緋色の魔王(α)と暴君王子(α)の寵愛は愛に飢えた僕(Ω)を離してくれない

子犬一 はぁて

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はじめまして、王子様

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「……う」

 どれほど意識を失っていたのだろう。僕は見知らぬ森の中に倒れていた。状況を把握するため、森の出口へと向かう。飲水を飲み、1度心を落ち着かせる。

 ここが天上の国?

 森を抜けた先には、緑豊かな自然が広がっていた。3000メートルはありそうな山の尾根。それに連なるようにして高い白い壁が建てられている。

 あの壁の向こうに王子の住む王宮があるのか。どうやって行こう。ひたすら歩くしかないのかな。

 そんな思案にふけっていた僕は、背後からにじり寄る怪しい人影に気づけなかった。

 ごっ、という鈍い音が後頭部から生まれる。

「い、っ痛……」

 そのまま口元に布を押さえつけられる。塩素のような匂いがして、酸欠になりそうになる。じたばたと手足を動かすも、相手の頑丈な手からは逃れることができない。瞬く間に腕を鎖で拘束されてしまう。そのまま塩素の匂いに頭がクラクラとしてしまい、意識を失ってしまった。








 がや、がやと騒ぐ声が近くから聞こえて目が覚めた。少し肌寒い。

 僕は布で目隠しをされ、口も布で縛られて喋れない。僕は横になっているらしい。ジスのベッドとはまるで違う、硬い砂利の上に横たわっていた。

「お待たせしました。さあさ、こちらへ。今日は目玉商品がありやすぜぇ。旦那」

 ダミ声の男の声が、近くで聞こえた。ダミ声の男は、どすんどすんと重量のある足音を立ててこちらへ向かってくる。

「おい。お前らそいつを立たせろ」

 ダミ声の男の指示で、僕の身体は無数の手によって無理やり立たされた。殴られた頭部がじんじんと痛む。

 僕はどうすれば……。

 ガタガタと震えているのがバレたのか、ダミ声の男が僕のほうへ近づいてくる気配がした。

「ほうら。旦那。こいつなんて結構いい顔してるでしょう。夜伽にぴったりですぜ」

 ゲラゲラ、と卑猥な笑い声を立ててダミ声の男が僕の顎を掴む。そうして、目隠しの布を外した。

「っ」

 醜い表情をした人型の生き物が目の前にいる。ファンタジー映画の中でしか見たことがない。ゴブリンと思しきそれは、後ろに控えている人物に僕の顔をグイ、と持ち上げて見せつける。

 その瞬間。

「はぁっ……っあ」

 どくん、どくん、と心臓が一気に激しく脈打つ。息を吸うのも辛いくらいの早鐘に、手足の力が抜けていき、地面に膝をついてしまう。

「っ」

 ゴブリンの後ろに控えていた人物も、様子がおかしい。胸の辺りを押さえて僕を凝視する。その表情には驚きと、微かな微笑が浮かんでいた。

 それに、なんだろう。この甘い匂いは……。

 花々の蜜を集めたかのように、ぶわりと香る。それは、目の前のゴブリンには匂わないらしく、平然としている。

「どうしやしたあ、旦那!? どこかお悪いので?」

 旦那、と呼ばれた、ゴブリンの後ろに控えていた男がジリジリと僕ににじみ寄る。

「この男を買おう」

 僕の頬に男の手が添えられる。花々の匂いが頭を支配していく。

「待っていた……この時を。俺の運命の番」

「!?」

 男は恭しく僕の髪の毛に口付けを落とす。雪のように儚い印象の男は、襟足まで長く伸びたウルフカットの髪型。瞳は菫の花を水で溶いた絵の具のような色をしている。

「王宮に連れ帰る。牢に入れて馬車に乗せろ」

 男の髪は、真っ白で、月の光に照らされて蒼く光る。

「まさかこんなところで出会うとはな」

 いくらか僕の呼吸も落ち着いたところで、白銀の髪を夜風に吹かせる男の、ぽつりとした声に耳をすました。

「俺の名前はシュカ。フォリーヌ王国の第1王子だ。お前の名は?」

 僕の口の布を解きながら、氷のように冷たい声音で聞いてくる。

「っ」

 この人がフォリーヌ王国のシュカ王子。僕のターゲット。

「阿月」

「珍しい名だ」

 王子の長く、白い指が僕の前髪を持ち上げる。

「我が運命の番よ。その身を全て俺に捧げよ」

 ああ。ジスに会いたい。
 
「ふん。涙が出るほど嬉しいのか」

 シュカ王子はくっくっ、と喉の奥で笑う。

 違う。僕はジスに会いたいだけ。ライアとメビウスに会いたいだけ。

「案ずるな。すぐには喰わない」

 くくく、と喉を鳴らす王子。

 僕はもうこの王子の檻から逃れられない気がした。
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