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白き眼(2)
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翌朝、見送り人もいないまだ朝焼けの残る時間に馬車が迎えに来た。案内するのは王宮の人間らしく、言葉が堅苦しい。馬車に乗り込み、3日走った。山から下りるのは初めてで周囲が人の声で騒がしいことに驚き、身をつまされていた。王宮に無事に辿り着くと、案内の男が白狼を連れて宮殿の中に入る。見たこともない石の彫刻や青銅の宝飾品を眺めながら、歩を進める。少し開けた場所に出る。大きな窓から、男が足を伸ばして背を向けて日向ぼっこをしている様子に出くわした。手には、腰丈ほどの白い杖を持っている。足でも悪いのだろうかと白狼は思った。案内の男が、
「フュン様。お呼びしました」
と声をかけると、くるりとこちらを向いて白狼のほうを見た。正確には、頭を少しこちらに向けた程度だが。
「よかろう。下がってよいぞ」
「は。失礼いたします」
案内の男がその場から立ち去り、白狼とその人物だけが残された。フュン様、と呼ばれた男はじーっと白狼の方向を見定めているような素振りをした。
「ちこう」
「?」
王族の言い回しに慣れずに、固まっていると、今度は大きな声で呼ばれた。
「ちこう寄れ」
呼ばれているのか? おずおずと白狼はフュンに近づく。すると、フュンが両手を空に広げて白狼の肩や腰をパンパンと撫でてくる。初対面の男とこうして触れ合ったことがないものだから、白狼は身じろぎしてつい避けてしまった。それを感じ取ったのか、フュンは少し不機嫌そうな顔を浮かべたが、白狼は自分には責はないのだと己に言い聞かせていた。
「ふむ。屈強そうでなにより。用心棒には適しているな」
この男が自分が用心棒をする王族か?
「そなた、名は何と申す」
「……ダーラン……」
フュンからの問に1拍待って答えると、フュンは白狼の言葉を繰り返した。
「ダーラン。珍しい名だな。山地の者か?」
「ああ。山の者だ」
ふむ、と思案げな顔を浮かべてフュンは曖昧な視線で白狼を捉えた。近づいてからわかったのだが、フュンの瞳は白蛇のように白く濁っている。黒目の部分までもが、白い漆喰のように。
「ダーラン。まず、伝えておかねばならぬことがある。そなたももう気づいているやもしれぬが、わたしは目が見えない。生まれつきだ。全くの闇ではなくて、眩しいところにいると微かに光の球を感じる程度だ。それで、日常生活にも支障が出てしまってね。用心棒だなんて大層な名目で呼んでしまったが、つまりはわたしの日々の介助をしてもらえたら助かるんだが……どうかな?」
「フュン様。お呼びしました」
と声をかけると、くるりとこちらを向いて白狼のほうを見た。正確には、頭を少しこちらに向けた程度だが。
「よかろう。下がってよいぞ」
「は。失礼いたします」
案内の男がその場から立ち去り、白狼とその人物だけが残された。フュン様、と呼ばれた男はじーっと白狼の方向を見定めているような素振りをした。
「ちこう」
「?」
王族の言い回しに慣れずに、固まっていると、今度は大きな声で呼ばれた。
「ちこう寄れ」
呼ばれているのか? おずおずと白狼はフュンに近づく。すると、フュンが両手を空に広げて白狼の肩や腰をパンパンと撫でてくる。初対面の男とこうして触れ合ったことがないものだから、白狼は身じろぎしてつい避けてしまった。それを感じ取ったのか、フュンは少し不機嫌そうな顔を浮かべたが、白狼は自分には責はないのだと己に言い聞かせていた。
「ふむ。屈強そうでなにより。用心棒には適しているな」
この男が自分が用心棒をする王族か?
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「……ダーラン……」
フュンからの問に1拍待って答えると、フュンは白狼の言葉を繰り返した。
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「ダーラン。まず、伝えておかねばならぬことがある。そなたももう気づいているやもしれぬが、わたしは目が見えない。生まれつきだ。全くの闇ではなくて、眩しいところにいると微かに光の球を感じる程度だ。それで、日常生活にも支障が出てしまってね。用心棒だなんて大層な名目で呼んでしまったが、つまりはわたしの日々の介助をしてもらえたら助かるんだが……どうかな?」
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