風に還る時には傍に―白き狼の戦士は盲目の主君に身を捧げる―

子犬一 はぁて

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白き瞳(5)

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 フュンは時々難しい言葉を使う。以前、仕えた貴族も華やかな言葉を用いていた。山暮らしの野党の白狼には、なんとなくでしか単語の意味がわからない。書き物などする必要などなかったし、学問など以ての外。生きるためには狩猟と金が必要で、そのために寝て起きて暮らしていたのだ。

 白狼からしてみれば、フュンの言うような生き方は小物の生き方に見える。甘ったれた坊ちゃん暮らしだ。

「そなたは野党育ちと聞いているから、ここでの暮らしにはゆっくり慣れてほしい。ただ、わたしの世話も忘れずにしておくれ」

「飯はどうするんだ?」

「屋敷の少し離れた場所に畑がある。そこで芋や葉物野菜を育てている。もう少し行くと、小さな沢があるから、そこで鮎なんかを取って焼いて食べたりしているよ」

「……そうか。じゃあ俺はお前の介助と飯の支度などをすればいいんだな?」

「うんうん。話がわかる子は好きだよ……ふぁあ。少し眠くなってきたな。わたしが起きたら声をかけるから、それまでゆっくりするといい。そなたの部屋は隣に用意してある」

「……ああ。わかった」

 欠伸を混ぜて、フュンが背もたれに背を載せてすぅすぅと寝息を立て始める。白狼はフュンの言いつけ通りに自室へと向かった。

 部屋の中はフュンの部屋よりは狭いものの、寝起きするには問題のない様子だった。白狼が暮らしていた洞穴の3倍はある。

 この部屋にも南側に窓が拵えてあって、そこから外の様子を見ると森林に覆われている。鳥の巣がいくつかあるのか、ヒョルル、ヒョルルと初めて聴く鳴き声の鳥がいるようだ。

 太陽がやや傾き始めている。白狼は屋敷を出て畑に向かった。フュンの話通り、畑には様々な野菜が育っている。真っ赤に染まった小粒のトマトをもぎり、巨大化したナス、まん丸と膨れたピーマンなどをもぎる。白狼はそれらを屋敷の土間にあった籠に入れて置き、単身で沢を探し始めた。

「……ここか」

 その沢は大きな岩場に囲まれていた。水は清らかで直下に泳ぐ魚たちの様子もよく見えた。

 白狼は背にかけた大剣を岩場に下ろすと、ざぶざぶと沢の中へ足を踏み入れる。腰まで浸かったところで、沢の中にいる鮎を岩場に囲って素手で獲る。10匹ほど掴んでから、屋敷へと戻った。フュンの様子を見に行くと、まだ眠っている様子だったため、台所で野菜と鮎を洗い簡単に調理を始めた。
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