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天上の国を憂う者(2)

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「フォリーヌ王国というのは、天上の国の3分の1の領土を誇る大国でね。王政は今は王子が司ると聞いている。シュカ王子という、齢はたしか20の小僧らしい。シュカ王子は外交に明るくて、他国への侵攻を繰り返し行い、現在も領土を広げていると聞く。だが、その戦争で必要な食べ物や武器を作る農民や技師達への徴税が厳しくてな。わたしの村も、雨に恵まれない時期には厳しく王政に徴税されて、その日食べるものもない……なんていう暮らしをしていた」

「そうなんだ。王子が、農民達に苦しい政治を押し付けているんだね」

 ふぅ、と小さく溜息をついてからメビウスは。

「そんな暴君王子を止める人もいないという噂だ。わたしの村は王都からはだいぶ離れた地域の村だったが、シュカ王子は暴政の極みと皆から恨まれていたものだ。シュカ王子の父である前の国王は、わたしと同じ流行病でお亡くなりになって、それからシュカ王子が王位に即位したのだと聞く」

 まるで世界史の中世の世界みたいだと、僕は思った。メビウスから、危機迫る暴政の話を聞くとなんだか心がざわめいてくる。メビウスが肩を落として涙目で言うのだ。

「だからわたしは魔王様に懇願しているのだよ。シュカ王子の暴政を止めてほしいと」

 そこで、メビウスはちらりと気の毒そうに僕を見つめた。

「魔王様は、わたしの話や、公務で様々な死者立ちから天上の国の様子を聞いてくれる。そうして、それを止めたいと願ってくれている。だから、阿月のように以前からオメガを召喚し、フォリーヌ王国へ送り込んでいるのだが、成果は出ていなくてね。どんなに見目麗しいオメガでも、アルファの王子は騙されないと聞く。阿月で5人目なんだ。魔王様が冥界にオメガを召喚するのは。それで皆、天上の国で失敗して命を落としている」

「そうか。だから前に僕に、『まぁた魔王様のお遊戯が始まった』と言ってきたのか」

 メビウスはちょっとバツが悪そうな顔をして

「すまないね。感情的になり、阿月に酷いことを言ってしまった」

「ううん。大丈夫だよ。謝らないで。僕ももし、メビウスの立場だったら怒るのも無理ないと思う」

 そう言った僕を見て、メビウスはしげしげと僕を見る。

「見た目はなよなよしてて弱そうなのに、心は強いんだな」

「え? そうかな」

 メビウスに認められた気がして少し嬉しい。

「無理はするなと言いたいところだが、もし叶うならば魔王様の夢を阿月に叶えてほしい。フォリーヌの暴政を止めてほしいのだ」

「メビウス……」

 メビウスは寂しげに笑うと、自分の仕事に戻っていった。
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