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第1話

第1-3話 来訪者は突然に

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依頼人おきゃくさん、いらっしゃい~
 新月がドアを開けると、一人の女性がいた。上下ともに私服だろうか、たった今家を出たという印象を受ける。しかし、ラフな見た目に似合わず目を赤く腫らしている様子で、肩で息をしてしまっている。彼女は流れる水滴も気にせずにこう叫んだ。
「❝はらい❞の佐々垣さんってこちらですか!?」
 その声は玄関の新月はもちろん、部屋の中にも届いていた。悲痛で、唯一の希望に縋りつく様な願いを聞いた男は、三日月から乳白色の歯を覗かせる。部屋のドアから現れた男は、目を瞑って登場を待っている助手と体を小刻みに震わせ滴っている女性の二人を視界に収めると、表情かおに僅かな喜色を浮かべた。
「ようこそ、、待ってたよ!」
 そのときの男はさながらご馳走を目の前にした舌なめずりする狐のようだったという。

~それじゃあ本題に入りまーす~
「落ち着きましたか?」
 新月が訪問者に冷たい水を出す。それを受け取った訪問者は一気に飲み込むと、ようやくといった感じで深呼吸を一、二回して。
「だ、大丈夫。です。すみま…せん。」ケホケホッ。少し咳き込みながらも礼を言う彼女に佐々垣が、
「そろそろ名乗ってくれないか?名前も知らない人と一つ屋根の下はなんとも言えないおぞましさなんだが」
 と、リアクションを促すと訪問者はアッと思い出したように
「す、すみません!自己紹介まだですね!私は開初 萌(かいはつ もえ)っていいます。ここに来た理由は、同じ会社の同僚についてなんです。その子はとても真面目で無断欠勤なんてしないんです。ですが、最近は出社する様子が全然…。ここに来る前に探偵の人や市役所にも頼んでみました。でも原因は分からないと言われてしまいました…。諦めかけてたところに佐々垣さんがいるって分かったんです。事前の電話もなく急に押しかけたことはごめんなさい。でも、友達を助けたいんです。私にできることなら何だってします。お願いします!」
 自らを開初と名乗った女性は深々と頭を下げて腰を折った。その姿に疑いようがないことを察した佐々垣は小さく溜息をつきながら開初に微笑みかけた。
りょしょー。それじゃあ、君の『希望ねがい』を叶えようか。」そのときの佐々垣はおそらく慈悲に溢れた顔だったのだろう。
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