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監獄島を出発してから3時間。
船は予定通り王都スノーリッテンに到着した。
そして港には予想通り側妃からの「至急ネージュの遺体を王城へ」という伝言が届いていた。
「だってさ。どーする?ご遺体さん」
ハーピスの軽口を軽く叩いていなしながら、俺は顔を上げて毅然と言い放つ。
なお、船酔いはハーピスに魔法で浮かせてもらって回避した。
船酔いヒロインとか、カッコ悪いからな!
「ご要望通り、王城へ伺いましょう」
条件もルートも何一つ揃っていないが、恐らくこれがラスボス戦だ。
「不安はないか?」
出会った時よりも随分優しくなったドーパの言葉に頷きを返す。
不安はあるが、皆がいてくれるなら大丈夫だと思うから。
「あいつが何か言って来ても」
「僕たちが言い返してあげるからね!」
双子たちが俺を安心させるように笑顔で俺を見上げる。
本当はとても口が悪い2人が言い返しては反って場がカオスになる気はするが、緊張は和らいだ。
「俺たちは絶対にネージュの味方だから」
囚人だけどねと、どこまでも卑屈さが見え隠れするバッシル。
しょうがないよね、俺だもん。
「道案内は任せておけ」
にっかり笑って意気揚々と歩き出すグランプ。
出会った時から変わらない太陽のような男の背中は、まるで盾にしろとでも言うように俺の視界いっぱいに広がる。
「この先何があっても後悔はしません。貴女の望む先へ進みましょう」
金の髪を潮風に遊ばすドクトは、ゲームよりもずっといろんな顔を俺に見せてくれた。
それは良い方も悪い方もあったけれど、最後は良い方で終わりたい。
「全部解決したら、わかってるよね?」
皆が歩き出した後、後ろからそっと耳打ちしてきたのは想定外の塊ハーピス。
「私は了承していませんよ」と軽く睨めば、意味ありげな流し目を返された。
どんな心境の変化か彼はあれからずっと顔を晒しているため、色気が増してより一層質が悪い存在となっている。
「僕も認めてませんからね?」
「わっ!!?」
ハーピスの後ろから須藤君がぬおっと顔を出す。
全く気配を感じさせなかった出現に驚けば、須藤君は俺とハーピスの間に身体を割り込ませる。
「君に三根さんは渡しません。あの人は僕の婚約者だ」
「もう『元』なんでしょ?諦めなよ」
「嫌です!」
そしてそのまま何やら言い合いを始めたが俺はそっちも了承していないので、どちらも拒否させてもらおう。
というか、中身は男だっていうのにそこは気にならないのか?
須藤君なんて男の時の俺を知っているのに。
そう言おうとも思ったが、どんな返事でも精神的ダメージを被りそうだったので俺は身の危険を感じないドクトとドーパの間に陣取った。
「なんだあいつら。何を騒いでいる?」
「くだらないことでした。気にしなくていいと思います」
「そうですか?では放っておきましょう」
良心2人の間で、俺は側妃に言うべき台詞を頭の中でまとめた。
王子ルートではこの後彼女に今までの罪を突きつけ断罪する。
そして第一王女として晴れてクロマンス王国に嫁ぐのだが、俺は修道女として生きると断る。
それが当初俺が立てた計画だった。
王子ルート発生条件が整ったのかどうかはわからないが状況的には極めて近い今、俺はその計画を実行すればいいだけ、なのだが。
本当に、それでいいのだろうか。
俺は何かを見落としている気がする。
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