夕焼け時か。もう数刻も走り続けていることになる。白狼の身体が心配だが、今は白狼の言う通り少しでも遠くに逃げなければならない。
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