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「では作戦内容を聞きましょうか」
島の最西端についた俺はさっそく話を切り出した。
とりあえず施設の玄関を出たところで魔法についての説明を受け、魔法をかけてもらい、その状態で島を一周してみるという流れでここまで移動してきたが、迂闊なことが言えないため、俺たちはまだハーピスから作戦の全容を聞いていない。
恐らくこの状態の俺に何かしらをしでかしてくれるのだろうが、結界魔法を発動していると知られている今は何をやっても無駄なのではないだろうか。
「わかった」
ハーピスは1つ頷くと、顔を上げると同時ににやりと笑った。
それに嫌な予感を抱く前に、
「ところで2人とも、演技に自信はある?」
ハーピスは嫌な予感しかしない言葉を口にした。

彼の説明によると、作戦の概要はこうである。
1.盗聴の範囲内にて結界魔法の効果を試す提案をする。
今ここにいたのは魔物と戦闘していたためだということにして、「なんか結界上手く発動してないんじゃない?」と効果を疑う発言をする。
2.結界魔法の物理無効が上手く機能していないと言う。
ハーピスが魔法、ドクトが物理の攻撃を加え、攻撃がきちんと無力化されるかを試す。
そして両方が機能していることを確認してから「物理無効が機能していない」と嘘を吐く。
3.一度施設に戻ろうと言ったところで、ドクトが俺を襲う(音声のみ)。
ドクトが俺に物理攻撃を仕掛け、俺がそれを喰らい死んだふりをする。
もちろんハーピスはドクトを非難するが、彼は妹のために仕方なかったと後悔を滲ませながら訴える。
以上である。
一部演技どころか、全編ほぼ演技じゃないか。
こいつ、脚本家の才能でもあるのか?
「理解した?ならさっそく実行するよ」
ハーピスは言うなり戸惑う俺たちをスルーしてすぐに盗聴の範囲内に移動しようとする。
なんて行動の早い男なんだ。
だがそれでは困る。
「ちょっと待てーい!!」
俺はハーピスの襟を掴み、彼が「ぐぇ」と呻くのにも構わず島の端を通り越して海の中へ引き摺り倒した。
「冷たっ!?ネージュ、いきなりなにするのさ?」
「いきなりはお前だー!!」
俺はハーピスの抗議もなんのその、被っていた敬虔な修道女の皮すら脱ぎ捨てて彼に猛然と抗議をした。
予め作戦を思いついていて心構えのできている彼とは違って、俺とドクトはまだ何の心構えもできていない。
「こちとらあんなざっくりな説明だけされて「はいそーですか」と実行できるほど豪胆でもなけりゃ演技派でもねーんだよ!」
俺はふー、ふー、と肩で息をしハーピスを睨みつける。
久々に大声でツッコんだら、身体中の酸素が足りなくなったみたいな早鐘が聞こえてきた。
その原因である彼は驚いた顔を一転させると、それを満面の笑みに変え、
「やっぱりあんた、本性隠してたね」
してやったりと海の中から俺の鼻を押した。
「普段からそんだけ演技できてりゃ問題ないでしょ」
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