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第1話

第1-2話 おはようございます、先生

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~先生、帰還。そして登場~
「先生ー、どうしたんですかー」
 玄関から声をかけてみても返事は無く新月の胸中の暗部は広がっていくばかり。少しでも振り払おうと先生の部屋へと早歩きで進みドアを引く。そこには予想だにしない惨状があった。倒れた本棚に散乱した多くの本、その雪崩から人の右手が覗いていた。新月の喉から空気の漏れる音がしたと同時に彼は動いていた。
「先生!先生、大丈夫ですか!?」
 何度も何度も助けたい人の名前を呼びながら本を除けていく。少しずつ腕の全容が見えてきた。新月は意を決して、その腕を引っ張った。全力で。あらん限り。我を忘れて。
いてててててててて、本の山から電話越しに聞いたあの声がした。聞いてか聞かずか、更に力を込めた。すると、
「うわぁ!痛いよ透!」「先生!」「もー力入れすぎだって、痕残っちゃうよー」

ぶつくさ文句を言っているこの人こそ先生。その名も佐々垣 吾坊(ささがき ごぼう)。一見まともな三十代青年だが性格はそうではない。靴は揃えない、いたずらは懲りない、好き嫌いは激しい、……等々。見た目に対しての言動が幼くなりがちという人物。佐々垣 吾坊という名前は新月も佐々垣の知り合いも偽名だと決めつけているが当の本人はノーコメント。

「ところで、何であんな事になったんですか」新月が呆れ半分に問いただすと、叱られた子供の様にばつが悪そうに顔を背け「いやー本を読みながら本棚漁ってたらねぇ…倒れちゃった☆」「た☆…じゃないですよ!」呆れ全部になった新月は、まぁいいんですけど…とぼやきながら
「それじゃ片付けましょう。先生は本を纏めてて下さい。俺が元に戻しますんで」
悪びれもせず無邪気に イエーイ とはしゃいでいる尊敬する人せんせいを温かい目で見つめていた。

 本棚に並べている最中のことである。
「透、『狭辞苑 第2版』はそこじゃないよ。もうふたつ隣。」
「『日本超常一族 東北編No.63』はまだ読んでる途中だから机の上に置いといて」
「あっちの本棚の左端にある『ぼくのおたからものがたり』はそっちの本棚に入れてくれーい」
「…本の位置覚えているなら先生がやったらいいんじゃないんですか?」
「やだよ」「何でですか」「疲れちゃうもん」「俺も疲れるんですけど」「若いからいけるって」「先生って歳いく…」
日常いつものやりとりをしていると、 

ピンー ポンー
不意に鳴るチャイム。来客を告げた間抜けな電子音が二人の会話を遮った。
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